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    「ショートショート」
    SF

    一見カフカ風

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     Kはある日裁判所に呼び出された。顔の見えない「検察」が自分を刑事裁判で告訴したらしい。Kには身に覚えがなかったが、出頭しないわけにはいかなかった。

     むろん、Kには自分の立場を代弁してくれる弁護士を雇う権利があった。Kは弁護士会に相談した。事務的なやりとりの末、Kには誰とも知れぬ弁護士がつけられた。顔もわからなければ、経歴もわからない。当たり前の話だった。世の中がそうなっているのだ。文句をいってなんになる。

     かくして裁判が始まった。被害者、罪状、証人の証言、すべてKには明らかにされなかった。裁判官がどんな人物なのかなど、わかるわけがない。Kは完全に無音の被告席にひとり立つことしかできなかった。

     長い裁判が何度も行なわれ、ついにKの運命が決まることになった。懲役二十年。なにが法に触れたのかわからない男には長すぎる裁判であり、量刑だったが、Kは自分が死刑でなかったことを素直に喜んだ。なにしろ、刑務所に入っていればそれ以上の量刑が課せられる可能性は低かったからである。

     顔の見えない弁護士に礼を述べ、Kはいった。

    「昔は、もっと裁判もわかりやすいものだったそうですね」

    「ええ」

     弁護士は真情を表さない声でいった。

    「わかりやすいものでしたが、被害者の人権に配慮せよ、という動きが次第に激しくなり、それが証人、捜査当局者やわれわれ弁護士、裁判官、さらには加害者に至るまで拡張されたのです。正直、あなたが誰なのかすら、正確なところはわたしにはわからないのですよ、Kさん。それでも『プライバシー保護』の理念は絶対ですから……」

     Kは肩をすくめると、顔の見えない刑務官に曳かれるように刑務所への道を進んでいった。

     Kがどんな人物なのか、プライバシー保護のためこれ以上のことは明かせない。これが明日の日本の姿かどうかも不明である。

     まったくどこでどう間違えたものか……。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    ハイデガーによると人間は死への存在可能性から目をそらしているそうな。

    検事や裁判官や警察官も最終的にはこれだと思います(^_^;)

    裁判官も検事も犯罪者に殺されるつもりで仕事をやっている・・・という側面から考えられるとかなりの高尚な人物だと思います。検察に関しては、警察のずさんの資料で「なんじゃあこりゃ」と思っても、それで裁判をしないといけない心境は結構なものです。私も命が関わる仕事やってますけど、この系統の仕事はあまりしたくないな・・・。。。
    ・・と普通のコメントをしてみますニャ。

    Re: マーサさん

    その発想はなかった(^_^)

    でも、プライバシーが関わる発言をしたら、保護法違反で顔の見えない「警察」と「法律」が動き出して懲役20年(^_^;) ファシズム体制下でのネット活動ってそんなものじゃないかな、と考える今日このごろ(^_^;)

    実はバレバレ(苦笑

    でもこのストーリーの世界だったら、
    アクセス解析や訪問者履歴も使えなさそうですよね。
    かえって荒れ放題になりそう^^;

    Re: プライバシー保護のため(ry さん

    コメント者についてなにひとつわからないというのは読んでいて実におっかないものであるなあマーサさん!(^^)

    このコメントの内容は、プライバシー保護のため明かせない。

    プ(ry

    Re: 八少女 夕さん

    こちらでは初めまして(^^)

    これを書いたときには、ブラックユーモアのギャグ小説のつもりだったのですが、まじめに考えだすとひたすらに怖いですね。

    被告のプライバシーが完璧に守られて、被害者のプライバシーはだだ漏れ、という世界も、被害者のプライバシーだけは完璧に守られて、被告は報道やネットで社会的制裁の度をはるかに超える、一家全部そろってリンチみたいな扱いを受ける世界も、どこか間違っているのではと思います。

    とはいえ、どちらもだだ漏れというのも違う気がしますし、どちらも完璧に守られたらこの小説みたいな世界が来るような気がしますし……。

    公平な裁判ということだけではなく、被害者加害者ともに受ける負担やダメージが少なくなる裁判制度って、どんなものかなあ、と思います……。それがいちばん今求められていることではないでしょうか。

    Re: レルバルさん

    すべては「法律」と「警察」によってがんじがらめにされていて、「人間の裁判官」や「人間の弁護士」「人間の検事」も、申しわけ程度なのかもしれません。

    コメントに答えれば答えるほど怖くなってくるなこの話(^^;)

    Re: ダメ子さん

    プライバシー保護のため監房はすべて独房。刑務官の行うことはすべてマニュアル化されてロボットと区別がつかない。そんな中での懲役20年……。

    わたしだったらほんとに頭がおかしくなるな(^^;)

    これ以上おかしくなってどうするんだ、という話ですが。

    Re: limeさん

    公開しすぎもなんですが、秘密にしすぎるのもなんだなあ、と思います。

    冤罪のことを考えると、加害者の情報だけをマスコミを使って大公開するというのはやはり間違っていると思うんですよね。

    社会的制裁が、リンチになってはいけないと思うであります。

    Re: カテンベさん

    プライバシー保護が行き過ぎて、その場の人間全員が、なにがどうしてどうなったのかまったくわからないまま、ただ単に「法律」と「警察」だけが機能している国家……ほんとにカフカの暗黒世界ですね(^^;)

    これを書いたときはブラックではあるものの政治風刺のギャグ小説のつもりだったんですが(^^;)

    ギャグを突き詰めるとホラーになるものですね(^^;)

    怖い話です

    こんにちは。
    (もしかして、初コメでしょうか。ご挨拶が遅くなってごめんなさい)

    SFのようであって、実は近いところに来ている感じもします。怖いです。

    ちょっとお話の主題とはズレるのですが、スイスでは被告のプライバシーが徹底的に守られていて、例えば強盗殺人で逮捕されたとしても報道ではその人の姓名が明らかにはならないのです。でも、被害者の方のことは堂々と新聞に出ちゃっていて、性犯罪がからんでいるときなど「これ、プライバシーの保護観念、絶対に間違っている」と思うことがよくあります。

    こうなるともう機械が人間さばいた方がいいんじゃないかって思いますよね。

    もしや刑務所にも刑務官や他の受刑者の姿が見当たらず
    それどころかコンビニも無人で…
    そして実は裏ではそれを管理するデーターベースに
    すべての個人情報が入っているんじゃ…

    被害者の情報が、加害者にダダ漏れで、更なる犯罪につながるケースが多発しているようなので、情報管理は大切なことなのでしょうが、こうなると怖いですね。

    日本はどんどん内密になり、アメリカは、どんどん情報公開していく。これもお国柄ですね。
    そもそも、犯罪がなくなればいいのに!

    こんにちは

    そこまでプライバシー保護を過剰にしてしまうと、裁判に至る前に、捜査の段階でプライバシー保護が立ちはだかって捜査もままならず、立件不可能、てなりそうな気もします。

    自分が自分である証明も困難な世界でアイデンティティ崩壊してしまってるかも。とも思てまいました(^-^)

    なんにしてもひどい世界ですねー

    Re: 面白半分さん

    理想的な裁判ってどんなものなんでしょうね。

    ファシズム体制下ではこの小説みたいな裁判も起きそうです。

    そう考えると、ファシズムの時代が来るのもそう遠くはないのかもしれません……。

    Re: blackoutさん

    この小説のアイデアを思いついたのは、つい最近のニュースからです。

    被害者の感情をおもんばかるのは当然ですが、しかしなにか間違っているのではないかと思いまして。

    その感情を日本人的にウルトラ化するとカフカになってしまった、という……。

    プライバシー保護も
    突き詰めればこうなりますね。

    完全に無音の被告席ってこれはコワイものがあります

    これ、日本の近未来で本当に有り得そうですね

    人間が人間を裁くことの難しさを感じずにはいられないですね
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