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    「ショートショート」
    SF

    彼方を見た男

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     わたしは病室に、友人を訪ねた。

    「やあ」

     友人は、わたしが来たことに気づいて笑顔を見せた。わたしは複雑な気持ちになった。その目には、厚く眼帯が巻かれていたからだ。

    「なにを考えて、どんな面をしているかはわかるぜ」

     その強がりが、ますます悲惨だ。

    「ウソじゃない。おれは、彼方を見たんだ。星の彼方、宇宙の果てを」

     友人は頑固に強弁を続けた。

    「おれの研究テーマは知っているな。視覚を情報に変換するシステムの解明だ。それがあれば、人類は生まれつきの目と同等以上の義眼を手に入れることができる」

     わたしは黙っていた。その実験が失敗したから、友人はここにこうして寝ているのだ。機械を使って目をいじくるのは、まだ人類には許されていない技術なんだろう。

    「おれは失敗したわけじゃないことが、どうしても誰もわかってくれないんだ。いいか、おれは彼方を見たんだ」

     友人は、立たせたベッドにもたれかかった。

    「彼方はすばらしいところだった。そこは地球より遥かにすばらしい。ほんとうだ。情報の目でクエーサーを見たことがあれば、おれの言葉もわかるはずだ。やめたほうがいいが」

     友人は恍惚とした表情を浮かべた。

    「あれは爆発だった。見たものにしかわからない。その灼熱と光が生み出す洪水のような情報、そんなものが降着円盤なんてつまらない言葉で語れるか。おれはクエーサーをじかにこの目で見て、太陽を直視する以上の刺激を受けた。……その顔を見ると信じていないな」

     くっくっと喉の奥で笑い、友人は続けた。

    「おれの見たものはクエーサーにとどまらなかった。半ば灼かれながら、おれはさらに果てまで見た。宇宙の創造を。ビッグバンの直後の熱と光の宇宙を。情報の溶鉱炉を」

    「きみがその目で見たものは、クエーサーでもなければ、宇宙の創造でもない。きみが自分の目を使って実験していた、視覚と情報を操作する機械に、ノイズが混入してきみの視神経が焼き切れただけだ」

     友人は声を上げて笑った。

    「おれがそんなことを知らないとでも思っているのか? ノイズが混入するように妨害行為を働いたのが誰であるのかすら知らないとでも?」

     わたしは喉がからからになるのを覚えた。

    「き……きみ」

    「ウォータークーラーならそっちだぜ」

     友人は、部屋の隅をまっすぐ指さした。盲人の挙動ではなかった。

    「大丈夫だ、おれの視神経は完全にいかれている。眼球は摘出された。病院の診断に間違いはない」

    「……そ、それでも、き、きみは、『見える』のか?」

    「見えるんだ。正確には、見えると『思って』いる。なにしてるんだ? ハンカチはそっちじゃない。右のポケットからはみ出てるのがわかるぜ。おれは情報の奔流の中から、過去と現在、そして未来にわたるすべての情報を得たんだ。そして、自分が取ることになっているそのとおりに行動しているだけだ。情報の溶鉱炉に目が灼かれる一瞬、すべてが『見え』て、その残像がいまも自分の目の前にちらついている。おれの一生は、死ぬ時までわかっている。満足してその一生を終えることまでもわかっているんだ」

     わたしは周囲を見回した。

    「この病室に、武器になるようなものはない。気にするなよ、あんな婆あ、きみにくれてやるからさ。おれなりの、きみに対する感謝のしるしだ。一生涯を奴隷として捧げてくれるつもりの人間にはちょっと足りないかもしれないがな」

     こいつはどこまで証拠を握っているんだ? そして証拠を公開されてしまったら……だめだ。わたしは、こいつのいうとおり、残りの生涯すべてを使い、奴隷のように仕えるしかない。

    「それにしても、すばらしい、すばらしいところだった! 彼方は! もう一度あの機械をいじることがあったら、おれは喜んで、きみを誘うんだがな。プラトンの、洞窟の比喩を知っているか? まさにおれはあれを体感したんだ! どうだ、暗闇の世界の住人のきみは、おれについて外の陽光ふりそそぐ世界へ来るか?」

    「わたしに目を差し出せというのか」

    「いけないか? 北欧神話のオーディンは、知恵の泉の水を飲むためにミミルに自分の目玉を差し出している。それと同じことだろう?」

     こいつはわたしにその勇気がないことを知っているのだ、敗北感の中でそう悟った。

    「さて、眼帯が取れたら退院だ。まずは義眼を作りに行こうぜ。ついでに黒眼鏡も。楽しみじゃないか?」

     ほんとうに楽しそうな友人の声を聞きながら、わたしは……。

     かたくかたく目をつぶった。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    壮大なSFどころか、ショートショートが一編書けているのも奇跡的な作品だったりします(^_^;)

    もうネタがなくて突貫工事で書いたものですから。なんか最近疲れ気味でほんと。

    そういえば「火の鳥」には人間と機械が逆転して見える男が出てきましたな。おっしゃることとはちとズレますが。

    そういえば、目の情報は所謂信号ですからね。
    それを考えると、結構壮大なSFに・・・なるんですかね。
    昔のSFで脳が人を見ることを拒絶して、人がただの原子と分子の塊にしか見えなく主人公がいましたね。脳がどういう信号を送るか・・というのは結構ネックですね。

    Re: 矢端想さん

    この小説、ほんとうにネタにつまりながら書いたので、どう落とそうもこう落とそうもなく、筆の赴くままに書いたやつですからねえ。

    最後に落語みたいな地口(目の話だけに、目を堅くつぶる)を入れてまとめるのが精一杯でした。休んだほうがいいのかなわたし。

    これはなかなかの傑作!

    けどオチが・・・なかった・・・orz
    これはこれでいいのかな。

    アイデアがすごく面白いし・・・もう少し長めにしてラストに科学的かつどんでん返し的なアッと驚くオチがあればSF大賞ものだと思うのだけどなあ。(←無責任かつ素人考え)
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