「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)
エドさんと君のための冒険 1-5
第一章 海の冒険 5
「順風だ。ついてるぞ」
船の甲板で、熊ひげ船長は満足げにつぶやきました。その横でエドさんは、船酔いによる胸のむかつきをこらえていました。
「どうだい、探偵、船旅はいいもんだろう」
「そうですね……うっぷ」
熊ひげ船長は大笑いしました。
「すまん。すまん。その顔からすると、すぐにでも陸に上がりたいようだな。まあ、こらえてくれ。明日までの辛抱だ」
エドさんは額の汗をぬぐいました。
船の大小さまざまな帆は、風をいっぱいにはらんで、満足げにばたばたいっています。空は雲ひとつない快晴、申し分のない天気です。これで船酔いと心配事さえなければ、本当に楽しい船旅なんだろうな、とエドさんは思いました。
そのときです。ふいに、熊ひげ船長が遠くを見ると、望遠鏡を目に当てました。
「見張り員! 寝ているのか!」
マストのてっぺんに向かって、熊ひげ船長はどなりました。エドさんは尋ねました。
「どうしたんですか?」
「船影が見える。この間とは違う船だ」
「航路だったら、行き交う船も……」
といった後で、エドさんはふと、嫌な予感を覚えて顔色を曇らせました。熊ひげ船長はうなずきました。
「ふむ、お前さんも感じるか。実はおれもなんだ。なんとなくだが、あの船影からは嫌な感じを受ける。第六感ってやつだが、おれは信じることにしているんだ」
マストの上から、見張り員が叫びました。
「船影、こちらに向かってきます! すごい船足です!」
「そんなことわかってる。総員、持ち場につけ! あの船を回避する! 大砲、いつでも撃てるようにしておけ!」
エドさんもまた表情をこわばらせているのを見て、熊ひげ船長は安心させるようにいいました。
「大丈夫だ。この距離とこの風なら、なんとかやつをやりすごせるだろう。明日には嬉しい陸の上さ」
「船影、なおも接近中! まっすぐこっちへ向かってきます! なんて船足だ!」
マストのてっぺんにいる見張り員が叫びました。
エドさんにも、その謎の船がこちらへ近づいてくるのがわかりました。
「船長! あの船が、旗を上げました! か、海賊旗です! 間違いありません!」
船の影がちかっと光り、もうもうと煙が上がりました。そして、花火を打ち上げるような音とともになにかが飛んできたかと思うと、「熊ひげ丸」から離れたところに、大きな水柱が上がりました。
「あの野郎、やりやがったな。威嚇射撃とは、なめやがって」
怒りを抑えきれない、という顔でくるりと振り向いた熊ひげ船長は、割れがねのような大声で怒鳴りました。
「おれたちが、この世に生まれおちたときから大砲の音を子守唄がわりにしていたことをわからせてやれ! 一斉射撃用意!」
おうっ! と、水夫たち……もと悪名高き海賊たちは、これまた船体がびりびり震えるほどの大声で答えました。
エドさんは、自分がこの場にいても足手まといになるだけだということはわかっていました。しかし、目の前に、こちらに大砲を撃ってくる敵がいるという事実に、足がすくんで動けません。
「手すきの者は、なんでもいいから武器を持って待機! てめえら、根性を見せろ!」
雲ひとつなかった空が、どんどんと曇ってきました。あたりは薄墨を流したように暗くなりました。エドさんの手にも、なにやらこん棒のようなものが押し付けられました。わけもわからず握り締め、奥歯をかちかち鳴らしていたとき、いまだにマストの上で任務に当たっている勇敢な見張り員が叫びました。
「敵船、射程距離!」
「撃てえっ!」
時が止まったかのような一瞬の沈黙の後で、百万の雷が一度に鳴ったような轟音が響きました。いやなにおいのする煙がもうもうと上がり、船は鍋をひっくり返したときのように大きく揺れました。エドさんは自分がバランスを崩して転んだことにも気づきませんでした。ただ、自分の心臓がばくばくと激しく鼓動を打っているのがわかるだけでした。
砲撃はお互いに外れたようでしたが、第二射が放たれることはありませんでした。撃ち合いに天が怒ったのか、マストが折れるかのような大風が巻き起こり、「熊ひげ丸」は目隠し鬼でもするごとく、どこかへ押し流されて行ったのです。
「順風だ。ついてるぞ」
船の甲板で、熊ひげ船長は満足げにつぶやきました。その横でエドさんは、船酔いによる胸のむかつきをこらえていました。
「どうだい、探偵、船旅はいいもんだろう」
「そうですね……うっぷ」
熊ひげ船長は大笑いしました。
「すまん。すまん。その顔からすると、すぐにでも陸に上がりたいようだな。まあ、こらえてくれ。明日までの辛抱だ」
エドさんは額の汗をぬぐいました。
船の大小さまざまな帆は、風をいっぱいにはらんで、満足げにばたばたいっています。空は雲ひとつない快晴、申し分のない天気です。これで船酔いと心配事さえなければ、本当に楽しい船旅なんだろうな、とエドさんは思いました。
そのときです。ふいに、熊ひげ船長が遠くを見ると、望遠鏡を目に当てました。
「見張り員! 寝ているのか!」
マストのてっぺんに向かって、熊ひげ船長はどなりました。エドさんは尋ねました。
「どうしたんですか?」
「船影が見える。この間とは違う船だ」
「航路だったら、行き交う船も……」
といった後で、エドさんはふと、嫌な予感を覚えて顔色を曇らせました。熊ひげ船長はうなずきました。
「ふむ、お前さんも感じるか。実はおれもなんだ。なんとなくだが、あの船影からは嫌な感じを受ける。第六感ってやつだが、おれは信じることにしているんだ」
マストの上から、見張り員が叫びました。
「船影、こちらに向かってきます! すごい船足です!」
「そんなことわかってる。総員、持ち場につけ! あの船を回避する! 大砲、いつでも撃てるようにしておけ!」
エドさんもまた表情をこわばらせているのを見て、熊ひげ船長は安心させるようにいいました。
「大丈夫だ。この距離とこの風なら、なんとかやつをやりすごせるだろう。明日には嬉しい陸の上さ」
「船影、なおも接近中! まっすぐこっちへ向かってきます! なんて船足だ!」
マストのてっぺんにいる見張り員が叫びました。
エドさんにも、その謎の船がこちらへ近づいてくるのがわかりました。
「船長! あの船が、旗を上げました! か、海賊旗です! 間違いありません!」
船の影がちかっと光り、もうもうと煙が上がりました。そして、花火を打ち上げるような音とともになにかが飛んできたかと思うと、「熊ひげ丸」から離れたところに、大きな水柱が上がりました。
「あの野郎、やりやがったな。威嚇射撃とは、なめやがって」
怒りを抑えきれない、という顔でくるりと振り向いた熊ひげ船長は、割れがねのような大声で怒鳴りました。
「おれたちが、この世に生まれおちたときから大砲の音を子守唄がわりにしていたことをわからせてやれ! 一斉射撃用意!」
おうっ! と、水夫たち……もと悪名高き海賊たちは、これまた船体がびりびり震えるほどの大声で答えました。
エドさんは、自分がこの場にいても足手まといになるだけだということはわかっていました。しかし、目の前に、こちらに大砲を撃ってくる敵がいるという事実に、足がすくんで動けません。
「手すきの者は、なんでもいいから武器を持って待機! てめえら、根性を見せろ!」
雲ひとつなかった空が、どんどんと曇ってきました。あたりは薄墨を流したように暗くなりました。エドさんの手にも、なにやらこん棒のようなものが押し付けられました。わけもわからず握り締め、奥歯をかちかち鳴らしていたとき、いまだにマストの上で任務に当たっている勇敢な見張り員が叫びました。
「敵船、射程距離!」
「撃てえっ!」
時が止まったかのような一瞬の沈黙の後で、百万の雷が一度に鳴ったような轟音が響きました。いやなにおいのする煙がもうもうと上がり、船は鍋をひっくり返したときのように大きく揺れました。エドさんは自分がバランスを崩して転んだことにも気づきませんでした。ただ、自分の心臓がばくばくと激しく鼓動を打っているのがわかるだけでした。
砲撃はお互いに外れたようでしたが、第二射が放たれることはありませんでした。撃ち合いに天が怒ったのか、マストが折れるかのような大風が巻き起こり、「熊ひげ丸」は目隠し鬼でもするごとく、どこかへ押し流されて行ったのです。
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~ Comment ~
真面目なポールさん作品ですね。
自然に引き込まれる気持ち良い話です。
前作から読みたくなりましたが、三十分一本勝負も終わってない……。
自然に引き込まれる気持ち良い話です。
前作から読みたくなりましたが、三十分一本勝負も終わってない……。
- #10869 青井るい(旧小説と軽小説の人)
- URL
- 2013.07/20 15:03
- ▲EntryTop
Re: 矢端想さん
まだ第一章が終わるまでは30枚もあります。
30枚しかない、ともいいますが……(^^;)
まあゆるりとお待ちください。
クロエさんについては……忘れてたわけじゃないんだよ。でも今は語るわけにはいかないんだよ(^^;)
30枚しかない、ともいいますが……(^^;)
まあゆるりとお待ちください。
クロエさんについては……忘れてたわけじゃないんだよ。でも今は語るわけにはいかないんだよ(^^;)
海戦だ!海戦だ!ベン・ハーだ!「attack speed!」
(あれ?前にもこんなコメントを・・・)
えっ、でももう終わり?
・・・ところで栗色の髪のクロエさんとかどうしてるんだろうなあ。時系列が謎だ。
(あれ?前にもこんなコメントを・・・)
えっ、でももう終わり?
・・・ところで栗色の髪のクロエさんとかどうしてるんだろうなあ。時系列が謎だ。
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Re: 青井るいさん
この長編自体は、前作を読んでいなくても楽しめるように書いているつもりであります。現在進行形です。たはは(^_^;)