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    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片235「砂河鹿の歌声が聞こえる中」

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     砂河鹿の歌声が聞こえる中、詩人は砂の上にわずかな文章を書き終えた。

    「決まったかね」

     詩人は立ち上がり、ルジェの目をまっすぐに睨み返した。

    「ぼくは詩人です。自由な詩人です。だから、スヴェル・ヴェルームの断末魔とやらは見ましょう。しかし、それに対して詩を作るかどうかは、自分で決めます」

     ルジェはうなずいた。

    「かまわない。きみの自由だ。決定された自由だが」

    「スヴェル・ヴェルームの生きている部分はどこに」

    「庵の中だ」

     ルジェは住まいとしているその小屋へ歩いていった。

    「砂河鹿。お前も来い」

     ルジェはいった。

    「来たくなかったら来なくてもいい。ぼくは自由な選択が好きだ」

     詩人はルジェの言にかぶせるようにしていった。しかし、砂河鹿は、当たり前のようについてきた。

     小屋は日差しを遮る程度のつくりでしかなかったが、それがなによりもありがたかった。

    「これが……」

    「生ける皇宮だ」

     小屋の中にあったそれは、詩人が王宮にいたときに使っていた寝台くらいの大きさの、なんとも知れぬ材質でできたかたまりだった。どこか動いているように詩人には見えた。

    「わずかながら脈動している。いまだに、この皇宮はなにかを考えているのだ。それによるせいか、この砂河鹿が生まれた村では、奇形児しか生まれなくなっている。君も見ただろう、あの村の住人たちを」

     詩人は答えなかった。ルジェはかぶりを振り、続けた。

    「このかたまりがなにを考えているのか、わたしにもわからない。それでも、この小屋を建ててから半分程度の大きさに縮んでいる。地下にも伸びてはいた。だが、砂をかきわけるとわかるが、もはやこのわずかなかたまり以外の部分はすべて死んでしまったと考えてよいだろう」

    「これを育てようとしたことはあるんですか」

    「ない」

     ルジェは答えた。

    「先にも話したが、幻想帝国でも指折りの知恵ある人間たちが総出で、もっと皇宮自体に体力があるうちに再生させようと奮闘したにもかかわらず、壊死を止められなかった。皇子の従者であるわたしに、なにができる。わたしにできるのは、隔離して、一日でも長く見守っていることだけだ」

    「あの村の住民に、歌にかかわると災いがおとずれるといったのは?」

    「ひとつは未来の記憶にそう書かれていたため。もうひとつは、この庵に誰も来てほしくなかったからだ。わたしが待っていた客以外は」

     ルジェは言葉を切り、皇宮だったもののかたまりを指差した。

    「なにを考えていると思うかね?」

     詩人は答えなかった。ただ、そのかたまりを見ていた。そして、あることに気づいた。ルジェもうなずいた。

    「気づいたかね?」

    「脈動がゆっくりになってきている」

     詩人は簡単にそう答えた。かたまりの脈動は、どんどんゆっくりになっていき、そして、止まった。止まると同時に、ゆっくりと、表面がうっすらと砂に変わっていくのがわかった。

    「死んだのですか?」

    「たぶん。死ぬものは、常にこうだ。ゆっくりとゆっくりと死に向かって進み、気がついたときにはすでにそのときは終わって……」

     ルジェは急にその言葉を切った。詩人も息をのんだ。驚きの色が、二人の顔にありありと表れていた。
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