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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 2-8

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    第二章 街の冒険 8

     夜も更けたころ、エドさんは肩を落として「王冠亭」の扉を押し開けました。

    「テリーさん。ラム酒をください。水で割らなくてけっこうです。強いのが飲みたい。のどが焼けるように強いお酒が」

     エドさんはカウンターの席に座ると、背中を丸めて、手にした二つのチェスの駒を眺めました。もうすでに、駒の色は金と銀からもとの黒と白に戻っていました。

     「王冠亭」の扉が、押し開けられる音がしました。エドさんは、振り向きませんでした。足音がして、エドさんの横の席で止まりました。

    「デイヴさんですね」

     エドさんは振り向かずにいいました。

    「そうです。弟は……弟は負けたのですね」

     声の主、デイヴ氏はエドさんの横に座り、さらにひとこと付け加えました。

    「自分に……」

     エドさんは駒をデイヴ氏に返しました。

    「こうなることは、わかっていたのですか」

     駒を受け取ったデイヴ氏は、悲しみに沈んだ声で答えました。

    「想像しなかったかといえば嘘になります。しかし、わたしには、これしか方法がなかった。わたしにとってもサムにとっても、最後のチャンスだったのです」

     エドさんはラム酒をひと口飲みました。

    「デイヴさん、あなたにとって、この金のキングと銀のクイーン、そのどちらをサム教授が選ぶかは、どうでもよかったんでしょう? 肝心なことは、サム教授が、あなたの依頼どおり、『どちらか一方を選ぶ』ことだったんだ。あの人はそれができなかった」

    「サムは昔からそういうところがありました。手に入れられるものはなんでも手に入れてやろうと、人よりがむしゃらに勉強して医科大学に進学したり、わたしにチェスでどうやっても勝てないのを、いつまでたっても気にしていたり。しまいには、大学内でほかの教授より偉くなってやろうと論文を捏造し、そしてわたしが相続した財産を狙ってわたしを……父も罪なことをしたものですよ。家に、『財産は長男が相続するべし』という伝統があるという理由で、わたしに全財産を残し、サムにはほとんどなにも与えなかったんですから。もちろん、わたしはサムを援助しました。それなしでは教授の地位につくのは難しかったでしょう。しかし、サムとしては、それも不満の一部だったんでしょうね」

     エドさんはやりきれない、という顔をしていました。

    「サム教授は、自分に許された以上に手に入れてやろう、という欲望に負けたんですね。もしも、彼がいわれたとおりにしていたら、なにを得られたんですか?」

    「わたしや、わたしのような仲間と、苦しみのない世界に暮らす許しです。そのために、わたしはこの『虹ノ都』に降りてきたのですよ。この街は、エドさん、あなたのような人間と、わたしのような人間とが、触れ合い交感できる自由な場所なんです。わたしはサムを、待っている運命から救いたかった。悪魔の住まう地獄に落ちる、恐ろしい運命から。しかしわたしには、あんな形での試練を与えることしか許されていませんでした。ご主人、ラム酒を。この探偵さんよりも強いものをお願いします」

     目の前にジョッキが置かれると、デイヴ氏はこの前書いていた紹介状をエドさんに手渡しました。

    「署名済みです」

     エドさんは、「デイヴ・キーツ」と書かれたその書類を眺め、デイヴ氏に軽く頭を下げました。

    「ありがとうございます。……ところで、このほかにも、なにか重要なことを教えていただけるとおっしゃってませんでしたっけ」

     デイヴ氏は、ジョッキから唇を離すと、わずかにほほ笑みました。

    「大事なことを忘れるところでしたね。探偵のエドさん、あなたに教える情報とは、これです。あなたの本名。『エド・マクファースン』です」

    「わたしの本名……?」

     エドさんは、激しくまばたきをしながら、何度も、何度も、呪文のように「エド・マクファースン」、「エド・マクファースン」と唱えました。

    「どうして……どうして、こんな当たり前のことを忘れていたんだろう。わたしは気にもしなかった……エド・マクファースン。なぜ、この名前をつぶやくことで、わたしはいいようのない懐かしさに、胸が締め付けられるような懐かしさに駆られるんだろう」

    「それはあなたが自分で見つけることです」

     エドさんははっと隣を見ました。デイヴ氏の姿は、もうどこにもありませんでした。


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    Re: ぴゆうさん

    あの兄弟はいつか対決させる気でいましたが、意外と早くチャンスが来て、なにが問題だったのかを特定できたのはよかったです。しかし、書いていて精神的にちとしんどかったのも事実です。

    こういうところも賞を取れなかった理由かもしれません。

    この世界がなんなのかについては、この「町の冒険」内で明らかにされますので、もう少しがまんしてください……(汗)

    NoTitle

    あの世とこの世の中間の世界
    中庸なのでしょうか。

    それにしても切ない話だわ
    兄は凡庸だからこそ
    高望みもせず、運命を受け入れた。
    弟は才があるばかりに
    運命を呪い続けた。
    悲しいことだ。
    どこかで、区切りをつけられたら違っていただろうに

    Re: 弘と書いてひろむと読みますさん

    ふむ。めんつゆもいけますか。まだ山芋が半分残っているので試してみることにします♪

    ほんと万能選手だなあめんつゆ(^_^)

    しかし、頑張ってますよね~

    いつもご訪問と有難いコメントを嬉しく思って居ります。

     ・・・って、『 改まって、何やねん?! 』 などと言わんといてや~

     山芋は、山葵が決めてやけど、『蕎麦つゆ』がオススメ! 
                   
        (ブログの記事にも追記済)

          失礼致しました。
    • #10905 弘と書いてひろむと読みます 
    • URL 
    • 2013.07/23 19:03 
    •  ▲EntryTop 

    Re: カテンベさん

    そうかもしれません。しかし、デイヴさんは、ほんとうに弟を救いたかったのだと思います。

    ちょっとネタバレになりますが、そのメッセンジャーとしてエドさんとこの世界を選んだのも、エドさんという人間を信頼し、その世界ならサム教授もまっとうな人間の心を持っているかもしれないと思ったからでしょう。

    そのことについては、もっと深く書き込むべきだったかもしれませんが、読みやすさを重んじたため駆け足になってしまいました。この点は反省してます。なにぶん自転車操業みたいにして更新を続けているので……。

    なるほどねー

    どのみち避けられない未来というものだったのかもしれませんね
    引導を渡す意味合いがあったのかなぁ?
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