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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 2-10

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    第二章 街の冒険 10

    「困るって、わからないんですか?」

     エドさんは愕然としました。

    「わからない、というより、どう答えたらいいかがわからんのじゃ。質問が漠然としすぎておる。わしに教えられることならなんでも教えてやれるのだが、ひとりの人間が人間としてなにをなすべきかを答えるのは、これはむしろ哲学者か宗教家の仕事ではないかな」

     エドさんは頭を抱えました。

    「また、哲学問答ですか。そういえば、あのとき、相談料のお金をもらってませんでしたね。あれはなかったことにしますから、もうちょっと親身になって相談に乗ってもらえませんか」

     辞書は憤慨したようでした。

    「わしはじゅうぶん親身になってお主の質問に答えておるぞ。どう答えていいかわからぬ質問をしているのは、お主ではないか」

    「しかたないじゃないですか。わたしがわからないことは、わからないと尋ねなければならないのですから……そういえば、辞書さん、あなたはどれだけのことを知っているのですか?」

    「『不可能』という言葉以外は、この世のありとあらゆることを知っておるぞ。それだから、教授どもがわらわらと……」

    「それはよくわかりました」

     エドさんは辞書の言葉をさえぎりました。このまま放っておけば、どれだけ自慢話や愚痴を聞かされるかわからなかったからです。

    「とにかく、この世界で、いまわたしが頼れそうなのはあなたくらいのものなんです。わたしが陥った、この奇妙な状況を最初から話しますから、どうかわたしの進む道を教えてください」

     エドさんは、気がついたら無人島に流されていたところから、もと海賊だった船乗りたちに助けられたこと、まぼろしのような海賊との戦いを経て「虹ノ都」にたどりついたこと、デイヴ氏とサム教授のこと、そういったことを包み隠さず話しました。

     辞書は、困ったように聞いていましたが、エドさんが話し終わると、ふかぶかとため息をつきました。

    「そのように相談されても、わしにはどう答えたらいいかわからん。知識はあっても、もとはといえばわしは一介の辞書にすぎん。人に道を示すのは、わしの手に余る仕事じゃ」

     エドさんは、自分のやってきたことは徒労だったのだろうか、と、肩を落としました。これはと思って頼った相手が、自分はただの辞書だと……辞書?

     エドさんははっとして顔を上げました。もしかしたら、自分は、質問のしかたを間違えていたのかもしれない。もののわからない人間だったのかもしれない。デイヴ氏は、なんといっていたのか?

    「あなたは、さっき、なんでも知っているとおっしゃいましたよね」

    「そうじゃが」

     エドさんは、深呼吸しました。

    「それでは、これについて答えてください。『エド・マクファースン』」

     辞書は、ようやく、笑顔を浮かべました。

    「それなら、答えられるぞ。わしの中に、きちんと項目があるからな」

     エドさんは額の汗をぬぐいました。そうです。相手は、辞書なのです。具体的な項目に対して、その内容を書いてあるのが辞書なのです。そうである以上、具体的なことでなければ、辞書にはなにも答えられないのです。

    「エド・マクファースン。探偵。後に便利屋。クロエという妻あり……」

     それを聞いたとき、エドさんは大声で叫びました。

    「……クロエ!」

     どうして忘れていたのでしょう。どうして思い出せなかったのでしょう。愛する妻の名を叫びながら、エドさんの両目からは涙がとめどなくあふれ出ていました。涙とともに、思い出もどんどん心からあふれてきます。最初に出会ったあの美術館横の公園の思い出から、次第に惹かれあい、みんなが見守る中で結婚式を挙げ、緑の森の村に便利屋を開いて……。

     辞書は、エドさんのその変化に驚いたのか、知識の説明をやめていました。

    「探偵どの、どうされた?」

    「思い出した……思い出したんです! そうだ……わたしは緑の森の村の病院で、クロエが初めての子供を産むためにがんばっているのを、病室の外でただ祈りながら待っていた……医者が頭の固いやつで、わたしを病室に入れてくれなかったから、待合室で自動販売機の熱いコーヒーを飲みながら、やきもきするしかできなかったんだ……なんでもそうとうな難産だそうで、クロエは……クロエ! わたしはこんなことをしているわけには!」

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    Re: limeさん

    ここらへんまでは予定通りだったんですが、ここからが難行苦行で……(^_^;)

    張った伏線の回収に追われています(^_^;)

    すごく大変(^_^;)

    エドさんの苦労話じゃなくて自分の苦労話になてしまた!(笑)

    やっぱり、その質問の仕方が一番ですよね。
    さすがエドさん。

    そして、ああ、そうか。
    これはやっぱり、あの便利やさんの続き。
    大切なことを全部、忘れてしまってたんですね。
    それも、大事なシーンから。
    大変じゃん。
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