「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)
エドさんと君のための冒険 1-6
第一章 海の冒険 6
「あの野郎め、このおれに大砲なんか撃たせやがって!」
熊ひげ船長は歯噛みをしてうなりました。
「風のにおいはわかりましたか?」
エドさんがおそるおそる尋ねると、船長は鼻をふんふんさせてから首を振りました。
「だめだ。微妙なにおいが、まったくわからなくなっちまった。陸から吹いてくるのか海から吹いてくるのかさえも見当がつかねえ。おれたちは、完全にこの海での迷子だ」
空は再び晴れ渡り、うだるような暑さだというにもかかわらず、エドさんは身体中の血が凍りついたような気分でした。熊ひげ船長はそんなエドさんの肩を叩くといいました。
「そんな、死人みたいな面をするなよ。そんな面をしたって、風のにおいがわかるようになるわけじゃねえ。顔だけでも堂々としていれば、お天道様もあきれて、しまいには救いの手を伸ばしてくれるかもしれないさ」
「そう……ですね」
エドさんは無理して笑顔を作りました。熊ひげ船長はうむ、とうなずきました。
「それでいい。さて、ここで役立たずの海図を眺めてばかりいないで、甲板に出るか。なにか見えるかもしれないからな」
エドさんと船長は、船長室を出ました。
「なにか見えたかあ!」
船長がマストの上で見張りをしている水夫に叫ぶと、見張りも叫び返しました。
「なにも見えません!」
エドさんは、そうか、なにもないのか、とぼんやりとあたりを眺めていましたが、はっと身を乗り出しました。
「熊ひげ船長、あれ、煙じゃないですか?」
「煙だと?」
船長は望遠鏡を取り出し、エドさんの指差した先をじっくりと眺めました。
「煙だ! 間違いない! 助かったぞ! 野郎ども、船をあちらに向けろ! 進行方向を間違えるんじゃねえぞ! それとマストの上のお前! 当直のくせにどこに目をつけてやがるんだ! 飯抜きっ!」
一気にあわただしくなった船内で、熊ひげ船長はがっしりとエドさんの手を握り締めました。
「よく見つけてくれた。感謝するぜ。お前さんには、助けてもらってばかりだな、探偵! あれが、おれの知っている島だったら、ラム酒の配給を五割増しにしてやるよ。人の住む、真水と食い物がたっぷりある島だったら、配給は倍だ! はっはっは!」
あまりの嬉しげな声に、エドさんも心が浮き立ってきて、つられて笑い出しました。
そのときです。
「せ、船長……」
マストの上から、妙に震える声がしてきました。
「飯抜きといっただろ、お前!」
「い、いえ、違うんです。あの煙をよく見てください……」
なにごとか、と、エドさんも船長も、進行方向にゆらめきながら立ちのぼる煙を見ました。
先に気がついたのは、エドさんでした。
「船長! よく見てください! 煙が……まるで字のように揺れている!」
「ほんとうだ! ちょっと待て!」
熊ひげ船長は望遠鏡を目に当てました。
「『ラ』……『ッ』……『シ』……『ャ』……『イ』……『イ』……『ラ』……『イラッシャイ』、いらっしゃいだと!」
水夫の誰かが叫びました。
「魔法だ!」
沈黙の後、老水夫がゆっくりとしゃべり始めました。
「海の魔女に違いねえ。船乗りを惑わし、水底深くに引きずり込む、恐ろしい魔法使いによ!」
熊ひげ船長は、エドさんをちらりと見ると、にやりと笑いました。
「魔法? 上等じゃないか。こっちには、魔法はなくても探偵がいるんだぞ。なにを恐れることがあるもんか」
エドさんは思わぬ言葉にびっくりして叫びました。
「わたしは普通の人間ですよ!」
「言葉のあやというものさ。せっかく向こうさんが、いらっしゃいと手招きをしてくれているんだ、おじけづいて応じなかったら海の男の名折れだぜ。それに、この海の迷子から抜け出すには、ほかにいい方法もなさそうだしな。海の魔女だか、魔法使いだか知らないが、機嫌よくもてなしてくれることを信じて、前進あるのみだ! おも舵!」
船は船体をぎしぎしいわせながら方向を変えました。そのまま風に乗って進んでいくと、はるか遠くの煙の下に、少しずつ、島らしい影が見えてきました。
「あの野郎め、このおれに大砲なんか撃たせやがって!」
熊ひげ船長は歯噛みをしてうなりました。
「風のにおいはわかりましたか?」
エドさんがおそるおそる尋ねると、船長は鼻をふんふんさせてから首を振りました。
「だめだ。微妙なにおいが、まったくわからなくなっちまった。陸から吹いてくるのか海から吹いてくるのかさえも見当がつかねえ。おれたちは、完全にこの海での迷子だ」
空は再び晴れ渡り、うだるような暑さだというにもかかわらず、エドさんは身体中の血が凍りついたような気分でした。熊ひげ船長はそんなエドさんの肩を叩くといいました。
「そんな、死人みたいな面をするなよ。そんな面をしたって、風のにおいがわかるようになるわけじゃねえ。顔だけでも堂々としていれば、お天道様もあきれて、しまいには救いの手を伸ばしてくれるかもしれないさ」
「そう……ですね」
エドさんは無理して笑顔を作りました。熊ひげ船長はうむ、とうなずきました。
「それでいい。さて、ここで役立たずの海図を眺めてばかりいないで、甲板に出るか。なにか見えるかもしれないからな」
エドさんと船長は、船長室を出ました。
「なにか見えたかあ!」
船長がマストの上で見張りをしている水夫に叫ぶと、見張りも叫び返しました。
「なにも見えません!」
エドさんは、そうか、なにもないのか、とぼんやりとあたりを眺めていましたが、はっと身を乗り出しました。
「熊ひげ船長、あれ、煙じゃないですか?」
「煙だと?」
船長は望遠鏡を取り出し、エドさんの指差した先をじっくりと眺めました。
「煙だ! 間違いない! 助かったぞ! 野郎ども、船をあちらに向けろ! 進行方向を間違えるんじゃねえぞ! それとマストの上のお前! 当直のくせにどこに目をつけてやがるんだ! 飯抜きっ!」
一気にあわただしくなった船内で、熊ひげ船長はがっしりとエドさんの手を握り締めました。
「よく見つけてくれた。感謝するぜ。お前さんには、助けてもらってばかりだな、探偵! あれが、おれの知っている島だったら、ラム酒の配給を五割増しにしてやるよ。人の住む、真水と食い物がたっぷりある島だったら、配給は倍だ! はっはっは!」
あまりの嬉しげな声に、エドさんも心が浮き立ってきて、つられて笑い出しました。
そのときです。
「せ、船長……」
マストの上から、妙に震える声がしてきました。
「飯抜きといっただろ、お前!」
「い、いえ、違うんです。あの煙をよく見てください……」
なにごとか、と、エドさんも船長も、進行方向にゆらめきながら立ちのぼる煙を見ました。
先に気がついたのは、エドさんでした。
「船長! よく見てください! 煙が……まるで字のように揺れている!」
「ほんとうだ! ちょっと待て!」
熊ひげ船長は望遠鏡を目に当てました。
「『ラ』……『ッ』……『シ』……『ャ』……『イ』……『イ』……『ラ』……『イラッシャイ』、いらっしゃいだと!」
水夫の誰かが叫びました。
「魔法だ!」
沈黙の後、老水夫がゆっくりとしゃべり始めました。
「海の魔女に違いねえ。船乗りを惑わし、水底深くに引きずり込む、恐ろしい魔法使いによ!」
熊ひげ船長は、エドさんをちらりと見ると、にやりと笑いました。
「魔法? 上等じゃないか。こっちには、魔法はなくても探偵がいるんだぞ。なにを恐れることがあるもんか」
エドさんは思わぬ言葉にびっくりして叫びました。
「わたしは普通の人間ですよ!」
「言葉のあやというものさ。せっかく向こうさんが、いらっしゃいと手招きをしてくれているんだ、おじけづいて応じなかったら海の男の名折れだぜ。それに、この海の迷子から抜け出すには、ほかにいい方法もなさそうだしな。海の魔女だか、魔法使いだか知らないが、機嫌よくもてなしてくれることを信じて、前進あるのみだ! おも舵!」
船は船体をぎしぎしいわせながら方向を変えました。そのまま風に乗って進んでいくと、はるか遠くの煙の下に、少しずつ、島らしい影が見えてきました。
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~ Comment ~
NoTitle
海の魔女だからヒレが付いているのかな
ぷぷ
いらっしゃいなんて洒落た誘い方。
まさか、磯臭い婆あなんてのは嫌だよねぇ。
若い美女にして下さいね。
それから、ジュゴンみたいに豚ってるのも和むけど
やはりスレンダーで
若芽や昆布のドレスは張り付いているようで頂けない。
ソフトコーラルのドレスがいいな。
ニャハハ
ぷぷ
いらっしゃいなんて洒落た誘い方。
まさか、磯臭い婆あなんてのは嫌だよねぇ。
若い美女にして下さいね。
それから、ジュゴンみたいに豚ってるのも和むけど
やはりスレンダーで
若芽や昆布のドレスは張り付いているようで頂けない。
ソフトコーラルのドレスがいいな。
ニャハハ
- #13175 ぴゆう
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- 2014.04/15 16:25
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Re: ぴゆうさん
でも魔法が使えるお婆さんって、魔法で美しい素顔を隠しているだけかもしれませんよ(笑)
とにかく魔女というものはひとくせもふたくせも……(^^;)