「ショートショート」
SF
クリーンエネルギー
「やった……」
歓喜に沸く研究室で、おれは学者の道を選んだ幸運に感謝していた。この三十年、みんなから白い目で見られながら続けてきた人工光合成研究、その実用レベルに足る、植物の二十倍の効率を持つシステムの開発に成功したのだ。
おれの横では、地味ながらも資金援助を続けてくれていた政府の男が、同じく感無量、という表情をしていた。
「やりましたね」
「あなたのおかげです」
おれたちは、がっちりと手を握りあわせた。
「教授の研究は、国家的プロジェクトの一環でした。実用に耐えうるクリーンエネルギーは、今の世界が求めている最重要のもののひとつですからね」
「最重要とまでいってくれると面映ゆいです。このシステムを、国としてはどのように利用されるおつもりですか?」
おれはさまざまな可能性が頭に浮かんでくるのを楽しみつつ、尋ねた。
「ええ、教授の実用化されたこの装置を大量に生産しまして」
「して?」
「まずはアマゾンの伐採ですな」
「は?」
おれは耳を疑ったが、政府の男は夢見るように続けた。
「これで誰はばかることなく、森林資源を有効活用できるというものです。なにせ、こちらには、植物の二十倍の効率をもつ光合成システムがあるんですからね。自然保護団体がなにをしようと、最終的には黙るしかないでしょう」
「すると……このクリーンエネルギーは、自然破壊に使われることになるのですか?」
「開発といってください。教授も、そのつもりでお作りになられたんでしょう?」
誰がそんなことのために、そう叫んでこの男をぶん殴るべきだったかもしれない。
だがおれには、それができなかった。三十年間の資金援助は、それをするにはあまりにも重かった。それに、おれがここで暴れたところで、二十倍の効率をもつ光合成システムが存在すること自体は、変えようのない事実なのだ。
「教授! みんなで写真を撮ります! 真ん中に入ってください!」
弟子たちに押されるように、おれはカメラの真ん前にしゃがんだ。どんな顔をしたらいいのかわからなかった。
おれは学者の道を選んだ不幸を、しみじみと噛みしめていた。
歓喜に沸く研究室で、おれは学者の道を選んだ幸運に感謝していた。この三十年、みんなから白い目で見られながら続けてきた人工光合成研究、その実用レベルに足る、植物の二十倍の効率を持つシステムの開発に成功したのだ。
おれの横では、地味ながらも資金援助を続けてくれていた政府の男が、同じく感無量、という表情をしていた。
「やりましたね」
「あなたのおかげです」
おれたちは、がっちりと手を握りあわせた。
「教授の研究は、国家的プロジェクトの一環でした。実用に耐えうるクリーンエネルギーは、今の世界が求めている最重要のもののひとつですからね」
「最重要とまでいってくれると面映ゆいです。このシステムを、国としてはどのように利用されるおつもりですか?」
おれはさまざまな可能性が頭に浮かんでくるのを楽しみつつ、尋ねた。
「ええ、教授の実用化されたこの装置を大量に生産しまして」
「して?」
「まずはアマゾンの伐採ですな」
「は?」
おれは耳を疑ったが、政府の男は夢見るように続けた。
「これで誰はばかることなく、森林資源を有効活用できるというものです。なにせ、こちらには、植物の二十倍の効率をもつ光合成システムがあるんですからね。自然保護団体がなにをしようと、最終的には黙るしかないでしょう」
「すると……このクリーンエネルギーは、自然破壊に使われることになるのですか?」
「開発といってください。教授も、そのつもりでお作りになられたんでしょう?」
誰がそんなことのために、そう叫んでこの男をぶん殴るべきだったかもしれない。
だがおれには、それができなかった。三十年間の資金援助は、それをするにはあまりにも重かった。それに、おれがここで暴れたところで、二十倍の効率をもつ光合成システムが存在すること自体は、変えようのない事実なのだ。
「教授! みんなで写真を撮ります! 真ん中に入ってください!」
弟子たちに押されるように、おれはカメラの真ん前にしゃがんだ。どんな顔をしたらいいのかわからなかった。
おれは学者の道を選んだ不幸を、しみじみと噛みしめていた。
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~ Comment ~
白戸三平のマンガは、イモが百姓の飢えを救ったという話が多かったですよね。
いしみつ、なつかしい…。
こどものころ、マジで蜜蜂を飼おうとして刺されましたよ。
いしみつ、なつかしい…。
こどものころ、マジで蜜蜂を飼おうとして刺されましたよ。
Re: 山西 サキさん
あれじゃないですか? こないだのNHKのクローズアップ現代。日本が世界をリードしている、とか派手にぶち上げていましたが、採算に乗るようになると、絶対、ロクなことをしないと思います。特に、森林資源の豊富な発展途上国は、誘惑に耐えきれないんじゃないかな。
でもすごいのは白土三平先生ですね。貧しい農民を飢饉から救うためにジャガタライモの栽培方法を探せ、と藩主に命じられた侍が、流浪の果てに栽培方法を知る謎めいた老人の村にたどり着くのですが、老人はこの作物が伝えられたら年貢はより重くなるだろう、と侍を諭し、「すばらしいものが必ずしも人間を幸せにするというわけではない」という意味の言葉を吐くのですが、今になって、そうだよなあ、と日々重みを噛み締めています。
「いしみつ」という作品だったなたしか。
でもすごいのは白土三平先生ですね。貧しい農民を飢饉から救うためにジャガタライモの栽培方法を探せ、と藩主に命じられた侍が、流浪の果てに栽培方法を知る謎めいた老人の村にたどり着くのですが、老人はこの作物が伝えられたら年貢はより重くなるだろう、と侍を諭し、「すばらしいものが必ずしも人間を幸せにするというわけではない」という意味の言葉を吐くのですが、今になって、そうだよなあ、と日々重みを噛み締めています。
「いしみつ」という作品だったなたしか。
人工光合成…最近何かの記事で読んだような気がします。
そのときはすごいなぁ。と思ったんですが……。
そうか、人類ならこんな風に利用してしまいそうな気がしてきました。
ポールさんの発想力に脱帽です。
そのときはすごいなぁ。と思ったんですが……。
そうか、人類ならこんな風に利用してしまいそうな気がしてきました。
ポールさんの発想力に脱帽です。
Re: LandMさん
いつもの小説は傍から見るとどれも変なのか、と思ってしまった(笑) まあそういわれてもしかたない(^^;)
ちなみにこの小説のもとになったのは、白土三平先生の忍者マンガのあるセリフです。やっぱり深いなあ白土先生は……。
LandMさんの新作、楽しみにしてますね~(^^)
ちなみにこの小説のもとになったのは、白土三平先生の忍者マンガのあるセリフです。やっぱり深いなあ白土先生は……。
LandMさんの新作、楽しみにしてますね~(^^)
Re: ダメ子さん
そうしたテクノロジー偏重主義が、日本の原動力であるとともにアキレス腱だと思います。
事業仕分けではないですが、金にならない研究はやるな、みたいな空気がありますからねえとほほほ。
事業仕分けではないですが、金にならない研究はやるな、みたいな空気がありますからねえとほほほ。
Re: 火消茶腕さん
そうなったら、光合成で産出した有機物を消費するなり燃やすなりしてまた二酸化炭素濃度を上げるんでしょうねえきっと。
マッチポンプというか、イヤなプルサーマルというか……人間が発明する錬金術にロクなものはない(^^;)
マッチポンプというか、イヤなプルサーマルというか……人間が発明する錬金術にロクなものはない(^^;)
あ、そっちですね。意外にポールさんにしてはまともな部類なので、安心したような。。。てっきり、クリーンエネルギーだから、人一人の命で電気を生み出すようなエネルギーを想像してしまった。光合成がもっともっとすれば確かにクリーンですね。
リクエストありがとうございます。内部事情を話すと、現状諸事情があって絵師が動けない状況なので、小説版グッゲンハイムで挿絵なしで執筆しようと思います。多分、それこそポールさん好みの小説にしようと思ってます。
リクエストありがとうございます。内部事情を話すと、現状諸事情があって絵師が動けない状況なので、小説版グッゲンハイムで挿絵なしで執筆しようと思います。多分、それこそポールさん好みの小説にしようと思ってます。
- #10735 LandM
- URL
- 2013.06/26 18:35
- ▲EntryTop
読ませていただきました。
なんか数十年後、機械の故障により、人類は高酸素濃度状態による健康被害と大規模火災、二酸化炭素濃度の低下による地球寒冷化に苦しんでいる姿が思い浮かんでしまうんですけど。
杞憂だといいですね。
なんか数十年後、機械の故障により、人類は高酸素濃度状態による健康被害と大規模火災、二酸化炭素濃度の低下による地球寒冷化に苦しんでいる姿が思い浮かんでしまうんですけど。
杞憂だといいですね。
- #10733 火消茶腕
- URL
- 2013.06/26 17:58
- ▲EntryTop
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Re: 冬彦さん
だけどスーパーで蜂蜜をねだったりして、影響受けたのかな。
ひさしぶりに蜂蜜が食べたくなってきました。
白土三平先生は、昔の丸っこい絵のほうが好きです(^_^)/