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    兵士の務め

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     とにかく、なんで神様は兵士なんかを作ったんだろうと、そう思うよ。まあ理屈ではわかっているよ。兵士は国を守るためにいる。兵士が戦わなければ、国は滅びる。それが道理というものだ。

     わたしはそんな兵士の一族に生まれた。親は、「軍人」と呼ばれたがっていたが、わたしにしてみれば、「兵士」だ。一族でいちばん出世しても少佐どまりだからな。かわりに、下士官は多数輩出していた。たたき上げの古参兵というやつだ。

     そんな家庭に生まれたから、わたしも当然のごとく一人前の兵士となるように鍛えられた。信じられるかな。小学校に上がる前から、猛烈な肉体的鍛錬を課せられたんだ。ちょっとでもさぼろうとすると、鉄拳が飛んだな。いやはや、厳しい両親だったよ。

     父親? そのころは准尉だったな。わたしが十歳の誕生日を迎えると同時に、准尉から試験を受けて少尉に昇進したんだ。そのときの家族の興奮ぶりは、今思い出してもすごかった。昇進パーティーを一族総出で行なったんだから。少尉といったら、これはもう立派な「士官」だ。わたしが十歳の誕生日を迎えたことなんて、すっかり忘れられてしまったほどだ。嬉しさのあまり、父親はわたしを殴った。そういう家庭なんだ。嬉しければ殴るし、悲しくても殴るし、びっくりしても殴る。殴ることで、心が通じると思っていたんだな。

     中学を出たところで、わたしは軍隊に入れられた。軍隊の飯を食うのは早い方がいい、と父親が判断したからだ。士官学校に入るだけの頭はない、と踏んだんだろう。まあそれは当たりだな。あれだけ殴られていては、頭がよくなるわけはない。

     軍隊生活では、さんざん殴られたものだ。要領が悪いうえに怠け者と来ているから、殴られるか、制裁として訓練を増やされるか、どちらかだった。まあ、頭が悪い働き者は銃殺にせよ、というのが当時はやったジョークだったから、わたしも怠け者を決め込んだんだがね。さんざっぱら殴られ、猛訓練を受けたから、わたしはみるみるうちに筋肉がつき、体力がつき、一年もしないうちに肉体的には立派な兵士になっていたよ。

     軍のほうでも、わたしの肉体には目をつけていたようで、三年目には、軍隊内でも最精鋭といわれる、第一七七突撃歩兵連隊に配置換えされた。最精鋭といわれるだけあったねえ。どいつもこいつも生まれつきの兵士みたいな面をして、パワードスーツなしでも主兵装の三十ミリ突撃機銃を軽々と抱え上げて撃てるようなやつばかりだった。そしてわたしの直接の上官である大隊指揮官となったのは、いまや少佐に昇進していたわたしの父親だった。

     やりにくかっただろうねえ。なにせ実の息子と来ている。ちょっとでも甘くすれば、周囲から非難を受けるというわけだ。鉄拳の量はそれまでの五倍くらいになったよ。鉄拳では足りなくて、衝撃棍棒まで使われたな。衝撃棍棒を知らないのか? 神経を刺激する電磁波を使うことにより、普通の棍棒よりも痛さが三倍、その痛みも長期にわたって続くんだ。もう殴られた殴られた。がんがんに殴られた。おかげで身体は丈夫になった。

     それからさらに時間がたち、わたしも二十になるころには、いつしか軍曹にまで昇進していた。軍曹だからといって殴られないわけではなかった。上官が父親だから、「誰にもえこひいきしない」ということを示すためにもわたしを殴る必要があったんだ。周囲で聞いたら、軍曹になってまで、衝撃棍棒で殴られているのはわたしくらいだということだった。

     そのうち、戦争が始まった。隣接する大国とのささいなもめごとが、あっという間に燃え上がって、歴史を通してもめったにない大戦争になったんだ。一七七突撃歩兵連隊は、先制奇襲攻撃作戦の主力のひとつとして最前線に送られることになった。あとはみんな知っての通りだ。

     え? なぜあんなことをしたのかって?

     わからないかなあ。長い間の軍隊生活で、もうわたしは殴られることに飽き飽きしていたんだ。このまま戦争が続けば、戦死の可能性も非常に大だし、なにより殴られ続ける生活から永遠に抜け出せない。それよりは、ここで軍隊を脱走し、敵に駆け込んで攻撃計画と連隊とを売れば、奇襲攻撃をくじかれたうちの国は、大国との力の差で速やかに戦争に負けるだろう。大隊規模の機密情報については父親のコンピュータから失敬したし、そこから推測すれば敵にもあらかたの計画はわかるはずだ。そして事態はそうなったじゃないか。

     良心が痛まないのかって、痛むわけがないだろう。人殺しとか争いごとって嫌いだし、もとから兵士って柄じゃなかったんだよ。あれだけ殴られたら、国家に対する忠誠心なんて生まれるわけがないしね。少なくとも、今のわたしは、国を売って得た金で農場も買ったし、嫁さんももらったし、二度と殴られることのない生活を楽しんでいる。身体は丈夫だから、きついといわれる畑仕事も苦にならない。三ヵ月後には、子供も生まれるんだ。将来は子供の選択に任せるよ。うちの両親も、あのときひとこと、「なりたいものになれ」とさえいってくれたら、兵士なんかにはならなかったし、こんな回り道をしなくてもすんだんだがなあ。

     あの戦いでわたしの父親が戦死したことはどう思うのか? まあ、仕方がないんじゃないのかな。戦って死ぬのは、「兵士の務め」なんだから……。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    「ランボー」がまさにこういう話でしたね。

    もっともアメリカ軍のやりかたは、「フルメタル・ジャケット」を見ればわかるとおり、一度人間の自己意識を根本から破壊し尽くしてからもう一度組み立てる、というものなので、この小説のような事例は起こりにくいのですけど。

    Re: 真城 青瑛さん

    だからこういう人は初めから兵隊なんかなっちゃいけないんです。(^_^;)

    軍国主義になるとこの当然のことが理解されなくなるんです。

    恐ろしいことです。

    まあ戦争は結構傷を残すものですからね。
    わりかし、アメリカ兵が徴兵を終わった後の精神病を患うのもよくある話ですからね。それを考えるのと、逃げるのも手なのかもしれないですが。

    脱走して敵に情報を売って金を得て平凡な生活を手に入れる

    僕から見たら要領が良くて頭も良く思えるんですが(笑)

    Re: limeさん

    そういう意味でこの小説のやりきれない結末は、人類世界で戦争というものが始まった時にすでに決定されていたのかもしれません。

    戦争も軍隊もイヤですね。まったく。

    昭和初期の日本にこんな人間がたくさんいたら、先の戦争も違うものになっていたかも。

    どっちが悲惨かな。
    どっちにしても、悲惨だ・・・。

    Re: ダメ子さん

    だからよけいにこの話はやりきれないんです。

    とほほほ。

    殴られてこういうことを考えるのは
    わりと頭の良い人の気もしたり
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