「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 2-12

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    第二章 街の冒険 12

     エドさんは「王冠亭」の扉を押し開けました。テリー青年が、快活な声で、エドさんに声をかけました。

    「どうでしたか? 何か収穫は?」

    「……ラム酒をください。強いものを。近いうち、ここを発ちます」

     テリー青年はジョッキにラム酒を注ぐと、カウンターに座ったエドさんに渡しました。

    「ということは、手がかりをつかめたんですね」

    「……ええ。しかし、わたしひとりの手には余りそうなこともわかったんです」

     エドさんは、にこりと笑いました。

    「テリーさん。いや、テリー・モーガンさん。あなたをどこで見かけたのか思い出しましたよ。わたしがあなたなら、この宿屋の名前を、『神の御業亭』と変えますね」

     テリー青年はその名前を舌先で転がしていましたが、やがて顔をほころばせました。

    「それはいい名前ですね! 明日にでも看板屋を呼んできて、改名することにしよう」

     上機嫌なテリー青年をそのままにしておいて、エドさんはラム酒をちびちび飲みながら、「その人」が来るのを待ちました。

     「その人」は、いつもどおり夕暮れにやってきました。

    「お待ちしてましたよ、奇術師の先生」

     「その人」……老奇術師は、エドさんのただ事ではない顔つきを見て、まばたきをしました。

    「わしに、何か用があるのですかな?」

    「あなたの助けが必要なのです」

     エドさんは、大学で辞書から聞いた話と、現実の世界で自分が置かれた状況を、つぶさに奇術師に説明しました。

    「こんなことをあなたのようなご老人にお願いするのは筋が通っていないことはわかっていますが、それでもあなたが必要なのです。あなたをたぶらかそうとしたあの悪魔、『地獄の国税局』が、いや、記憶によって生み出されたその分身が、わたしを絶望のどん底に突き落とそうと動いているのです。この街で、あの悪魔の恐ろしさを身をもって知っているのは、このわたし自身と、あなただけです。お願いします。どうかわたしといっしょに、『嘆キノ峰』への旅をしていただけませんか。頼れるのは、あなただけなんです」

     老奇術師は、難しい顔をして考え込みました。

    「わしはこの通り老体だ。エドさん、あなたは『嘆キノ峰』がどこにあるのか知っておるのか」

     エドさんはうなずきました。

    「調べました。この街の北方、『混迷ノ森』の長い道を抜けて、さらに峻厳な山岳地帯を通る……あなたどころか、若いわたしでさえも踏破できるかどうかわからない長旅です」

    「それでも、わしを誘うと?」

    「あの悪魔は、この街では手を出してきませんでした。なにもできないうちに始末するのをやめ、わたしが、事態の真相を知り、恐怖におびえながらもがくのを、楽しみながらじっと待つほうに変えたのでしょう。そうだとしたら、悪魔の攻撃は、『混迷ノ森』に入ってから本格的なものになると思われます。悪魔が直接はこの身体に手を出せないことはわかっていますが、わたしには悪魔からひとりだけで身を守りきる自信がないのです」

     エドさんの訴えを聞いた老奇術師は、腕を組むと目をつぶり、しばらくの間、何もいわずに黙りこくっていました。あきらめかけたとき、老奇術師は口を開きました。

    「わしは老体だ。旅は重荷に過ぎる」

     そういってから、目を開き、老奇術師はエドさんに笑いかけました。

    「だが、あの悪魔めには、ひどい目に遭わされかけた。その返礼はしなくてはな。エドさん、あなたの旅のお手伝いをしよう。それはわしにとっても、自分の弱かった思い出を克服することになるだろう。悪魔にひと泡吹かせることができたら、奇術師冥利に尽きるというものだ」

    「ありがとうございます!」

     エドさんは、奇術師の手をがっしりと握りました。奇術師も握り返してきました。

     翌日、エドさんは手持ちのお金を使って、ふたり分の旅装をととのえました。お城へ、今度は迷わずに行き、『混迷ノ森』へ続く北門を通るための旅券をもらいました。看板を書き換えたテリー青年に宿代を払い、奥さん心づくしの、固いけれども日持ちして栄養のあるビスケットを受け取りました。

     老奇術師が、エドさんに声をかけました。

    「さあ、行くとしようか、エドくん」

     エドさんはうなずき、城壁越しにちらちらと見える山の影を眺めました。あれが、『嘆キノ峰』なのでしょうか。影は何も語りませんでした。


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    Re: 青井るいさん

    続きを気にしてくださってどうもありがとうございます(^_^)

    死後の世界、というのもちらっと考えたことは考えたのですが、もろもろの理由で精神世界に。

    ユングとか、もっと読んでおくべきだったなあ、と書き始めてからちょっと後悔しました(^_^;)

    今月末に結末がありますが、読んで納得してくれることを願っています。ぶじまとまったらおたちあい(^_^)

    ポールさんにはまったくかなわないなあ、と言うのがここまで読んだ感想です。(僕なんかに言われても嬉しくはないでしょうがw)

    以前の話を読んでなくても仰られたようについて行けますね。
    二章10辺りで死後に近しい世界なのかな、と思ってましたが精神ですか。サイコロの謎(?)もすんなり理解出来ましたし、結末が早くも知りたくなりました。
    けれど、それ以上に結末に至る過程がどう展開されるのか更なる期待を抱かざるを得ません。

    Re: 山西 サキさん

    こうしてみなさんがコメントしてださるとほんとに嬉しいです(^^)

    初めて出会うキャラクターですけど、司書さんはそれとわかる形で過去作品には登場していません。

    マンガだったら、スター・システムですぐに顔がわかるのですけどね。

    まあ謎の人物ということで……(^^)

    Re: 矢端想さん

    今回は懐かしい登場人物が続々登場する夏休みオールスターキャスト編で行こうと(笑)

    とはいえよくよく考えてみたら、過去の「エドさん」を読んでいる人にしか嬉しくないサービスであった……(^^;)

    初めて読む人でも面白いように書いているつもりではありますがね(^^;)

    Re: LandMさん

    実はわたしもこういうストレートなファンタジー冒険児童文学を書くのは初めてです。

    小説を書きはじめてから最初に完成させた長編小説は秘境冒険ものファンタジーでしたが、「紅蓮の街」みたいな出てくるやつはみんな悪党、血がしぶいて人がばたばた死ぬ、という代物だったので、それを読んだサークルの先輩から、「お前はファンタジーというものをカン違いしている」というお言葉をいただきました(^^;)

    本人としては恥ずかしいけど気に入ってもいるので、もしかしたら精神的に余裕があるときリメイクするかもしれません。リメイクしないととても見せられません(笑)

    ファンタジー冒険小説として楽しく読ませていただいてます。
    出会ったことのあるキャラクターも登場するんですが、初めて出会うキャラクターもいて、出ているお話しを読んでやろうかな…などと考えたりしています。
    でも、そんなことしていると自分の創作時間が……!

    ああ、やっぱりテリーさんはモーガンズインの青年だったんですね。
    結局過去作を確かめず仕舞いでしたが最初からそんな気がしていました。
    こんな主要キャストが新キャラなわけがないと。

    今回は正統派というか、冒険チックでいいですね。こういう冒険モノは書いたことがないので、読んでいて楽しいですね。どういう街、どういう森かというのが結構書いていてイメージして面白いですからね。
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