名探偵・深見剛助(冗談謎解きミステリ掌編シリーズ)

    悲しきアリバイ

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     自分の推理を、深見剛助は沈痛な表情で語っていた。

    「……つまり、あなたは、急行『えど』に乗らなくても、特急『ぐれん』に乗ることができた。あなたのアリバイは崩れましたよ、蟻米さん」

     蟻米、この老いた貧相な男は、うつむいた。

    「お察しの通りです、深見さん。わたしが……」

    「あなたがやったのではないことはわかっているんです、蟻米さん」

    「え? いえ、わたしが殺したんです。さっき、深見さん自らがアリバイを崩したばかりでしょう」

    「赤塚さん」

     赤塚刑事は、手帳をめくって読み始めた。

    「遺体の解剖の結果、死因は持病による急性のくも膜下出血と判明。現場の状況もそれを裏づけています」

    「そ、そんな。わたしはこの手で」

    「やめてください。蟻米さん、事件は存在すらしていなかったんです。あなたは特急に乗れた、それは確かです。だからといって、それだけで殺人事件の犯人になれると思ったら、大きな間違いです」

     深見剛助は、同情のまなざしで相手を見た。

    「犯人になりたかったんですよね、蟻米さん。犯人になれば、みんなの注目を集められる。一躍、重要人物だ。寂しいあなたが、そう考えるのもわかります。同じ立場だったら、ぼくも同じことをしたかもしれません。しかし、日本の警察は、無実の人を逮捕するわけにはいかないのです」

    「わたしが犯人なんですよ! 犯人としてこのミステリに出てきて、檜舞台に立つためだけにわたしは作者に創造されたんだ。その栄誉を、どうして取り上げようとするんですか! あのわかりにくいローカル線を駆け回って、好きでもない電車に何本も乗って、それでわたしが犯人でないなんて、そんな不条理が許されていいんですか!」

    「蟻米さん。あなたが作者に、犯人として設定されたことはわかりますし、ご同情もいたします。しかし、書き出した当初と、長編を書き終えた今とでは、状況がまるで違います。現役のお医者さんからのツッコミ……ご意見で、遺体の状態は、病死以外のなにものでもないことが明らかになってしまったのです。そうである以上、ストーリーは改変せざるを得ません。すべては小説の整合性のためなのです」

    「そんな。そんな無法があるものか。わたしは近所に、今度ミステリの犯人をやるんだぞ、と自慢してまわって。近所じゅうが本を買って読むのに。それが犯人にもなれないだなんて。そんな。ひどい。そんな」

     蟻米はひざを突くと、大声で泣き始めた。

    「副主人公から、一気にピエロにまで墜ちたんだ。気の済むまで泣かせてあげるしか、できないだろう。もしかしたら、古今東西のミステリでいちばん悲しい男は、この蟻米さんかもしれない……」

     深見剛助はつぶやくようにいうと、じっと作者を見つめた。

     なんでわたしをそんな目で見るのだ。


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    ~ Comment ~

    Re: 山西 サキさん

    そんな誰も使ったことがないような便利な殺人トリックがあったら作者のわたしにぜひ教えてください(笑)

    いえマジで(^^;)

    こんばんは。

    でもサキは蟻米さんが真犯人だったような気がしています。
    現役のお医者さんも騙されてしまうような方法で急性くも膜下出血を装ったんですよ。そして深見剛助もまんまとその企みにはまったんですよ。
    ほら、大声で泣きながら顔を見られないようにほくそ笑んでいますよ。
    きっと……。

    Re: ダメ子さん

    しまったそれならグルメシーンを入れとくんだった(笑)

    どうでもいいですが家族の見ている浅見光彦もの二時間ドラマを横で聞いていると、すばらしいまでの警察の捜査能力にイライラしてきますな。西村京太郎や和久俊三、山村美沙原作ではそれほど気にならないんですが。うむむ。

    Re: 和平明憲さん

    作者が現在進行形でその小説を書いている作者という登場人物として小説中に出てくるのは、ミステリよりもユーモア小説の手法でしょうね。例がパッと出てきませんけど。

    それを考えると、「三つの棺」でフェル博士に「われわれは探偵小説の登場人物なのだ」といわせたカーはやはり偉大でありますな。

    ここはサスペンス劇場と見せかけて
    途中下車の旅ってことに…
    それも死人が出てるからダメかな…

    作者が小説の中に登場するというより、作者として読者に話しかけるのはたまに見掛けますね。
    今、読んでいる、カーの「妖魔の森の家」の中の『妖魔の森の家』の始めの部分で、カー自身の語りがあったので珍しく思いました。

    ではでは!

    Re: 名無しさん

    小説ではギャグとしてああ書きましたが、常識的に考えれば押しきる一手ですよね(^_^)

    たぶん潔癖症な作者だったのでしょう(笑)

    挙げられた漫画は読んだことがありませんが、作品の瑕疵に「愛あるツッコミ」を入れながら読むのも、ひとつの読書としてありだと思います。

    少年サンデー連載中の月光条例は、そもそもの設定がおかしいのに気にしないで続いていたりします(^^)
    修正が必要でも押し切ることもありなのでは?

    月の光を浴びると本のキャラクターがおかしくなります。
    5日以内に処理しないと元に戻りません。
    処理してください。
    という感じで処理していくお話なのですが、同時多発的に発生しているはずなので、はじまった日から5日以内に全てを処理しないといけないはずなのに、そうなっていないのです
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