「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 1-10

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    第一章 海の冒険 10

     甲板が、一瞬、しんと静まり返りました。

    「なにをいってるんだ、探偵?」

     エドさんは叫び続けました。

    「やめろ、といったんだ! やめろ、と!」

     熊ひげ船長は、顔を怒りで真っ赤にしながら言いました。

    「あの船は、おれの船に発砲しやがった、最低の海賊だぞ。そいつをやっつけるのに、どうしてやめなくちゃいけねえんだ?」

     エドさんは目をつぶりました。頭に浮かんだことを、ひとつひとつ言葉にしていくのは、なんともじれったいことでした。

    「船長! あなたは、あの魔女で予言者のお婆さんがいったことを、聞いていなかったんですか? お婆さんはなんといったんですか、『風のにおいさえとらえられれば、危険は避けることができる』、たしかにそういいましたよね。もし、船長、あなたが海戦にこだわり、大砲をぶっぱなしたら、あの微妙な風のにおいはどうなってしまうんですか? わからなくなって、海の迷子になってしまうと、ついこの前、わたしに教えてくれたじゃないですか!」

     熊ひげ船長は不意を突かれたような顔をしていました。

    「そ、そりゃそうだが、やつをやっつけるのには、大砲がどうしても」

    「そこですよ。あの海賊船がこの船を挑発してくるのは、この熊ひげ丸に大砲を撃たせて、海の迷子にしてしまうためなんです。船長が一発でも発射したら、それで目的は達成されてしまうでしょう。船長が風を失ったら、海賊船の思う壺です。またあのお婆さんの島に戻れるという保証はないし、この広い海を果てしなくさまよったら、わたしたちはそれこそみんな飢え死にしてしまいます」

     熊ひげ船長の顔に、迷いの表情が浮かびました。

    「だが、やつが撃ってきたら、どうするつもりなんだ?」

    「あいつがこの世ならざるものだったら、こちらが撃っても効き目があるとは思えません。そして、同じことはあちらにしてもいえるのではないでしょうか。あのとき、相手が撃った砲弾は、この熊ひげ丸にわずかな損害も与えなかったじゃありませんか。わたしは、あの船も、あの船が撃ち出す砲弾も、幻影のようなものなのではないかと思います」

     熊ひげ船長は頭を抱えました。

    「それは理屈だが、しかし、証拠もなしにおれは、この船と水夫たちを明々白々な危険にさらすわけにはいかねえ。おれはこの船の船長なんだ」

     エドさんは熊ひげ船長の両肩を強くつかみました。

    「だからです。だから、あのお婆さんは船長に勇気を出すよういったんです。船長に、撃たないであの船をやりすごす勇気があることを、あのお婆さんは気づいていたんです。お婆さんは正しいと、わたしは思います。ですから、船長、どうか砲撃の中止を命じてください!」

     熊ひげ船長は頭をひと振りしました。

    「大砲はいつでも撃てる準備をしておけ!」

    「船長!」

     エドさんは絶望的な叫びを上げました。熊ひげ船長は、肩からエドさんの手を引き剥がしました。

    「ただし、おれが命じるまでは、なにがあっても、絶対に撃つんじゃないぞ。勝手に撃つやつがいたら、竜骨くぐりの上で無人島に置き去りにしてやるからな。わかったか!」

     水夫たちは答えませんでした。

    「わかったか、と聞いているんだ!」

     水夫たちは、ひとりひとり、ぽつりぽつりと答えました。

    「へい」

    「へい」

     熊ひげ船長は、エドさんを氷のような目で見ると、静かにいいました。

    「探偵、もし、やつの砲撃で、おれのかわいい部下たちが一人でも死んだら、お前は竜骨くぐりどころじゃない、この甲板で、みんなの前で吊るし首の刑にしてやるぞ。わかったか?」

     エドさんはその目をまっすぐに見て答えました。

    「承知の上です」

     マストの上で見張りが叫びました。

    「船足が速い! このまま行ったら、逃げるにも逃げ切れません!」

    「もう遅い」

     ぐんぐん近づいてくる船影に望遠鏡を向けて、熊ひげ船長はつぶやきました。

    「探偵、自分の両肩に、大勢の命が乗っかっている気分はどうだ?」

     見張り員が叫びました。

    「敵船、射程距離に入りました!」


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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    第一次大戦以前の兵士の衣装は、だいたいにおいて非常にファッショナブルです。

    将軍が今、戦況がどうなっているかを自分の目で確かめないと、どうにもしようがなかった時代ですので、旗指物だのなんだので所属を明確にしておく必要がありましたから。それに兵士を派手な色で強く見せ、相手を士気喪失させる狙いもあったのはもちろんです。

    それが今みたいな地味な色や迷彩服に変わるのは、第一次世界大戦のはじめ、伝統の鮮やかな青色の軍服に身を包んだフランス陸軍が、地味な色で目立たなくしているドイツ軍の陣地に正面突撃をかけて、機関銃の前に死体の山をこしらえてからで……(^^;)

    NoTitle

    これこそ、阿吽の呼吸でと言いたくなるような
    古狸の家康ならばこそ、話し合いはあったとも言えるし、考えると楽しい。
    この頃の武将達は正に百花繚乱状態。
    生きていたら恐ろしくて仕方ないけど、歴史としては面白い。
    兜飾りの個性豊かなこと。
    日本人って昔からオシャレだよね。

    Re: ぴゆうさん

    家康は父親である前にひとりの戦国武将であって政治家ですからねえ。

    息子が大失態をしたらやはり軍法にかけて裁かなければならなかったと思うんですよね。それを差し止めてのことだからよほどの決断力が必要だったはずです。

    本多忠勝の諫言にしても、秀忠本人が知らないところで家康との間で打ち合わせが済んでいた一種のパフォーマンスだったのかもしれません。いや忠勝と家康の間ではなくて、秀忠の遅参に同行していた本多正信と家康の間で。(わたしはほんとうに家康ファンなのだろうか(^^;))

    NoTitle

    いやねぇ
    家康の親心を察した本多平八郎忠勝が偉いと思うわけよ。
    大将としては息子といえども遅参したことを怒るのは当然であって
    それをナアナアでしたら、外様の大名たちは面白くないのが道理。
    それを踏まえ、敢えて諸将が居る所で家康を諫めたことに意味がある。一々、切腹していたらの言葉で外様の大名たちも納得させる。
    それはきっと、切腹させられた元康のこともあったろうな
    ナンテ、考えるわけですよ。

    しかし、歴史は面白い。

    Re: ぴゆうさん

    板子一枚下は地獄、というのが海と船乗りの世界ですから、みんな命がけです。

    そんな命がけのやつらに意見するのですから、

    エドさんももちろん命がけです。

    さあこれからどうなるか、続きは次回をお楽しみに~♪


    個人的にいって、秀忠の遅参は切腹どころではすまない大失態だと思います。なにせ決戦の戦場に三万人が来なかったわけですから。

    諫言した本多忠勝は立派ですが、諫言を入れて許した家康はやっぱり大物ですね。息子に統治者としての才能を見出していた、ということもあるでしょうが。

    戦は下手でも人格者、みたいにいわれていますが、関ヶ原の戦後処理で、真田昌幸とその子信繁(幸村)を死罪にしろと強硬に主張したことで、秀忠は真田ファンからはとても評判が悪いのは事実です(^^;)

    NoTitle

    諫言をするって勇気のいることだよね。
    それでも尚、言うのは相手を思ってのこと。

    関ヶ原で遅参した秀忠公に切腹しろと怒る家康
    遅参したくらいで一々切腹をしていたらキリがない。
    過ちを恐れていたらこの先、何も出来ない。
    諸将も萎縮して、発言もできなくなる。
    それではお家の為になりませぬと
    本多平八郎が毅然と抗議をした。
    家康は黙ったそうだ。

    黒ひげ船長はエドさんの言わんとすることを理解をしたのかな
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