「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)
エドさんと君のための冒険 1-9
第一章 海の冒険 9
「おも舵いっぱい!」
熊ひげ船長は上機嫌でした。それもそのはずです。大砲を撃ってから、どうしてもとらえることのできなかった風のにおいが、わかるようになったのですから。
「お婆さんのところで飲んだ、あの薬酒が効いたんでしょうね」
エドさんは空を見上げていました。
「そうだとも。それしか考えられない。いや、海の魔女さまさまだ。これからはあそこを通るときは礼砲を撃とう」
エドさんは弱々しく笑いました。
「うるさい、って、かえって怒られるんじゃないですかね」
熊ひげ船長は顔をしかめると、エドさんの横に立ちました。
「心ここにあらず、って顔をしているぞ、探偵。そんな顔をしていたら、病気になる」
「あ……ああ、すみません。ちょっと、考え事をしていたもので」
「話してくれるわけにはいかねえか」
エドさんは頭をかきむしりました。
「なにか、とても、とてつもなく大事なことを忘れているような気がするんです。当然わかっていていいことなのに、どうしても思い出せない。それが、苦しくて、苦しくて、なりません」
「そうか」
熊ひげ船長はエドさんの肩に手を置きました。
「婆さんがいっていたことを思い出せ。手がかりを探し、追っていけば、お前さんなら、心の危機を乗り越えられる、そういってたな。それと同じように、手がかりを探し、追っていけば、お前さんのその忘れっちまったなにかも、きっと思い出せるはずだ」
「それがどうしてわかりますか」
エドさんはそう答えかけ、はっと気づきました。
「確かにそうですね。わたしの抱えている精神の危機と、わたしが忘れてしまったとてつもなく大事なことは、必ずどこかでつながっているはずだ。それどころか、精神の危機がすなわちわたしの忘れてしまったなにかそのものであるかもしれない。むしろ、そうである可能性のほうが大きいでしょう」
「そういうこった」
熊ひげ船長は、大きく鼻を鳴らしました。
「でも、あせるんじゃないぞ。今は海の上で、手がかりがない。手がかりが向こうからやってくるまでじっと待っていて、見つけたら素早くぱっと捕まえるんだ。おれたちが悪者だった昔、獲物の船を捕まえたときと同じようにな。そういやあ」
熊ひげ船長は、真剣な顔でエドさんに向き直りました。
「あのとき、おれの船に迫る危機について、なにかわかったっていってたな。この世のもののふりをした、この世ならざるものって、いったいなんなんだ? それが、お前も餌食にしようとしているんだろう? いったいどんなやつなんだ?」
「推測ですが、それはもちろん……」
エドさんがいいかけたときです。
「船長! 船影が見えます!」
マストの上から見張りの声が聞こえてきました。
「どんなやつだ!」
熊ひげ船長は望遠鏡を目に当てました。
「この前のやつと同じです! あの海賊の野郎が、またおれたちを襲いにきたんです!」
エドさんは堅い声でいいました。
「やっぱりそうなのか」
熊ひげ船長はくるりとエドさんのほうに振り向きました。
「探偵、あの魔女の婆さんがいっていた、この世のもののふりをした、この世ならざるものっていうのは、あいつか」
「たぶん」
「ふん。面白いじゃねえか。あいつがおれの船を狙ってくるというのなら、かえって目にもの見せてやるぞ。こっちが大砲を積んでいると承知のうえで襲ってくるのなら、かまいはしねえ、やっちまえ」
せきこむようにそうつぶやくと、熊ひげ船長は大声で叫びました。
「風に乗ってこのまま前進! 大砲、撃てるようにしておけ! この間のような悪運が、やつについているなどと思うな!」
「おうっ!」
水夫たちは口々にそう叫んで答えました。
「戦闘旗揚げろ! こっちも意地を見せてやるんだ!」
船長の命令とともに、旗がするするとマストを登っていきました。そのとき、エドさんは、急に、すべてがわかりました。
エドさんは叫びました。
「やめろ!」
「おも舵いっぱい!」
熊ひげ船長は上機嫌でした。それもそのはずです。大砲を撃ってから、どうしてもとらえることのできなかった風のにおいが、わかるようになったのですから。
「お婆さんのところで飲んだ、あの薬酒が効いたんでしょうね」
エドさんは空を見上げていました。
「そうだとも。それしか考えられない。いや、海の魔女さまさまだ。これからはあそこを通るときは礼砲を撃とう」
エドさんは弱々しく笑いました。
「うるさい、って、かえって怒られるんじゃないですかね」
熊ひげ船長は顔をしかめると、エドさんの横に立ちました。
「心ここにあらず、って顔をしているぞ、探偵。そんな顔をしていたら、病気になる」
「あ……ああ、すみません。ちょっと、考え事をしていたもので」
「話してくれるわけにはいかねえか」
エドさんは頭をかきむしりました。
「なにか、とても、とてつもなく大事なことを忘れているような気がするんです。当然わかっていていいことなのに、どうしても思い出せない。それが、苦しくて、苦しくて、なりません」
「そうか」
熊ひげ船長はエドさんの肩に手を置きました。
「婆さんがいっていたことを思い出せ。手がかりを探し、追っていけば、お前さんなら、心の危機を乗り越えられる、そういってたな。それと同じように、手がかりを探し、追っていけば、お前さんのその忘れっちまったなにかも、きっと思い出せるはずだ」
「それがどうしてわかりますか」
エドさんはそう答えかけ、はっと気づきました。
「確かにそうですね。わたしの抱えている精神の危機と、わたしが忘れてしまったとてつもなく大事なことは、必ずどこかでつながっているはずだ。それどころか、精神の危機がすなわちわたしの忘れてしまったなにかそのものであるかもしれない。むしろ、そうである可能性のほうが大きいでしょう」
「そういうこった」
熊ひげ船長は、大きく鼻を鳴らしました。
「でも、あせるんじゃないぞ。今は海の上で、手がかりがない。手がかりが向こうからやってくるまでじっと待っていて、見つけたら素早くぱっと捕まえるんだ。おれたちが悪者だった昔、獲物の船を捕まえたときと同じようにな。そういやあ」
熊ひげ船長は、真剣な顔でエドさんに向き直りました。
「あのとき、おれの船に迫る危機について、なにかわかったっていってたな。この世のもののふりをした、この世ならざるものって、いったいなんなんだ? それが、お前も餌食にしようとしているんだろう? いったいどんなやつなんだ?」
「推測ですが、それはもちろん……」
エドさんがいいかけたときです。
「船長! 船影が見えます!」
マストの上から見張りの声が聞こえてきました。
「どんなやつだ!」
熊ひげ船長は望遠鏡を目に当てました。
「この前のやつと同じです! あの海賊の野郎が、またおれたちを襲いにきたんです!」
エドさんは堅い声でいいました。
「やっぱりそうなのか」
熊ひげ船長はくるりとエドさんのほうに振り向きました。
「探偵、あの魔女の婆さんがいっていた、この世のもののふりをした、この世ならざるものっていうのは、あいつか」
「たぶん」
「ふん。面白いじゃねえか。あいつがおれの船を狙ってくるというのなら、かえって目にもの見せてやるぞ。こっちが大砲を積んでいると承知のうえで襲ってくるのなら、かまいはしねえ、やっちまえ」
せきこむようにそうつぶやくと、熊ひげ船長は大声で叫びました。
「風に乗ってこのまま前進! 大砲、撃てるようにしておけ! この間のような悪運が、やつについているなどと思うな!」
「おうっ!」
水夫たちは口々にそう叫んで答えました。
「戦闘旗揚げろ! こっちも意地を見せてやるんだ!」
船長の命令とともに、旗がするするとマストを登っていきました。そのとき、エドさんは、急に、すべてがわかりました。
エドさんは叫びました。
「やめろ!」
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~ Comment ~
NoTitle
エドさんの悩みは深そうな
考えすぎるきらいもあるから
黒ひげ船長の単純明快なのは良いパートナーだよね。
今回は考えるエドさんに一利あるような
GWは小田原の海に行ったのだけど
いい気持ちだった。
ただ、風が強くて余り長居が出来なかったのが残念
あの地平線を見ているだけで心が静になる。
不思議だよね。
考えすぎるきらいもあるから
黒ひげ船長の単純明快なのは良いパートナーだよね。
今回は考えるエドさんに一利あるような
GWは小田原の海に行ったのだけど
いい気持ちだった。
ただ、風が強くて余り長居が出来なかったのが残念
あの地平線を見ているだけで心が静になる。
不思議だよね。
- #13334 ぴゆう
- URL
- 2014.05/06 16:51
- ▲EntryTop
Re: limeさん
わからないのも当たり前です(^_^)
伏線は張ったつもりですが、真相に至るまでの論理が飛躍のかたまりで強引そのものなので(^_^;)
ミステリとしては、「あとちょっと考えたらわかったのに、くやしい!」と思わせるのが腕の見せどころなのですが、なかなかうまくいきませんね(^_^;)
とりあえず、明日の更新をお楽しみに(^_^)/
伏線は張ったつもりですが、真相に至るまでの論理が飛躍のかたまりで強引そのものなので(^_^;)
ミステリとしては、「あとちょっと考えたらわかったのに、くやしい!」と思わせるのが腕の見せどころなのですが、なかなかうまくいきませんね(^_^;)
とりあえず、明日の更新をお楽しみに(^_^)/
私は船長と同じ感じで、まだよくわからないんですが。
エドさんはやっぱり、どんどん先をわかってしまうんですね><
まだまだ、ついていくのに必死です。
エドさんはやっぱり、どんどん先をわかってしまうんですね><
まだまだ、ついていくのに必死です。
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Re: ぴゆうさん
エドさんは知性と常識でなんとかしようとしますが、敵があれじゃあなあ……。
まだ旅は四分の一も終わっていません。
ふっふっふ、これからですよこれから(^^)
GWは前哨戦で東京に行って遊びまくりました。
小田原かあ……。
京王線ばかり使っていたので、そちらのほうにはあまり行ったことがないんですけど、海はきれいでしょうねえ……。