「ショートショート」
    ユーモア

    ある脅迫

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     男は、公衆電話にテレホンカードを差し込み、指先だけの感覚でボタンを押した。相手の携帯番号は、すでに頭に入っている。間違えようがない。

     三度の発信音の後、電話はつながった。

    「大関ですね」

    『そうだが、お前は誰だ?』

     怒りがこもった口調だった。無理もない。

    「失礼。博美さんをお預かりしているものです」

    『博美を……博美をどこへやった!』

    「重ね重ね失礼ですが、お声が大きいですね。大関と博美さんの仲は、まだどのゴシップ週刊誌もつかんでいない。だからこそ、われわれも取引のしがいがあると踏んだわけでして」

    『博美は無事なんだろうな』

     相手が声を潜めたのを聞いて、男はほくそ笑んだ。相手も乗ってきている。交渉はこちらのペースで進むだろう。

    「大関がこちらの要求を呑めば、博美さんは無事にお返しいたしますよ。こちらの要求はただひとつ、大関に、明日の取り組みで横綱に勝っていただきたいのです」

    『おれが、横綱に勝つだと? バカも休み休みいえ! そんなこと、できるわけないだろう!』

    「どうしても勝ってほしいのですよ。大関に、ひさしぶりの日本人横綱になってほしいと願うかたが、何人もいらっしゃるのですから」

    『金ではなんとかならないか。いくらでも払う』

    「日本人横綱という名誉の前には、いくらお金をもらったところでしかたありませんな。大関ができるのは、明日の相撲で横綱に勝ち、優勝していただくことのみです」

    『おれのことをそこまで調べているなら、それができないこともよく知っているはずだ。明日の取り組みでは、おれが横綱に負けて、横綱が劇的な逆転優勝を果たし、そして優勝記録を伸ばす、ということで話がついていることも知っているはずだ。その約定を破ったら、うちの部屋の信用ががた落ちし、八百長を引き受けてくれる相手がいなくなる。そうしたら、今後の場所で、うちの部屋は路頭に迷うことになるんだ』

    「存じませんな、そんなことは。存じていたとしても、博美さんの身柄をこちらが押さえていることには何の変わりもありません。大関、明日の相撲では、全力で取って、勝っていただきます。こちらのいいたいことは、これで以上です。それでは」

     男は受話器を置いて、テレホンカードを抜いた。ボックスの横で待っていた車まで歩く間、男は首をひねっていた。

    「おい……」

     乗り込みざま、男は運転手にいった。

    「確認しておくが、おれたち、悪党だよな?」

    「いまさらなにをいってるんですか」

     運転手は呆れたように答えた。
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    ~ Comment ~

    Re: limeさん

    ああ、あのハンドルをガチャガチャやるやつ(^_^)

    母方の実家が、幼稚園ころまであれだったかな? だからわたしはかけたわけではないですが、見たことはあります。

    今からは考えることも難しいですよねえ……。

    あ、そうか、山西さんは、ボケてたのか>< 騙された。

    でもポールさん。ダイヤル式黒電話よりすごいものを私は知っています。

    私の生まれた超ド田舎は、私が小学校の頃はまだ、有線電話でした。
    いや、私はそんな、昭和初期生まれじゃないですよ。(汗)
    今でも、ネットはできないし、有線でつながっているような超ド田舎なんです。

    受話器を上げると、交換手が出る・・・。
    よその家の電話の会話が、混線して聞こえてくる。
    今思えば、すごい電話でした。^^;

    Re: 小説と軽小説の人さん

    日本人横綱さえ誕生させてしまえば後の利用価値は無限ですからね。払うのであればいくらでも払う企業や民間団体はゴマンとありそうですし、存在そのものがリスクである悪党たちが動かないわけはないでしょうね。

    まあ現実にはそんな「バレたら相撲自体のイメージがた落ち」の危ない橋を渡ろうだなんていう人間はいないと思いますが、でも日本人大関連のふがいなさを思うと……(^_^;)

    公衆電話も、現実には網の目のように張り巡らされている防犯カメラのせいで、犯罪に使うにはかなりリスキーなものになっているようです。また新しい手段を考えなくちゃなあ。

    男か組織かは分かりませんが、彼等がこの脅迫で何を得るか。を考えれば、自然とこんな考えが浮かびました。

    『最愛の人を奪われた大関の逆転劇』みたいな映画化?
    フィクションじゃない分、結構な興行になるんじゃないかな。
    それとも、やはり単純にスポンサーから巨額を得られるのでしょうか。
    でも、やっぱり悪党なのか?(笑)

    携帯では足が付きますからね。テレホンカードと公衆電話はなくならない……のかな?

    面白かったです。さすがポールさんと言うお話でした。^^
    • #10579 小説と軽小説の人 
    • URL 
    • 2013.05/29 21:02 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 大海彩洋さん

    はじめまして。コメントありがとうございます。

    悪人のほうが冷静に考えたら当たり前のことをしゃべっている、というシチュエーションを考えたら、どういうわけかこうなってしまいました。相撲の日本人横綱問題になったのは、稀勢の里関の勢いについ筆が。結局、負けてしまいましたけど。うーん、まだボクシングの重量級での日本人チャンピオンよりは歩があると思うんですがねえ。

    テレホンカードについては、山西さんは知っててボケてるんだと思います。(^_^;) そこまで過去の遺物じゃないと思うなテレホンカード。ちなみにわたしは赤電話青電話ピンク電話みんなかけたことがある時代の人間です。幼少時はおろか中学に上がっても黒のダイヤル式電話でした(^_^;) ダイヤルQ2なんて今の人は知らないんじゃないのかな。20世紀は遠くなりにけり。

    ショートショートや長編と、こうして数だけは書いているブログですので、これからもどうか読みにいらして、ごひいきにしてくださいね~!

    はじめましてm(__)m

    時々こそこそとお邪魔しておりましたm(__)m
    ショートの面白みがぎゅっと詰まっているお話がたくさんあって、楽しませていただいておりましたが、今回のはかなりツボに来ましたので、恥ずかしながらコメントを書かせていただきました(^^)

    間抜けだけど一所懸命な悪人……でも、ファン心理としてはこう言いたくなるのって分かる気がします。いっそ八百長感を楽しむまでには至れない純粋さ。とても面白かったです。
    他に何かやりようがなかったんか、って突っ込みたくなるけれど^^; 
    きっと捕まったら、刑事からはそんな説教をされるんだろうなぁ。

    テレホンカード、サキさんのコメント欄を見てびっくり。あぁ、ついにそんな世代の人が……^^; 
    もちろん、最近使っておりませんが、『探偵はバーにいる』で黒電話が出てきても違和感を感じなかった自分の年齢に苦笑してしまいました。でも脅迫電話だし、携帯ってわけにはいかないし…
    とにかく、面白かったです。楽しませていただき、ありがとうございました。

    Re: 山西 サキさん

    こういうマヌケな作品、書き終えると心がなごみますね。書いている途中は額に青筋を立てていたりもするんですが(ホントか?(笑))

    テレホンカードの理解ですが、十年後にはその理解が普通になっていそうで怖い(^_^;) 災害時には携帯よりも役に立つことが証明されたんですけどね、公衆電話……。

    これ、とっても面白かったです。
    きっちり脅迫しているのに何とも間が抜けていて、実は正しいことを言っているのに、誘拐犯?
    面白いです。

    テレホンカード?
    超薄型スマホの新製品ですか?

    Re: limeさん

    稀勢の里関、やっぱり期待を裏切らせたら日本一の人だよなあ。確信犯じゃないのかあの人(^_^;)

    テレホンカード、そういやわたしもこのところ使ってないなあ。昔は外へ出るときの必需品だったのに。時代は移るんだなあ。

    なんか、しみじみ面白いですね。
    もしかしたら、一相撲ファンの願望小説なのかも。
    日本の国技、清くあって欲しいもんです。

    そういえば、テレフォンカードって、まったく使ってないな・・・。
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