FC2ブログ

    幻想帝国の崩壊(遠未来長編SF・完結)

    断片236「なにかがそこにはあった」

     ←断片235「砂河鹿の歌声が聞こえる中」 →断片XXX「はじめに」
     なにかがそこにはあった。砂と化して崩れ行くスヴェル・ヴェルームの残骸の中に、なにかがあるのだ。

    「羊膜……」

     呆然として詩人はつぶやいた。

     ルジェは駆け寄り、その「なにか」から砂を払いのけようとした。

     顔が歓喜のそれに変わった。

    「殿下!」

     殿下だと? それに、見えるのは、ひとりではなく、ふたりの身体だが……。

     そうしている間にも羊膜のようなものは表と同時に中から破られた。中にいたのは、ふたりの少年少女だった。

    「殿下……」

     ルジェは涙を流しながら、その少年の足元に深々と平伏した。

    「許す」

     少年の口から、その言葉が出るのを、詩人は確かに聞いた。次の瞬間、平伏したルジェの身体が、急激に分解を始めた。詩人がなにもいえずに見守っているうちに、ルジェはひとかたまりの細かい砂となっていた。

    「お前は誰だ。ほんとうに、伝説に残る、狂える皇子アヴェル・ヴァールなのか?」

     詩人は震える声でたずねた。

     少年は言葉がよくわからないようだった。詩人が自分を指差すと、少年も自分を指差した。

    「ディア」

     少女もまた、自分を指差した。

    「ユミコ」

     詩人はまじまじとふたりの幼い姿を見ていたが、やがて、その場でふたりが身にまとえそうなものを探し始めた。

     このふたりの少年少女は、ほんとうにあの狂える皇子アヴェル・ヴァールとその伴侶である続由美子なのか。

     これも、情報の大海のうちに因果律をもって定められていたことなのか。

     それとも、「神」と呼ばれる存在は実在し、その『自由意志』によってふたりは再び生を受けたのか。

     詩人には、もうどうだろうとよかった。自分が、このふたりを守るそのためだけに生まれた存在であるかのように感じていたからである。

     小屋の外では、詩人が砂の大地に書き記したわずかな文字が、風に吹かれて消えようとしていた。

    『はじめに……』
    関連記事
    スポンサーサイト






    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    【断片235「砂河鹿の歌声が聞こえる中」】へ  【断片XXX「はじめに」】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【断片235「砂河鹿の歌声が聞こえる中」】へ
    • 【断片XXX「はじめに」】へ