私家版オールタイム・ベスト(映画)
邦画ベスト3「飢餓海峡」
これを見たのは敬老の日の映画上映会。老人向けに作られたプログラムで、伊藤大輔の「王将」と「弁天小僧」に挟まるようにしてこれが入っていたのだ。
「忠次旅日記」ですっかり伊藤大輔監督にはまっていたわたしは、「王将」と「弁天小僧」を見るつもりで上映会に混じることにした。当然ながら、わたしがいちばん若い……と思っていたら、高校生くらいの若いのがひとり混じっていたのが印象的だった。今頃ものすごい映画マニアになっているのではないだろうか、その高校生。ちなみに三本立てで入場料は五百円だったから、単に金がなかっただけかもしれないが。
で、まず、「王将」を見た。見てがっかりした。つまらなくはなかったが、面白くもない映画だったからだ。少なくとも、あの「忠次旅日記」の感動はない。
たぶん「弁天小僧」も同じだろうが、まあ、三本五百円だし、わたし好みではないだろうが「飢餓海峡」も見てみるかな、と軽い気持ちでこの三時間の大作に臨んだ。
負けた。内田吐夢監督に、わたしはものの見事に負けた。
三時間があっという間だった。どうせ暗い社会派推理ものドラマだろうと安易に考えていたら、それ以上の迫力ある展開に、わたしはくらくらきた。
日本のミステリ映画で、これ以上に面白い作品をわたしは見たことがない。「天国と地獄」もいい映画だったし、「新幹線大爆破」もすばらしい映画だったが、総合的にはこれがベストである。
戦後間もない日本をわたしは犯人たちとともにさまよい歩き、栄光と悲惨を見た。それで十分だった。
気がついたときにはわたしは映画を上映していた市民会館の外でふらふらとさまようように歩いていた。まるでこの日本が、さっきまで上映していた白黒映画に映し出された戦後間もない日本であるかのようだった。
もしかしたらほんとうにそうなのかもしれない。今の日本は、「飢餓海峡」における焼け跡の日本が見ている悪夢なのかもしれない。われわれは誰一人としてその真情がわからぬあの犯人なのだ。
図書館のDVDコーナーに置いてあるのはわかっているが、いまひとつ再見する気にはなれない映画。もし見たら、自分の人生が音を立てて崩れてしまうのではないか、そう思うのが怖い。
水上勉原作の小説があるのも知っているが、いまだに通して読んだことがない。何度となくチャレンジはしているのだが、読むたびにつらくなってくるのだ。松本清張とは違うつらさがある。文庫上下巻も読むのを躊躇させるし。
内田監督は、どちらかといえば「血槍富士」のほうが評価が高いらしい。時代劇だが、機会があったら後で見てみたいものだ。というよりも、「血槍富士」も見ていない人間が映画のベストを語るなんてやってはいけないことのような気がする。でもやるけど。
「忠次旅日記」ですっかり伊藤大輔監督にはまっていたわたしは、「王将」と「弁天小僧」を見るつもりで上映会に混じることにした。当然ながら、わたしがいちばん若い……と思っていたら、高校生くらいの若いのがひとり混じっていたのが印象的だった。今頃ものすごい映画マニアになっているのではないだろうか、その高校生。ちなみに三本立てで入場料は五百円だったから、単に金がなかっただけかもしれないが。
で、まず、「王将」を見た。見てがっかりした。つまらなくはなかったが、面白くもない映画だったからだ。少なくとも、あの「忠次旅日記」の感動はない。
たぶん「弁天小僧」も同じだろうが、まあ、三本五百円だし、わたし好みではないだろうが「飢餓海峡」も見てみるかな、と軽い気持ちでこの三時間の大作に臨んだ。
負けた。内田吐夢監督に、わたしはものの見事に負けた。
三時間があっという間だった。どうせ暗い社会派推理ものドラマだろうと安易に考えていたら、それ以上の迫力ある展開に、わたしはくらくらきた。
日本のミステリ映画で、これ以上に面白い作品をわたしは見たことがない。「天国と地獄」もいい映画だったし、「新幹線大爆破」もすばらしい映画だったが、総合的にはこれがベストである。
戦後間もない日本をわたしは犯人たちとともにさまよい歩き、栄光と悲惨を見た。それで十分だった。
気がついたときにはわたしは映画を上映していた市民会館の外でふらふらとさまようように歩いていた。まるでこの日本が、さっきまで上映していた白黒映画に映し出された戦後間もない日本であるかのようだった。
もしかしたらほんとうにそうなのかもしれない。今の日本は、「飢餓海峡」における焼け跡の日本が見ている悪夢なのかもしれない。われわれは誰一人としてその真情がわからぬあの犯人なのだ。
図書館のDVDコーナーに置いてあるのはわかっているが、いまひとつ再見する気にはなれない映画。もし見たら、自分の人生が音を立てて崩れてしまうのではないか、そう思うのが怖い。
水上勉原作の小説があるのも知っているが、いまだに通して読んだことがない。何度となくチャレンジはしているのだが、読むたびにつらくなってくるのだ。松本清張とは違うつらさがある。文庫上下巻も読むのを躊躇させるし。
内田監督は、どちらかといえば「血槍富士」のほうが評価が高いらしい。時代劇だが、機会があったら後で見てみたいものだ。というよりも、「血槍富士」も見ていない人間が映画のベストを語るなんてやってはいけないことのような気がする。でもやるけど。
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Re: 山西 サキさん
見て損はない映画だと思います。老刑事役の伴淳三郎氏がコメディアンとは思えぬ実に重厚な演技でいいんですよ。最後の船上のシーンなんて最高です。
重いテーマの映画ですが、三時間があっという間でした。内田吐夢監督、恐るべしです。なにせ無声映画時代から映画を撮っておられたのに、戦後もこんな大作を監督されるんですからねえ……。
「天国と地獄」がお好みなら、サキさんも気に入る映画ではないかと思います。
重いテーマの映画ですが、三時間があっという間でした。内田吐夢監督、恐るべしです。なにせ無声映画時代から映画を撮っておられたのに、戦後もこんな大作を監督されるんですからねえ……。
「天国と地獄」がお好みなら、サキさんも気に入る映画ではないかと思います。
そんなにいい映画ですか。
サキも観てみようかな?
「天国と地獄」とても素敵でした。
が、総合的にはこれがベストですか。
でもやめた方がいいのかな。
自分の人生が音を立てて崩れてしまっては
少しだけ困るもの……。
サキ
サキも観てみようかな?
「天国と地獄」とても素敵でした。
が、総合的にはこれがベストですか。
でもやめた方がいいのかな。
自分の人生が音を立てて崩れてしまっては
少しだけ困るもの……。
サキ
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