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    「ショートショート」
    ファンタジー

    鳥かごと妖精

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     ぼくがその鳥かごを買ったのは、なんとなく、その形に魅かれるものがあったからだ。まるでおばけかぼちゃのようで、どことなくユーモラスで、それでいてどことなく哀愁を漂わせていたんだ。

     とはいえ、ぼくには鳥など飼う趣味はない。餌代だってばかにならないし、だいいち、小鳥を閉じ込めるなんて、あまりほめられたことではないような気がするからだ。

     それでも、この鳥かごはすばらしいアンティークだ。アパートの部屋に吊るして置いておくと、まるで魔法の国のオブジェのように思えてくる。まるで、あつらえたようにぴったりだ。

     そのときぼくは、大学院の修士課程を終えつつあるところで、院に残るか、それとも普通に就職をするか悩んでいた。勤め人になったところで、私学文系の大学院では先行きが見えているし、かといって院に残るのも、自分の適性を考えると、先行きが見えているとしかいいようがない。

     考えていてもしかたがないので、ぼくは修士論文にいそしむことにした。頭がこんがらかりそうなアルベルトゥス・マグヌスの書いたラテン語の本を、ぶつぶつ声に出しながら読んでいると、ふっと、鳥かごになにか光のようなものが瞬いたのが見えた気がした。

     ぼくは本を閉じ、鳥かごを覗きこんだ。鳥かごの中には、なにもなかった。

     気のせいか。ぼくは再び、ラテン語の本に戻った。またも声を出して読んでいると、たしかに鳥かごの中になにかが光った。

     気のせいじゃない。ぼくは、テキストを声に出して読みながら、鳥かごを覗きこんだ。ラテン語の文章を声に出して読んでいると、かごの中で光がゆれ、きらめいた。ぼくは面白くなって、さらに読み続けた。

     光の中になにかがいた。翼の生えた女の子……妖精だ!

     ぼくはびっくりして、本を読むのをやめた。読むのをやめても、今度は女の子は消えなかった。鳥かごの中でのびをして、ぼくを物おじせずに見つめていた。



     それから、ぼくと妖精の静かな生活が始まった。夜、アパートに帰ってから、アルベルトゥス・マグヌスを読み、昼は院の図書館で本をコピーする。どういうわけだか、この中世のスコラ哲学者の本を読むと、妖精は元気になるようなのだ。

     ぼくは、アルベルトゥス・マグヌスが木と銅と蝋から、人造人間を作り出したという逸話を思い出した。もしかしたら、この神学者が作り出した人造人間とは……。

     まあいい。ぼくはこの学者の本を読むだけだ。修士論文を書かなくてはならないからだ。進路のことなんか、後だ後。



     いつしか、妖精は、かごの中から外ばかり見るようになっていた。ぼくはノートパソコンを叩きながら、ああでもないこうでもない、とやっていた。

     妖精は外を見ている。

     ぼくはなんとなくいらいらしてきた。鳥かごのそばに寄ると、妖精がいちばん好きなアルベルトゥス・マグヌスの一節を読み聞かせた。

     妖精は外を見ている。ぼくのほうには振り向きもしない。

    「いったいなにをすねているんだ」

     ぼくは外を見ている妖精に文句をいいかけ……そしてはっとなった。

     ぼくはテキストを閉じると、鳥かごを開けた。妖精は、当たり前のように鳥かごを抜けて、窓から外へと出て行った。

     心は決まった。



     就活には遅すぎたかもしれなかったが、ぼくは頭を下げに下げて企業を回り、冬が来る前に、なんとかひとつの会社に滑り込みで内定を取ることができた。

     妖精はぼくの心の現れだった。そう解釈するのが妥当だと思えた。

     ぼくは広い世界を見て、もまれるべきだと、無意識のうちに気づいていたのだろう。それが、あんな妖精の形をとって現われたのだ。

     修士論文を書き上げたぼくは、ふと目を上げて鳥かごを見た。

     なにかが光ったような気がしたのだ。

     気のせいだった。安全なかごの中にいられる時間は、もう終わったのだ。

     ぼくはこれから飛んでいくのだ。危険だらけのほんとうの世界へと。
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    ~ Comment ~

    Re: ROUGEさん

    わたしも出戻りのドロップアウト組です。外の世界に出て行く前にドロップアウトしてしまいました。

    その後悔が、この作品を書かせたのかもしれません。

    そのあたりのことを詳しく書くといきなり話が重く……(^_^;)

    素敵なお話ですね。
    多分読み手は色々な想像をかきたてられるでしょう。

    かごの鳥ならぬ、カゴの妖精・・・

    自分の子供の頃を思い出しました。
    カゴの中が嫌で家出を繰り返してたんです。
    で、その度に世間の厳しさを知って・・・
    私は結局戻っちゃったんですけど(^^;

    でも外に出たことを後悔はした事無いですから
    「ぼく」も頑張って欲しいですね。

    非日常に憧れても、そこに行った途端
    それが日常になってしまう。
    だから今を頑張るしかないんですよね~

    なんてね。

    Re: 鍵コメさん

    いや、妖精が出てくるくらいでしたら、ただの偶然の一致ですよ。そんなこと気にしていたらブログなんか更新できません(^_^;)

    だからどんどん更新しちゃってください。どんな妖精ストーリーなのか楽しみにしてます!

    Re: ダメ子さん

    それはあなたのお姉ちゃんの心というものがなんかもうなんでもいいから幸せになってください。

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    鳥かごの隅で妖精が微動だにしないって
    お姉ちゃんが言ってました

    Re: limeさん

    これを書いていたときは、

    「おおっ! ファンタジーだぜおい! わたし抒情詩人いけるんじゃないか?」

    などと考えていましたが、冷静に読み直してみると、昔はやった単なる「育成ゲーム」だったことに気づき、がっかりしたものであります。たはは(^_^;)

    まあこのショートショートのキモは「逃がす」ということにあるわけですので別にいいですけどね。(^_^)

    モラトリアムな時間の、終わりですね。
    詩的で、ファンタジックなお話でした^^

    さて、このぼく、ちゃんとやっていけるでしょうか。
    ことあるごとに、この妖精が出てきたりして・・・。
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