「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 2-4

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    第二章 街の冒険 4

     奇術師がデイヴ氏と呼んだ人は、静かに空いていたテーブルに着くと、手を上げ、抑え気味だがよく通る声で、ラム酒のお湯割りを頼みました。

     テリー青年は心得ているのか、飲み物のジョッキのほかに、チェスの駒と盤ひとそろいを持ってきました。デイヴ氏はジョッキからひと口飲むと、盤の上に駒を並べ始めました。エドさんはふらりと立ち上がり、デイヴ氏が並べ終わった駒をしげしげと眺めました。

     この駒と盤は、たしかにどこかで見たことがある、そんな思いがしたからです。

    「チェスをおやりになるのですか」

     デイヴ氏が、今エドさんに気づいたとでもいうように、目を上げて、静かな声で尋ねました。

    「お許し願えるなら」

     エドさんはテーブルに着き、白の駒を取りました。

     エドさんはチェスに対して、いささかの自信を持っていました。序盤、勝負は定石どおりに始まりました。ポーンが進み、ナイトが跳ね、ビショップが突撃をしました。エドさんは持てる力のすべてを使って黒の陣地を攻撃しましたが、相手であるデイヴ氏は余裕さえ感じられる動きでエドさんの攻撃をすべて防ぎました。いつの間にか、エドさんの駒は片手で数えられるまでに減っていました。

    「チェック」

     デイヴさんの王手に、エドさんは盤面を隅々まで見ましたが、やがて頭をかいて笑いました。

    「どうやってもわたしの負けのようですね。でも、この駒の動きは、どこかで覚えがあります。いつか、お会いしたことがありましたっけ」

     デイヴ氏は、静かにいいました。

    「あなたは忘れているかもしれないが、わたしは忘れていませんよ、探偵のエドさん」

     エドさんはびっくりしました。

    「どうしてわたしの名前と職業を?」

    「それは、あなたがこのチェス盤と駒の正当な所有者であるからです」

    「所有者ですって?」

     エドさんは面くらい、そして自分が確かにこの盤と駒の所有者であることに気づいてさらに面食らいました。

    「そうだ、たしかに、わたしはこの駒と盤の持ち主だ。わたしは、なじみの古道具屋で、この盤と駒を買ったんだ。買ったとき、店主は、これはキーツ家のコレクションで、買うと心霊現象が、と」

     その先を思い出したエドさんは、ああっ、と大声をあげました。

    「そうだ、この盤のもとの持ち主は、双子の弟に殺されたデイヴ・キーツ氏。するとあなたは、幽霊?」

     デイヴ氏はうっすらと笑い、首を横に振りました。

    「いいえ。わたしは、もっと散文的なものですよ。ここであなたにお会いできたのは嬉しいですが、それも一夜のまぼろしのようなものなのです」

    「まぼろしですって! 幻影ということですか?」

    「この街すべてが、幻影のようなものだといったら、あなたは信じますか?」

     エドさんはうなずきました。

    「信じます。この街に来てから、おかしなことばかりです」

    「信じてくださるとありがたい」

     デイヴ氏は、エドさんの手を取りました。

    「あなたを腕利きの探偵と見込んで、お願いしたいことがあります」

    「わたしに?」

    「そうです。どうか、この街のどこかにいる、わたしの弟、サムに、これを渡してほしいのです」

     デイヴ氏は、チェス盤の上から、白のクイーンを取って握りました。手を開くと、そこには銀色に輝くクイーンがありました。同じように、デイヴ氏は黒のキングも握りました。手を開くと、黒のキングは、金色のキングに変わっていました。

    「この駒のうち弟がどちらを取るか、それを見届けていただきたい。もちろんお礼はいたします」

    「かまいませんが……お礼とは?」

    「探偵のエドさん、あなたにとってどうしても必要な知識を手に入れるための鍵となる言葉と、それに今からここで書く、大学構内に入るための紹介状です」

     デイヴ氏はうちふところから紙のようなものを取り出すと、さらさらと紹介状を書きました。最後に署名するところでペンを止め、エドさんにいいました。

    「受けてくれますね?」

     エドさんに否やはありませんでした。


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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    ここらへんまでは徹底的にファンタジーRPGの定型をなぞっています。だけれど、まだ話は前半戦ですので、これからどうなるかご期待ください。

    今にして思えば、これを書いたときから息切れぎみだったのかなあ。

    NoTitle

    こういうの好きだなぁ〜
    ファンタジーってやっぱいい。
    ここは中庸の世界かな。
    死者の想いを集めて出来ている街なのかな。
    くっそーーー
    ファイナルファンタジーXを思い出しちゃった。
    そういや、RPGゲーム。
    全然、やっていない。
    たまにフラッシュゲームをするくらいだな。

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    Re: 鍵コメさん

    ありがとうございます!

    助かりました!(^_^)

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