「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)
エドさんと君のための冒険 2-11
第二章 街の冒険 11
辞書は、立ち上がり、頭をかきむしりながら歩き回るエドさんの姿を眺めていましたが、やがてひとこといいました。
「……ほかに聞きたいことはないのかな?」
エドさんは頭をひと振りすると、もう一度椅子に座りなおしました。
「うかがいたいことは山ほどあります。次は、『クロエ・マクファースン』」
「クロエ・マクファースン。画家。エドという夫あり。代表作『聖母子像』……」
エドさんは説明を聞きましたが、知っていることばかりで、特に目新しいこともありません。
「『虹ノ都』」
「この世界の都市。主産業、金銀細工、漁業、農業、稀少品……」
エドさんは目をつぶって聞いていました。
「『この世界』」
エドさんの問いに、辞書は驚くような答えを返してきました。
「エド・マクファースンの精神世界……」
「ええ?」
エドさんは息を呑み、そして腑に落ちるのを感じました。
「そうか、だから、わたしが知っている人物ばかりが、わたしの周りに現れるのか。この世界がまぼろしとデイヴさんがいっていたのは、このことだったのか」
エドさんはちょっと考え、尋ねました。
「目覚める方法」
「お主は起きているじゃろう?」
「え? だって、この世界はわたしが見ている夢だとおっしゃりませんでしたっけ」
「人の話はよく聞かんか。精神世界というたじゃろうが。お主は今、起きておる。その心の奥底、起きているお主が気がつかないところでお主が考えている考え、それが今のお主じゃよ」
エドさんは頭が痛くなってきました。
「するとわたしは、病院で起きて吉報を待っているわたしの、深層意識とか無意識とかいうやつなのですか? そういう頭が痛くなってくる話をされると、ついていけなくなってきまして」
「まあ、無理はない。ほかに聞きたいことはなにかな?」
エドさんは考えました。
「わたしはどうしてこういった重要なことを思い出せなかったのか……じゃ、漠然としすぎているな。誰かが妨害しているとしたら? そうだ、聞いておかなければいけないことがあった」
エドさんは、予言者のおばあさんがいったことを思い出して尋ねました。
「『この世のもののふりをした、この世のものでないもの』とは、なんですか?」
辞書はひとことで答えました。
「悪魔の記憶」
「悪魔? そうだ! わたしは、悪魔と!」
再び、エドさんの頭の中には、かつて出くわした恐ろしい悪魔、「地獄の国税局」の記憶が、堰を切ったようにあふれ出してきました。
「あの、わたしたちと小妖精のグレンを狙ってきた悪魔が、またやってきたのですか? しかし、あいつは、宇宙人により『時間と空間の果て』に放り込まれてしまったはずですが」
「悪魔は去っても、悪魔の記憶は残る、ということじゃな。お主の精神の隅に残る思い出が、お主を絶望させるために動き出して来たんじゃ。お主の記憶だから、お主を傷つけたりすることはできないかもしれんが……」
「わたしを惑わし、わたしの取るべきでない行動をさせたりすることができるということですか」
エドさんは考え込みました。
「『悪魔退散の方法』、じゃない、『悪魔の記憶を退散させる方法』」
「記憶を退散させることはできん。お主にできるのは、克服することだけじゃ」
「『悪魔の記憶を克服する方法』」
「もっとも気にかかっていることを解決して、自信をつけることじゃな。それが最善の手段じゃ」
「わたしがもっとも気にかけていることは、クロエの出産です。ということは、わたしにとっての精神的な危機とは……」
エドさんは、そこまでしゃべってから、真っ青になりました。
「クロエのお産はそれほど重いのか?」
エドさんは辞書に、早口で尋ねました。
「わたしの精神世界と、クロエの精神世界は、今、つながっているのですか?」
「ある意味で、つながっているといえる」
「そのつながったところとは、この世界のどこに当たるのですか?」
「『嘆キノ峰』。その頂上じゃ」
辞書は、立ち上がり、頭をかきむしりながら歩き回るエドさんの姿を眺めていましたが、やがてひとこといいました。
「……ほかに聞きたいことはないのかな?」
エドさんは頭をひと振りすると、もう一度椅子に座りなおしました。
「うかがいたいことは山ほどあります。次は、『クロエ・マクファースン』」
「クロエ・マクファースン。画家。エドという夫あり。代表作『聖母子像』……」
エドさんは説明を聞きましたが、知っていることばかりで、特に目新しいこともありません。
「『虹ノ都』」
「この世界の都市。主産業、金銀細工、漁業、農業、稀少品……」
エドさんは目をつぶって聞いていました。
「『この世界』」
エドさんの問いに、辞書は驚くような答えを返してきました。
「エド・マクファースンの精神世界……」
「ええ?」
エドさんは息を呑み、そして腑に落ちるのを感じました。
「そうか、だから、わたしが知っている人物ばかりが、わたしの周りに現れるのか。この世界がまぼろしとデイヴさんがいっていたのは、このことだったのか」
エドさんはちょっと考え、尋ねました。
「目覚める方法」
「お主は起きているじゃろう?」
「え? だって、この世界はわたしが見ている夢だとおっしゃりませんでしたっけ」
「人の話はよく聞かんか。精神世界というたじゃろうが。お主は今、起きておる。その心の奥底、起きているお主が気がつかないところでお主が考えている考え、それが今のお主じゃよ」
エドさんは頭が痛くなってきました。
「するとわたしは、病院で起きて吉報を待っているわたしの、深層意識とか無意識とかいうやつなのですか? そういう頭が痛くなってくる話をされると、ついていけなくなってきまして」
「まあ、無理はない。ほかに聞きたいことはなにかな?」
エドさんは考えました。
「わたしはどうしてこういった重要なことを思い出せなかったのか……じゃ、漠然としすぎているな。誰かが妨害しているとしたら? そうだ、聞いておかなければいけないことがあった」
エドさんは、予言者のおばあさんがいったことを思い出して尋ねました。
「『この世のもののふりをした、この世のものでないもの』とは、なんですか?」
辞書はひとことで答えました。
「悪魔の記憶」
「悪魔? そうだ! わたしは、悪魔と!」
再び、エドさんの頭の中には、かつて出くわした恐ろしい悪魔、「地獄の国税局」の記憶が、堰を切ったようにあふれ出してきました。
「あの、わたしたちと小妖精のグレンを狙ってきた悪魔が、またやってきたのですか? しかし、あいつは、宇宙人により『時間と空間の果て』に放り込まれてしまったはずですが」
「悪魔は去っても、悪魔の記憶は残る、ということじゃな。お主の精神の隅に残る思い出が、お主を絶望させるために動き出して来たんじゃ。お主の記憶だから、お主を傷つけたりすることはできないかもしれんが……」
「わたしを惑わし、わたしの取るべきでない行動をさせたりすることができるということですか」
エドさんは考え込みました。
「『悪魔退散の方法』、じゃない、『悪魔の記憶を退散させる方法』」
「記憶を退散させることはできん。お主にできるのは、克服することだけじゃ」
「『悪魔の記憶を克服する方法』」
「もっとも気にかかっていることを解決して、自信をつけることじゃな。それが最善の手段じゃ」
「わたしがもっとも気にかけていることは、クロエの出産です。ということは、わたしにとっての精神的な危機とは……」
エドさんは、そこまでしゃべってから、真っ青になりました。
「クロエのお産はそれほど重いのか?」
エドさんは辞書に、早口で尋ねました。
「わたしの精神世界と、クロエの精神世界は、今、つながっているのですか?」
「ある意味で、つながっているといえる」
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~ Comment ~
ポール・ブリッツさんへ!!
先日はコメント大変ありがとうございんす。!
凄い長編小説で、本格的ですねー。凄い才能ですねー!
私は目が悪くちょっと読むことが出来ず申し訳ありませんが
ややスリラー的小説でしょうか!
今後ますますのご健闘を祈っています。!
ではまた宜しくお願い致します。!
凄い長編小説で、本格的ですねー。凄い才能ですねー!
私は目が悪くちょっと読むことが出来ず申し訳ありませんが
ややスリラー的小説でしょうか!
今後ますますのご健闘を祈っています。!
ではまた宜しくお願い致します。!
Re: カテンベさん
現在、伏線回収という名の「辻褄合わせ」に追われています。
かねてより予定の結末には進んでいますが、辻褄が合わなかったり設定の不備を見つけたり(^_^;)
それでも来月末にはすべての疑問点を解消してみせますから待っててくださいね!(← 当たり前か(^_^;))
かねてより予定の結末には進んでいますが、辻褄が合わなかったり設定の不備を見つけたり(^_^;)
それでも来月末にはすべての疑問点を解消してみせますから待っててくださいね!(← 当たり前か(^_^;))
記憶を消していたのが悪魔の仕業なら、何故ここまで妨害にこないのでしょう?
そもそも何故記憶を消したのでしょう?
出産が死産になるかも。母子ともに危険かも。と思わせた方が苦しめることが出来たはずなのに。
気になる気になる〜
先の展開が待ち切れません(^^)
そもそも何故記憶を消したのでしょう?
出産が死産になるかも。母子ともに危険かも。と思わせた方が苦しめることが出来たはずなのに。
気になる気になる〜
先の展開が待ち切れません(^^)
- #10913 カテンベ
- URL
- 2013.07/26 11:36
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Re: 荒野鷹虎さん
大長編とはとてもいえない250枚くらいの作品ですが、アゴを出しながらもがんばって書いてます(^_^)
またいらしてくださいね。