「ショートショート」
    SF

    医療シミュレーション

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    「教授、ぼくになんのご用ですか」

     突然の呼び出しに、ぼくは教授の研究室まで飛んできた。死ぬような思いで出世のためだけに娘さんを誘惑した以上、その親には形ばかりでも献身的に仕えねばならない。

    「よく来てくれた。きみを優秀な医師と見込んで、頼みたいことがあるのだ。これを見てくれ」

     教授が示したのは、歯医者の長椅子によく似た、なにかの機械だった。

    「これはなんですか?」

    「これは、わしが長年に渡って開発中の、医療用シミュレーターだ」

    「実際に、パソコンの中で手術の練習をする機械なら聞いたことがありますが」 

    「あれとは違う。いわゆる、診断用のシミュレーターだよ。きみ、われわれ医師の行う診断というものに、限界を感じたことはないかね」

    「たしかに、問診やCT、MRIなんかでは限界を感じたことがあります。患者のことをよりよく……先生、これはまさか?」

     教授はうなずいた。

    「そう。これは、患者の感じているそのものずばりの感覚を、医師の脳内に再現させるシミュレーターなのだ。これさえ実用化されれば、医師は頭痛の位置のわずかな変化からも、病気がなんであるかを特定できる可能性がある」

     ぼくは興奮するのを覚えた。これは医学というものを大幅に変えてしまうだろう。

    「喜んで協力させていただきます」

     ぼくは勢い込んで叫んだ。

    「よし、じゃあ、そこに横になってくれたまえ」

     言葉に従って横になったぼくの身体を、教授は手際良く革のベルトで拘束していった。

    「まず、脳外科の基礎、頭痛からだ。脳梗塞の初期症状の痛みからいってみよう」

     ぼくは、教授の操作のもと、さまざまな頭痛とそれをもたらす病気について学んだ。勉強になる。

    「さて次は、歯の痛みを学んでもらおうか」

     教授はさらりといった。

    「歯?」

     それが脳外科になんの、といおうとしたとき、奥歯の一本に、脳天を貫くような痛みが走った。

    「『マラソンマン』という映画を見たことはあるかね? 人工的に虫歯を作り、そこをドリルで刺激する。面白い映画だったな。きみも生きてここを出られたら、見るといい。今きみが感じているのは、虫歯から神経を引き抜く、どこの歯医者でもやっている行為だ。さて、この嫌な作業を、すべての歯で同時に行ったら、どうなると思うね?」

     ぼくは身をよじって抗議しようとした。教授はぼくの口にゴムを押し込んだ。

     歯が全部粉々になってしまったかと思うような激痛が走ったのはその直後だった。

    「きみが心から娘を愛しているのならこんなことはしない。だがきみは……まあいい。交通事故の、四肢の複雑骨折に肋骨と鎖骨と……全身の骨も複雑骨折してもらおう。それに末期ガン患者の痛みと、内臓破裂と、脱腸と胃穿孔と……とにかくフルコースでいってみようか」

     教授はなんでもないようにいった。ぼくは逃げようとしたが、逃げ道なんてどこにもないのだった。

     実験は一晩中続いた。

     それからも、ぼくは元気で生きている。あんな教授の娘との婚約など、こちらからお断りだ。ことあるごとに、ぼくは教授の残忍さを訴えるのだが、誰もまともに聞いてくれない。

     ぼくには理由もわかっている。

     いま入院している、ここが精神病棟だからだ。お願いだ、誰か鎮痛剤を……鎮痛剤を……鎮痛剤を……。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    なんといっても、マッドサイエンティストものは、先人からのしっかりとしたパターンが完成されているため、非常に書きやすいのであります(^_^;)

    あとは変な発明さえさせれば、オートマティックに話が進んでくれる、というまことに便利な存在。

    裏を返せば発想力の貧困ぶりを白状しているようなものであります。反省であります。たはは(^_^;)

    …最近こういうネタ多いですよね。
    ヘンテコ教授というかなんというか。
    まあ、こういう教授は好きですけどね。
    私もよく出します。

    Re: 小説と軽小説の人さん

    こうして日夜ショートショートをひねくっていると、自分の発想力の貧困ぶりに泣きたくなってきます。

    もうワンジャンプしたいのですが、うむむ……。

    ぎゃー。
    痛いいたい。

    しかし、SFで考える事みなさん、似て来るんですかね。(かく言う自分も・・・)
    でも、こういう扱い方は斬新です。

    突飛もない発想が生まれないかなあ。
    • #10562 小説と軽小説の人 
    • URL 
    • 2013.05/27 21:18 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 矢端想さん

    やだなあホラーだなんて。SFですよ(^_^)

    別に特定のモデルもいませんし(笑)

    これは「ポール・ブリッツ アンソロジー」では「博士の珍発明編」に入る話なのでしょうが、本当は「ホラー」なのでしょう?

    これで教授の娘がアレだったとしたら、自分のまいた種とはいえムゴすぎる。何もいいことがない・・・。

    Re: ダメ子さん

    それはもちろん白百合のように美しく純粋で……(笑)

    恐ろしい話だなあ
    こういう教授の娘ってどんな風なんだろう…?

    Re: 栗栖紗那さん

    なんであれ、「天才を怒らせるのは慎むべき」ですなあ……。

    技術力もさることながら、天才なのでやることが極端でたいへん(^^;)

    教訓「さわらぬ神にたたりなし」(笑)

    こんにちは。

    教授の怒りたるや、凄まじいものがありますね。
    自分に取り入るためにだけ、愛娘を利用したのでしょうし。

    教授の凄さは技術力よりも、娘を大切に思うその気持ちなのかもしれません。

    そして「ぼく」。
    手段は選ぶべきでしたね……
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