「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 1-4

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    第一章 海の冒険 4

     エドさんも、熊ひげ船長の後に続きました。なにが起ころうとしているのか、その目で確かめたかったのです。

     マストの上では、見張り員が真剣な表情で目を凝らしていました。

    「なにが見える!」

     熊ひげ船長が怒鳴ると、見張りも大声で返しました。

    「信号旗が見えます! 『伝達事項アリ』」

    「伝達事項だと? どういうことだ」

     熊ひげ船長は、望遠鏡を目に当てました。

    「『了解。伝達事項送レ』と返信しろ!」

     水夫たちは忙しく働き、船のマストにはするすると色鮮やかな数枚の旗が掲げられました。

     見張り員はさらに船に対して目を凝らしているようでしたが、やがて緊張を含んだ声で叫びました。

    「返信を確認! 『本海域ニ海賊出現トノ報アリ。可能ナ限リ注意ヲ払ッテ航海サレタシ』とのことです!」

     熊ひげ船長も厳しい声で答えました。

    「こちらも確認した。『了解、情報ヲ感謝スル。航海ノ安全ヲ祈ル』と返信!」

     マストから信号旗が下ろされ、また別の鮮やかな色の旗が掲げられました。

    「あの船より返信ありました! 『航海ノ安全ヲ祈ル』です!」

     熊ひげ船長は、望遠鏡を下ろすと、苦々しげにいいました。

    「海賊か! もとはおれたちもそうだったが、いざこの耳に聞くとなると、忌まわしさしか感じないもんだぜ」

     熊ひげ船長は疲れたような表情をエドさんに向けると、安心させるようにいいました。

    「あまり心配しなくてもいいぞ。この船は武装商船だから、少ないとはいえ強力な大砲が積んであるし、船足はほかのどんな船よりも速い。だから、安心して船旅を楽しんでくれよな」

     エドさんはうなずくことしかできませんでした。勝手もなにも知らぬ海の上です、命を船長に預ける以外のなにができるというのでしょう。

    「しかし、この海域で海賊をするやつがいるとはねえ! 命知らずもいいところだ。硝煙のにおいは、いつまでも鼻にこびりつき、微妙な風のにおいを消し去ってしまうというのに。おれだったら、聖人さまに頼まれようともそんなことは願い下げだね」

     エドさんも、心の中で祈りました。この航海の中、海賊に出くわさないことを、とても強く。

    「熊ひげ船長、『虹ノ都』までは、あとどれくらいの旅路なんですか?」

    「順風が吹けばあと三日というところだ。もう、目と鼻の先だよ」

     エドさんはちょっと考え、いいました。

    「それだけに、注意しなくちゃならないんじゃないですか? ここが……ええと、航路だとしたら、海賊もこのあたりで網を張っていれば、船がやってくることがわかっていると考えていいはずでしょう?」

     熊ひげ船長はうなずきました。

    「だから、おれたちはそれなりに準備を整える必要があるというわけさ。でも、探偵、お前さんはなにもしなくていい。海の上の心配事なら、このおれたちに任せてくれ」

     熊ひげ船長は、エドさんの曇った表情を見たのか、いきなり背中をどやしつけました。

    「なんだ、なんだ、そのしけた面は。さ、こっちで食事にしようや。じゃがいもとビスケットとラム酒くらいしかないが、慣れるとしみじみしてうまいものだぞ。腹にものがたまれば、もっと明るいことのひとつふたつは思いつくもんだ」

     エドさんは熊ひげ船長に誘われるままに船長室に入り、水夫のひとりが厨房から持ってきたじゃがいものシチューとビスケットを食べました。

     食べ終わると、熊ひげ船長はエドさんに、長い航海の思い出話をいろいろとしてくれました。船長が、海賊だったころの話を注意深く避けていることに、エドさんはすぐに気づきましたが、そのことについては黙っていました。

     やがて夜が来て、エドさんは船室に引っ込み、ベッドにもぐりこみました。もぐりこんだはいいものの、夜が更けてもまんじりともできませんでした。海賊が恐ろしいからだけではありません。自分がどこに向かっているのかも、なにをしなくてはいけないのかもわからない、そんな、四方が闇に閉ざされたかのような無力感が、エドさんの心に深く重くのしかかってくるのでした。

     誰か、自分の心の重荷をわかちあってくれる人がいたら、どれほどいいだろう。エドさんは、そうも考えるのでした。


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