「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 2-7

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    第二章 街の冒険 7

    「考え、とは?」

     エドさんがおそるおそる尋ねると、サム教授はごく当たり前のように答えました。

    「賭けるんだよ」

     エドさんは自分が手にしているふたつの駒を見下ろしました。

    「これを、ですか?」

    「ほかになにがある」

     サム教授は手の中でさいころをもてあそびつつ、エドさんを挑発するかのようにいいました。

    「その駒をふたついっしょにして、どこかの目に賭けろ。今度はおれがさいころを振る。お前が賭けた目が出たら、兄貴の決めたとおり、おれはその駒のどちらかをもらう。しかし、その目が出なかったら……両方の駒とも、おれがもらう」

    「そんな虫のいい……」

    「やるのかやらないのか」

     せきたてられて、エドさんは頭の中で素早く計算しました。勝てるかどうか、といわれたらやや難しいですが、それ以外にこのサム教授にデイヴ氏の依頼を引き受けさせる手段はなさそうです。

     エドさんは目をつぶり、いいました。

    「乗りましょう」

     サム教授は唇をひくひくさせました。

    「さあ、賭けな」

     エドさんは、先ほどと同じ目が出ることを期待して、「王冠」の目にふたつの駒を置きました。なにかの事情で、このさいころが「王冠」の目がわずかに出やすくなっているのでは、という可能性に賭けたのです。

    「本職のばくち打ちみたいな賭けかたをするもんだな、探偵」

     エドさんは答えませんでした。サム教授は、そんなエドさんに馬鹿にしたような視線を投げると、さいころのうち二個をふところにしまいました。

     エドさんは思わず叫びました。

    「さいころは! このゲームで振るさいころは三個じゃないんですか!」

     サム教授は骸骨が風にゆすられるような乾いた声で笑いました。

    「探偵、誰が、今回の賭けで振られるさいころは三つだといったんだ? 誰もそんなことはいっちゃあいない!」

     エドさんは一杯食わされたことを悟りましたが、まだ、その振られるひとつのさいころが、「王冠」の目で止まるということも可能性としては残っています。紙よりもまだ薄い可能性ですが、それを信じるほかはありません。

    「それじゃ、振るぞ……」

     サム教授がさいころを握り、手を軽く振ったときです。エドさんは、デイヴ氏がなにを考えていたのか、なにをサム教授にさせたかったのか、はっと悟りました。

     エドさんは大声で叫びました。

    「いけない! ……サム教授、いけない! お兄さんは!」

     全ては遅すぎました。サム教授はさいころを振りました。かたかたと音を立てて転がったさいころは、「錨」の目を出して止まりました。

     サム教授は、甲高い声で勝利の叫びを上げると、エドさんが「王冠」のますに置いた二つの駒をひったくり、にやにやしながら眺めました。

     すると、次の瞬間、恐ろしいことが起こりました。

     ふたつの駒が、それぞれに光り始めました。金や銀の光ではない、もっと奇妙で不気味な、おぼろな緑色の光です。サム教授の皮膚のうち、その光を浴びた肌がただれはじめました。ただれは見る見るうちに広がり、ただれからは血が玉になってぷくりぷくりと沸いてきました。

     サム教授は、痛みからか悲鳴を上げて手にした駒を放り出そうとしましたが、手のひらにくっついてしまったようで、放り出すことができません。その間にも、サム教授の身体の変化は続いていきました。血がどんどん流れるだけではなく、筋肉や骨までもが溶けて流れ始めました。じゅうじゅう、ぷつぷつという、ものが泡立ち蒸発していく音が、エドさんの耳にもはっきり聞こえました。頭が溶け、手足が溶け、胴体が溶け……エドさんが呆然としてなにもできないでいるうちに、サム教授だった人間の身体は、雨上がりにできる水溜りのように、椅子の上の黒いどろっとしたわずかな液体になり、それさえもあっという間に蒸発して、サム教授がかつてこの部屋に存在していたことを示すものは、床に転げ落ちた、ふたつのチェスの駒だけになってしまいました。

    「『王冠と錨』だけは手を出すな、か……」

     エドさんは輝きを失った駒を拾いました。


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    Re: ぴゆうさん

    ちょっとホラータッチに書きすぎたかな。

    こうなることをいちばん心配していたのは兄のデイヴ氏です。

    それでも人には……いや、やめておきましょう(´・_・`)

    NoTitle

    ちょっと怖すぎですわ
    自らが燃える自然発火を思い描いてしまった。
    何が起こったんだ?
    燃えたのか、溶けたのか
    とんでもない博打だった。

    Re: 荒野鷹虎さん

    おおっこっちにも(^_^)

    スリラーというよりは冒険小説を目指しています。

    まだ未熟者ですが、遊びにきてくださいね!

    ポール・ブリッツさんへ!!

    先日はコメントをいただき大変ありがとうございました。!
    本格的長編小説をお書きになっているとは凄い才能と思い感服いたしますねー。!
    ややスリラー小説の感じですねー。これだけの構想と文章を書くのは大変と思いますがお身体に気を付けられてますますの発展を期待しお祈りいたしております。!
    ではまた!

    Re: カテンベさん

    詳しいことは明日書きますが、「どちらか一方を取りなさい」というメッセージを無視して両方を取った行為自体が問題なのです。

    エドさんは依頼を受けるという契約をして、単なるメッセンジャーとして駒を運んだだけですから、サム教授に起こったようなことは起こりません。

    というつもりで書いていましたが、うーん説明不足でしたか。直さないとなあ……(汗)

    魔法だか呪いの類ということなんでしょうけど発動条件は?
    単にサム教授が2つの駒を同時に持つ、なのかな?
    人を問わず、2つの駒を同時に持つことなら、先にエドさんの身に同じことが降りかかったでしょうから、賭けをした上で2つの駒を同時に持つことなのかな?
    効果切れとも限らないのに、すんなり拾い上げるなんて大丈夫なの?
    次回にはエドさんの身にも。とかなのかなぁ?
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