「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 2-3

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    第二章 街の冒険 3

     テリー青年の説明を、エドさんはうなずきながら聞いていましたが、頭を振って本を返しました。

    「もう夜に近いし、食事をお願いできますか? お酒もつけてください。暑くて、疲れて、やりきれないんです」

    「ラム酒がお勧めですよ。ワインもありますが、上物はそれなりにお値段が張ってしまうんです」

    「ラム酒でけっこうです。きついのを飲みたい気分なので」

    「なにかあったんですか? あ、いらっしゃいませ」

     扉を揺らして入ってきたのは老奇術師でした。

    「どうした、探偵、浮かぬ顔だが。そうか、やっぱり大学はだめだったんだな」

    「門前払いされましたよ」

     カウンター席に座ったエドさんは、なにかの芋と肉と野菜を蒸したものにあめ色のソースをかけた料理の皿と、ラム酒のジョッキを受け取り、ナイフとフォークを手にしました。横に、老奇術師も座ります。

    「この街には驚かされることばかりです」

     エドさんは芋にソースをからめて口に入れました。思ったより味はまろやかでした。隣では、老奇術師も同じ皿を受け取っていましたが、お酒は飲まないようでした。エドさんがもの問いたげな目をすると、にっこりと笑ってこう答えました。

    「奇術をやるのには、身体のすみずみまでが自分の思うとおりに動いてくれることが大事なんだよ」

     エドさんは納得しました。そうこうしているうちに、宿屋の食堂には人がぞろぞろ入ってきました。

     そのうちのひとり、かっぷくのよい男が、興味しんしんという顔で、銅貨を十枚ばかり、袋からカウンターの上にじゃらじゃらとあけました。

    「不思議な技を見せてくれるんだって?」

     老奇術師はほほ笑むと、銅貨の一枚を取り上げ、手の中にひと握りすると、瞬く間に消してみせました。目をぱちぱちしている男の前で、銅貨はあっちへ行ったりこっちへ来たり、出たり消えたり、増えたり減ったり。最後に奇術師が両手を広げたときには、どうしたものかカウンターに置いてあったはずの銅貨までもがこつぜんと姿を消していました。

     一礼した奇術師に向かい、男は口笛を吹いて手を叩きました。

    「すごい! 今度は二十枚の銅貨を持ってくるぞ! そのときはもっとすごい技を見せてくれ!」

     食堂じゅうにいた客たちも手を叩いて喜びました。奇術師が持っていた袋を開くと、エドさんも含むその場の皆が、少なからぬ銅貨を投げ入れました。奇術師は袋の口を紐で縛り、にこやかに笑うと、袋の底をナイフで切り裂きました。するとどうでしょう、あれほど入っていたはずの銅貨は姿を消していました。奇術師は袋をくるくると丸めるとポケットにしまい、今度こそ深々と礼をしました。拍手と口笛は、なかなかやみませんでした。

     エドさんは老奇術師にいいました。

    「すごいものですね。さすがです」

    「なに、わしの若いころは、きみが想像もできないほどの技の切れを持っていたものだ。あのころが懐かしいよ」

     そのころ、食事と酒と奇術だけでは満足しきれない連中が、なにかの絵が描かれたテーブルに群がり、さいころを振りはじめて、なにかのゲームをやり始めました。

    「あれは?」

    「『王冠と錨』というギャンブルだよ。胴元と子に別れ、子はそれぞれ、出ると思う目に賭けてからさいころを三つ振る。賭けた目が出れば、胴元から元金に加えて同額を受け取る。賭けた目がふたつ出れば、元金に加えて二倍の額を受け取る。三つ出れば三倍だ。出なかった目に賭けていたら胴元が没収するということになっている」

     エドさんはちょっと考えました。

    「計算してみると、わずかながら胴元に有利ですね。なるほど、遊び続けるとすってんてんになるわけだ」

    「話が合うな。もっとも、奇術師はさいころを振らせてはもらえないがね」

    「それよりも、チェスをしませんか? そちらのほうがわたしは楽しいです」

     老奇術師は目を細めました。

    「チェスか。しばらくやってないが……いや、わしよりもいい人が来たみたいだぞ」

     エドさんは振り返り、入り口から入ってきた、どこかさびしげな人影へと視線を向けました。

    「お金持ちの、デイヴさんですか?」

     奇術師はうなずきました。


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    Re: ぴゆうさん

    デブじゃないよー!(^_^;)

    この人(?)も、前に出てきてます。

    街に溶け込んで違和感がないのは、人徳と、探偵としてのテクニックと、もう一つ理由があります。ネタに直結するので今は書けませんが……。

    NoTitle

    鴨が葱、背負ってやってきたのかな
    只のデブじゃなくて
    お金持ちと冠が付くくらいだから
    相当、持っているのかね。
    エドさん、すでに町の人達と馴染んでいますね。
    これも人柄なのかな。
    人に好かれるって幸運なことだよね。

    Re: LandMさん

    ラム酒はわたしもこの二十年くらいごぶさたです。強い酒を飲むとどれだけ身体にダメージが来るか、この間いやというほど味わったので、当分飲む気もありませんが。

    それにしても、ラム酒ってそんなに簡単に作れるものなんですか? びっくりです。密造酒造りが横行したのもうなずけますね。

    あああ、飲みたいなあ、ラム酒……。

    ラム酒~~~!!!
    ・・・最近飲んでないですね。
    ふ~~~む、作るのも結構手間ですからね。
    夏ですし、少し自家酒を作ってみるのも一興ですね。
    暑くなって来ましたし。
    あちらの季節も夏なのですね。

    新連載始めました。
    今度はネコメディです。
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