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    「ショートショート」
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    ウォッカを飲みながら

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     ぼくはテーブルについている。目の前には酒の瓶がある。ぼくはコップに一杯注ぎ、ひと息に飲み干す。

     よく冷えたウォッカだ。辛く、甘く、背筋をぞくぞくとさせるアルコールが、喉から食道をくぐり、胃袋から腸へと落ちて行く。

     ぼくの頭は醒めている。なぜ、どうして、といった全ての疑問の答えが、頭の中にある。

     ぼくはもう一杯ウォッカを飲む。冷たく舌を刺すアルコールの針。

     脳が冴え渡る。全ての物事は明らかだ。明白なほどに明白すぎる。

     ぼくはウォッカを飲む。どうして人間はこんな簡単なことに気づかないのだろう。

     これは知恵の酒なのかもしれない。北欧神話に出てくる知恵の泉の水。

     ぼくはコップにウォッカを注ぎ、飲む。飲めば飲むほど頭はクリアになっていく。

     どうして酔えないのか、ふとそんな疑問が頭をよぎる。答えはすぐに見つかる。酔えないから酔えないのだ。トートロジー。ぼくは満足して、もう一杯飲む。

     肴もなしに飲んでいるが、まったく酔わない。醒めるばかりだ。

     ぼくはいつからこのテーブルで酒を飲み始めたのか考える。

     冴えた頭は即座に解答を出す。この酒瓶の栓を抜いたときからだ。ぼくは答えに満足する。瓶からコップに注ぎ、ぐいっと飲む。

     醒めた頭で考える。なんで人間はこの酒を飲んで、知恵に目覚めないのだ。これでは、人間世界の不幸はなにひとつ解決しないではないか。解決の手段は、ぼくのこの頭に全部あるのに。

     ぼくは苛立ちながら酒を飲む。腹を立てながら冷たいウォッカを飲む。憤りとともに、ぼくのはらわたで、ウォッカは炎の塊に変わる。炎は心を灼く。心の渇きに耐えかねるかのように、ぼくはウォッカを注いでは飲む。

     飲んでいると、馬鹿な考えのひとつも浮かんでくる。

     ぼくは酔っているのではないか?

     ぼくが考えついた、人間世界の問題の解決策、目の前に開かれている知恵は、全て酔っ払いのたわごと、幻ではないのか?

     ぼくはこのテーブルと酒瓶に、未来永劫縛られて、絶望と憤激の苦しみを味わい続ける、飲酒の罪に落とされた、地獄の罪人なのではあるまいか?

     ぼくはその疑問が、間違いだと知っている。この酒がもたらす知恵が、間違いだといっているのだから。

     酒を飲む。飲んでいるぼくはひとりぼっちだ。いつからひとりぼっちなのか、それは忘れた。

     この酒瓶を開けたのもいつのことだか、忘れてしまった。そう遠い昔ではないと思うのだが、十万年前のような気もする。

     ぼくは人類を呪いながら酒を飲む。

     ぼくは酔ってない。
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    ~ Comment ~

    Re: 矢端想さん

    深遠で恐ろしく思えていただけたなら幸いです。

    なにしろこれを書いたときは、ネタの欠乏と迫り来る時間の前に、「とにかく活字さえ並んでいればいいやこのやろう」という、半ば破れかぶれ状態だったからです。

    正直、手にしたスマホがこんなに恐ろしく見えたときはなかった(^_^;)

    いや、人間、体力と精神面双方で「余力」というものが必要ですなあ。ほんと。

    この作品は酒を飲む男の思考内で完結している「閉鎖系小説」(?)ですね。
    一体どういうシチュエーションなのか、男は何かをしでかしてしまったのか、すでに滅亡した世界にひとり自暴自棄で酒に逃避しているのか、平凡な日常に生きる男の単なる能天気なたわごとなのか、処刑の瞬間に見たつかの間の夢なのか、・・・あるいは主人公は人間じゃなかったりして。
    そのことは読者が想像するしかなく、とてつもなく深遠で、ある意味とてつもない恐ろしさも感じる作品です。

    ひとり酒で酔っぱらって自分勝手な思考に遊ぶのって至福の時間ですよなあ。

    Re: 面白半分さん

    まあどう考えてもそうだよな(^^;)

    あなたは酔ってますよ!
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