ささげもの

    わっ!

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     相互リンクをしていただいているらすさんの「戦士のズル休み」における「恐怖のディスカウントストア」という記事を読み、わたしは大笑いした。イラストがすごかったからだ。いきおいでわたしはコメントに、「ここから言葉たくみにお茶に誘う恋愛ショートショートを書こうかな」と冗談を書いた。

     それにブログ主のらすさんが大喜びしてしまった。「コラボですか?」「楽しみにしています」

     そこまで喜ばれたら、これは本腰を入れて書かなければならないではないか。しかし、あの状況からどうやってお茶に誘えというんだ。それも普通の一般人が。不可能じゃないのか。

     わたしは頭を抱えた。

     結果出来上がったのがこれ。もろもろの理由で設定の細部を変えてあります。

     以下どーん。



     ※ ※ ※ ※ ※




    「わっ!」

     ディスカウントストアの食料品売り場、角を回ってその目立たない一隅にちょっと入ったところで、ぼくはのけぞった。目の前には、今にも外れそうなあごと、伸びた舌、それにすがめられた目と眉間に寄ったしわの集合体があった。なんだこのSFホラー映画に出てくるような歪んだ顔は。

     顔の主がぼくより二、三歳下の若い女性で、彼女がやっていたのは「あくび」だということに気がついたのは、彼女があわててその口を押さえてうつむいたからだ。

     その姿を見て、ぼくはまたしても「わっ」と叫びそうになった。彼女の顔は、先ほどのSFホラーからは想像もつかないような、つぶらな瞳をしたぼく好みの娘に変わっていたのだ。

     瞬間、ぼくの周りの時間は止まった。嵐のような自問自答に、頭の中がぐるぐる回り始めた。

     ――かわいい。おつきあいしたい。

     ――待て。あの顔を忘れたのか。SFホラーだぞ。

     ――それでもおつきあいしたい。少なくともお茶には誘いたい。

     ――この状況でどうやってお茶に誘うというんだ。バカじゃないのか。

     ――でも今誘わないと永遠に誘えないような気がする。見ろよあの素敵な表情を。

     ――じゃあなんといって誘うんだ。

     ――『きれいなかたですね』

     ――それじゃ逆効果だろう。なにせ、SFホラーな無防備な表情を見てしまったんだぞ。皮肉をいっているんじゃないかと思われるのがオチだぞ。

     ――でも、裏を返せば、ぼくは特権的な地位にいるんじゃないのか?

     ――どんな。

     ――彼女の弱みを握った、というか……。

     ――そんな最低なことを考えているのかぼくという男は。反省しろ反省。それに、『今のエイリアンみたいなすごい顔見ましたよ』なんていって、女性を誘えると本気で考えているとは、とんでもなくたわけたやつだぞ。

     ――でも相手と話をするにはとっかかりというものが。

     ――そのとっかかりが最悪じゃないか。ぼくとあの女には、縁はなかったと思ってあきらめろ。

     ――でもこの娘とお茶をして話がしたい。すぐそこの喫茶コーナーで、やる気のなさそうなおばちゃんが入れた紙コップのコーラででもいいからこの娘の声が聴きたい。

     ――そんな最悪な条件下でいったいなにをするというんだこのバカ。まだぼくは買い物の清算もしていないじゃないか。レジに並ぶほうが先だろう。

     ――そもそも、ぼくは買い物籠にひとつもものをいれていない。あっ、彼女も入れてない。レジを通らないでも喫茶コーナーに行ける!

     ――人の買い物を邪魔していいのか?

     ――買い物よりもなによりも、ぼくはこの娘をお茶に誘いたい。

     ――だから無理だといっているだろ。

     ――お茶に誘う!

     ――ムリムリムリムリ無理だって!

     ――お茶に誘うんだぼくは!

     ――やめろバカ! 石壁に生卵をぶつけるようなものだぞ!

     ――お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶!

     ――ジョジョかよ!

     ――お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶!

     0.05秒も経たない間に駆け抜けていった思考の洪水に、ぼくの頭の中は真っ白になっていた。

    「あのっ!」

    「は、はい?」

    「おおお、お茶どうですか?」

     三分後、ぼくとその娘は、喫茶コーナーのテーブルで、アイスティーとフライドポテトをはさんで向かい合っていた。

     いってみるものである……。

     教訓:「兵ハ拙速ヲ尊ブ」(孫子)
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    ~ Comment ~

    Re: らすさん

    喜んでくださって書いたわたしも嬉しいです。あのイラスト強烈だったもんなあ(^_^)

    ハッピーエンドにしたのは、前に小説を某漫画家のかたにお見せしたところ、「ハッピーエンドでないと読者が読んだ後に満足感が得られない」というご意見をいただき、頭を殴られたかのようなショックを受けたからです。それ以来、こと恋愛ものに関しては、基本的にハッピーエンドの方針を取っています。(そういいながらビターエンドも多いですが……)

    今回はそれに加え、「彼女をお茶に誘う」という明確な目標があったのでこうなりました。ちょっとかなり強引だったかな?

    実際に行ったときの結果については責任を負いかねます(笑)

    Re: 山西 サキさん

    ありがとうございます。

    切羽詰まっているといえば作者のわたしがいちばん切羽詰まっていたのですが、もしかしたらそれが一種のライブ感としてプラスに作用したのでしょうか。(^_^;) 範子文子のころから芸風が変わっていないなわたし(^_^;)

    こんばんは(๑≧౪≦)

    この度は自分のダメダメブログとコラボしていただき、
    本当にありがとうございました!

    まさか本当にやってしまうとは…
    ポール・ブリッツさんグッジョブです!
    自分の下手くそな駄文とは違い、
    とても読みやすく素敵なショートストーリーに仕上がってますね~

    そしてまさかのハッピーエンドですか!
    自分もまた今度同じようなことがあったらトライしてみようと思います(*^^)v

    こちらのコメ欄で自分の絵の感想を書いていただいた皆様も、
    ありがとうございました(*^_^*)

    よかったです。
    すごく切羽詰まったいいお話しに書き上がってます。

    あ!オリジナルブログのイラストも素敵でした。

    Re: ダメ子さん

    人間の本当の顔は無防備なSFホラー顔にこそあるのかもしれませんね。

    エゴン・シーレ先生とか描きそう(笑)

    Re: カテンベさん

    イラストにしようにも、本人の顔はわかりませんものね~。

    いちおう「お茶に誘うまで」ということで書いたので、その後の展開はご想像にお任せします(^^) というかわたしが読みたい(笑)

    イラストつきで読めました
    普段の姿はなんてかわいい

    でももしかするとSFホラーの方が本当の姿で
    実は人食いエイリアンとかじゃ…

    こんにちは

    表情のギャップに驚いたけど、わっ、と驚いたこちらの顔もすごかったのかもなぁ〜、なんて思てまいました。
    話してみたら同級生だった。とか、友達の妹だった。と話は続いていってもよさそうな気も。
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