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    「ショートショート」
    ミステリ

    クライング・ダッチマン

     ←エドさん探偵物語:13 一撃の理由 →ある詩人への挽歌
    「魔法の言葉よ。今晩までに、それを手に入れなくちゃいけないの」
     綾音は、真っ青な顔をしていた。あたしは、うんざりしながらその言葉を聞いていた。
    「魔法の言葉って、なによ」
    「わからない。わからないけれど、それを手に入れなければ、あたしは死んでしまう……」
     ここは山上高校。今は昼休み。あたしは弁当を食べている。綾音はいらいらと考えている。
    「どうしたのよ、まったく」
    「沙紀のこと、覚えてる?」
     愚問だ。
    「きちんとお葬式にも行ったわよ。ひと月前に。忘れるわけがないじゃない!」
    「あの子から聞いたの。夢の話を」
    「夢?」
    「そう。『クライング・ダッチマン』。沙紀は、あいつに殺されたのよ!」
    「どういうこと? 沙紀が死んだのは、突然の心不全じゃなかった?」
     あたしは、ちょっと興味を抱いた。ちょっとだけだ。
     綾音は、声を潜めた。
    「最初は、あたしも半信半疑だった。……沙紀があの話を持ってきたのは、あの子が死ぬ前日のことよ」
    「クライング・ダッチマン……『泣き叫ぶオランダ人』、ねえ。」
     綾音はうなずいた。
    「沙紀も、友達から聞いた話だっていってたわ。それは……」

     綾音の話を、簡単にまとめれば、こうなる。
     1。呪いが存在する。
     2。ひと月に一度、その呪いにかけられたものの中から一人、生贄が選ばれる。
     3。生贄は、ボロボロの服とぼさぼさの頭、垢にまみれた身体で血走った目をした白人男性、『泣き叫ぶオランダ人』の夢を見ることによって他から区別される。
     4。『泣き叫ぶオランダ人』の夢を見た生贄は、その翌日、再び『泣き叫ぶオランダ人』の夢を見る。この二度目の夢は恐ろしいもので、その夢を見た者は死んでしまう。
     5。生贄が死なずに済むためには、「泣き叫ぶオランダ人」に対して、魔力ある言葉を唱えねばならない。
     6。この呪いは、他人に伝えることによって伝播していく。

    「なによそれじゃ」
     あたしは、笑いながらいった。
    「あたしを、この呪いに巻き込もうっていうわけ? そんな恨まれるようなこと、あたし、した?」
    「そんなんじゃないのよ」
     綾音はいらいらと首を振った。
    「あなた、常識では考えられないことを考えるの、得意でしょう? だから、魔法の言葉も知っているんじゃないかと思って」
     買いかぶりもはなはだしい。口をとがらせかけたあたしに向かって、綾音は叫んだ。
    「だってあたし、見ちゃったんだもの!」

     その翌日、綾音は急に死んでしまった。寝ている間に、心不全で。その顔は恐怖に歪んでいたという。

     綾音が最後に話してくれたことを、あたしは、誰にも伝えられなかった。綾音との会話は、一語一句全てが頭の中にこびりついていたが、そんなことを話したら、あたしは気にしないでもいいはずの責任まで背負い込むことになる。
     理由はそれだけではなかった。怖かったのだ。綾音の死と、こんな変な都市伝説とはなんの因果関係もないはずなのだが、もし呪いが現実にあるとしたら……そんなことに友達を巻き込むわけにはいかない。
     甘すぎるだろうか?

     あたしは甘すぎた。ひと月後、あたしはボロボロの服とぼさぼさの頭、垢にまみれた身体で血走った目をした白人男性の姿を夢に見てしまったのだ!

     仮病を使って、学校を休んだ。学校へ行ったら、誰かにこのことを話してしまいそうだったからだ。死ぬのだったら一人で死のう、あたしはそう決めたのだ。
     それでも、死にたくないのも本当だ。あたしは脳細胞をフル回転させて考えた。
     綾音とのやりとりがリアルに甦る。
    『魔法の言葉よ。今晩までに、それを手に入れなくちゃならないの』
     どんな、魔法の言葉があるってのよ!
     あたしは頭をかきむしった。かきむしってみるものだ。あたしの頭に、なにかがひらめいた。

     その晩、夢の中で、あたしは『泣き叫ぶオランダ人』とにらみあっていた。
     オランダ人の眼は狂気にぎらつき、その手はあたしを絞め殺そうとでもするかのように握ったり開かれたりしていた。
     あたしは、オランダ人が動き出す前に、息を吸い込んで『魔力ある言葉』を唱え始めた。考えてみれば、たわいない話で、魔法の言葉は、あたしのすぐ目の前にあったのだ。あたしが知っている言葉で、魔力があると断言できるのはひとつしかない!
    「『魔法の言葉よ。今晩までに、それを手に入れなくちゃいけないの』『わからない。わからないけれど、それを手に入れなければ……』」
     あたしをこんな呪いに引き込み、友達を二人も奪ったこの言葉に魔力がなくてどこにある。
     立ち去れ、オランダ人!
     あたしは凍りついたように動かなくなったオランダ人に、言葉を投げかけ続けた……。
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    忘れないとビリーバーになるかカルト信者になるかのどちらかです(笑)

    それは極端な話ですけれど、わたしが学生のころの「ムー」、文通コーナーからしてものすごかったもんなあ。「世界の終末が近づいています。わたしといっしょに戦ってくれる人を探しています。青い虹の夢を見た人が仲間です」みたいなことが山ほど。腹を抱えて笑いましたが、やってるほうは真面目だったんだろうなあ。

    連鎖の呪いでリングの貞子を
    突然の心不全で、デスノートを想い浮かべたYUKAです^^;
    ホント私って、文学の知識に乏しくてすみません><

    こういうの、好きです。
    女子中高生の時は、この手の話ばっかりだったなぁ~~
    と、変なとこで感慨深かったです^^


    哀しいかな、大人になるとほとんど忘れてるんですが^^;;

    Re: 神田夏美さん

    いやーそりゃ男視点でこの話を書くこともできましたが、「魔法」だとか「都市伝説」だとかいったらやっぱり女子中高生でしょう(^^)

    この作品のもととなったアイデアは、過去にいくつも名作が書かれています。たいていのパターンは、呪いをかけられて死んだ少女の話を読んでいたら、実はその作品自体に呪いがかかっていて、「読んだあなたが呪われるのですよ! バーン!」というやつ。で、こうしてそれを破る方法を思いついたときには、部屋でガッツポーズしました(^^)

    問題は、それをうまく、不自然じゃなく料理するのに失敗したということですね(汗)。もうちょっと自然に怪談っぽく書ければ、それなりの作品になったと思うのですが、ショートショートになってしまいました。だから時間ができたら改作したいです。

    系統が違うというより、わたしが「古い」んですよね。昔はアマチュア作家が書くといったらどこへいってもこういうワンアイデアストーリーばかりだったんですが。

    むむむ。(←一気に老け込んだ気分(笑))

    NoTitle

    ポール・ブリッツさんの作品で女の子の一人称作品を読んだのは初めてのような気がするので、何だかものすごく新鮮な感じで読ませて頂きました。

    たわいもない言葉とかすぐ身近にあるものって見落としがちですよね。そういう見落としがちな隙みたいなものを、上手くつくことで、こういう面白い伏線とかトリックができたりするのでしょうねー。

    ポール・ブリッツさんの小説は私と全然系統が違うので、読んでいて色々勉強になります^^
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