「ショートショート」
    SF

    チャンスメーカー

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     認めざるをえないが、人間には「チャンス」というものがある。それがなければ、なにひとつとして始まらない。

     その日も、ぼくの通う大学では、マッドサイエンティストみたいな教授のもと、わけのわからない研究がなされていた。ラボに詰めている律儀な学生はぼくひとりきりだ。最近の研究テーマは、人間と人間との関係性の数量化、定量化だという。

    「わしは思うんじゃが」

     教授はいった。

    「人間と人間の間には、一種の……なんというか、好機、チャンス、というものが存在するのではあるまいか?」

    「チャンスくらいあるでしょう。人間なら、誰だって信じてますよ」

    「おぼろげに信じることと、しっかりと立証することとは違う。わしは、立証したいのじゃ、立証を。だからきみ、実験台になってはくれんかね」

    「前に、人工えらの実験台になったことがありますよね。あのときは誤嚥性肺炎寸前のところまで行ったんですけど」

    「かわりに、単位とAはやったではないか」

    「じゃあ、今回も単位を」

    「考えておこう。働き次第じゃが」

     かくしてぼくは、頭に変なヘッドギアをかぶせられ、センサーだというところの変なメーターのようなものを持たせられ、大学中をうろうろするはめになった。ヘッドギアは帽子で隠したけれど、メーターを持っていたら不審人物以外の何物でもない。

     変な実験を引き受けちゃったなあ、と思いながら、ぼくは律儀にあちらこちらをセンサーで調べてみた。なるほど、教授は確かになにか理論を持っているらしい。ぼくがノートを借りることがある親しい友人や、講義を取っている教授や講師にセンサーを向けると、メーターに反応が出てくるのだ。

     面白いことは面白いけれど、この機械、なんの役に立つんだろう。首をひねったその瞬間、メーターが大きく反応した。

     何事かと、ぼくはそちらのほうを見た。はっきりいって十人並みだがちょっとかわいい女子学生が、ぼんやりとそこに立っていた。

     ぼくはまじまじと、その娘と機械の反応とを見比べた。この反応ぶりは、ただごとじゃない。

     女子学生が、ぼくに気づいた。

    「あの、なにか?」

    「いえ、その、機械が。はは、あなたに反応を」

     女子学生は、くすりと笑い、ぼくのそばに寄ってきた。

    「面白い機械みたい。その、機械について教えていただけませんか? そこの学食で」

     ほんとうにぼくはこの娘と縁があるのか。でも、たしかにこれはチャンスだ。教授の理論が正しいかどうかのいい試験材料になる。

     学食でコーヒーと安いチョコレートパフェを二人前頼み、席へ持って行き、その娘と向かい合った。たがいに名乗りあい、当たり障りのない話をした。好きな歌手だの、行きたい国だの。話は意外と合った。

     話をしているうちに、ぼくもなんだか、この娘と深い縁で結ばれていてもそれはそれでいいような気がしてきた。

     やがて、その娘は笑いながらいった。

    「それで、その機械は、いったいなんなの?」

     ぼくは笑ってごまかし、話をそらした。女子学生は首をひねりながら立ち去っていった。ぼくは機械を見た。当たり前だが、メーターにはすでになんの反応もなかった。

     教授のもとに戻ったぼくは、この機械を教授に返した。

    「単位はいいです」

     疲れきった声でそういうと、教授はいつもの声で問いかけてきた。

    「きみが単位をほしがらないというのはかまわんが、この機械、成功かね、失敗かね」

    「たぶん成功だと思います。だけど、教授は人間に許された領域を超えてしまったと思います。ぼくは、この機械、もう二度と見たくありません」

    「惜しいな。まあ、きみみたいな正直のうえにバカがつく人間には不向きな研究だとは思っていたがね」

     なんとでもいえ。ぼくにはぼくでやることがあるんだ。

     とりあえず、もう一度お茶に誘うことからやり直そう。あの娘との間に縁があり、ぼくの前にチャンスが開けているのなら。



     そして月日は流れた。今のぼくの胸には、ある種の疑惑がある。ほんとうに、教授はチャンスについての機械を完成させたのだろうか。魚眼レンズがあれば、機械が向けられた先にいるのが誰なのかはわかるし、無線の技術があれば、建物の中からメーターを上下させることは可能だ。マイクがあれば、その場の声も拾えるだろう。

     ぼくには、あれが周到にセッティングされた「見合い」のような気がしてならないのだ。彼女が首をひねりながら席を立ったのも、ぼくをその気にさせるための演出ではなかったろうか。

     証拠もないわけではない。新婦側の親族席にいるのは、新郎側関係者で式に出てくれとの頼みを断った教授ではないか。彼女の話では、遠縁にあたるという。

     そしてぼくは思うのだ。やがて生まれるだろう子供が大きくなったら、ぼくもこの手で行こう、と。チャンスひとつでも、コントロールできればそれにこしたことはないからだ。
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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    世の中にはアリストテレスやレオナルドダビンチみたいな「万学の天才」という人がいるものなのです。……特にフィクションの中では(笑)

    こういう困難があれば思い切りがよくなるのかもですね
    教授は本当は心理学を研究してるんじゃ?

    Re: YUKAさん

    ものすごい美人がいた場合、教授は機械の設定を「エラー」にして自分で駆けつけるから大丈夫(笑)

    もしかしたらこの小説中いちばんの常識人はこの教授かもしれん(笑)

    おはようございます(* ̄▽ ̄*)ノ

    ほほう。なるほど。

    その気にさせる機械ってことですね^^
    逆に、凄く好みでも何の反応もしなかった場合
    哀しいのだろうなぁ、とか思ったり。

    ま、それが縁ってものでしょうけど(笑)

    Re: LandMさん

    教授はほんとうに因果のセンサーを発明したのか、研究室からカメラとマイクで監視してセンサーの目盛りを人為的に操作していたのか、答えはどっちだ!(笑)

    どっちにしてもすごいけど(^_^)

    ・・・因果っていうのですかね。これを。
    まあ、それを拾うセンサーというのはあっていいと思います。
    ただ、拾うだけではあまり実用性は低いような気もする・・・がそれをすると神学の話になるか。

    Re: 小説と軽小説の人さん

    マッドなサイエンティストじみた人だけどそこまでマッドではない気もしています(笑)。

    人工エラについては、実際に研究なさっておられる人がいたはずですが……ええとどこかな。これか。

    http://elekitel.jp/elekitel/special/2005/08/sp_01_b.htm

    世の中にはまだまだセンス・オヴ・ワンダーがあふれているのでありますなあ……。

    ヘッドギアはフェイクで、教授の研究はまだ続いている。女子学生の方に機械がずっと仕込まれてるにちがいない。
    だって、マッドなサイエンティストだから。

    人工エラの方が気になってたり(笑)
    • #10289 小説と軽小説の人 
    • URL 
    • 2013.04/21 15:11 
    •  ▲EntryTop 

    Re: miss.keyさん

    伏線、というか、「目的因」というものに対しては、現実世界では究極的にはそんなもの存在しないのではないかと思っています。

    そういえば、チェスタトン先生が面白いことをいってました。

    「『自分は神だ』と思うこと以上の、この世の中でいちばん傲慢な妄想は、『正気なのは自分だけだ』と考えることです」

    ブラウン神父譚だったっけガブリエル・ゲイルものだったっけ。

    我ながら、なんとかな鉄砲もなんとか、というくらいに書きまくってますので、どうかゆるりと、お好きなところからお読みくださいね~。

    Re: 火消茶碗さん

    なんというか、とりたてて「美人」というわけではない平凡なそこらへんにいる女の子だけど、どこかこう印象的、という描写をしようと思ったらこうなっちゃったのであります。

    修行が足りなくてあい済みませぬ(汗)

    それにしても、こういうオチで「SF」に入れるには無理があったかなあ。でも「ユーモア」だとネタが割れるしなあ。

    周りは皆宇宙人

     こんにちは。お邪魔します。
     色々楽しく読ませてもらっています。昔々の話など構成がとても上手ですね。勉強になります。
     この話を読んで思い出したのが、「実は周りは皆宇宙人で、自分は観察される為に虚構の世界に置かれている」という奴です。誰でも一度は想像した事があるのではないでしょうか。
     総てがお膳立てされた中にあると思い始めると、偶然や幸運、気まぐれや墓穴まで総て予定調和のような気がしてきます。となると、さて、今日、私がしでかした焦げたフライパンは何の伏線なんでしょうね。

    読ませていただきました。

    はっきり言って、十人並みだがちょっとかわいい、という表現がなんかイメージしづらいです。
    ちょっとかわいいなら十人並みではないのでは?と、思うんですよ。脳内再生されるのは、どう見ても可愛い女の子になってしまう。

    そんな女の子に惚れられるとは、主人公がうらやましいですね。

    面白い話でした。
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