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    「ショートショート」
    ユーモア

    ものを切るのは

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     その男があたしの家、祖父のやっている寿司店に初めて来たときから、あたしは怪しいと思っていたのだ。

    「親父さん、いい腕してるねえ!」

     祖父は一見職人かたぎで頑固そうに見えるが、実はけっこう軽い。まんざらでもなさそうな顔で注文のまぐろの寿司を出した。

    「まあ、これでも、若え時分にはみっちり修行したからねえ」

     男は満足そうにうなずくと、寿司を口に運び、いった。

    「親父さん、テレビコマーシャルに出てみる気はないかい?」

    「コマーシャル?」

     レジにいたあたしが、よしたほうがいい、という前に、男は広告代理店の名刺を押しつけるように渡し、機関銃のようにまくし立てていた。

    「最近の若いやつは、なんでもかんでも機械に頼って、修行や努力という言葉を忘れていやがる。そんなやつらに、親父さんの、なんだ、日本人魂を訴えてほしいんだよ」

     祖父は意外と軽い男である。

    「で、なにをいったらいいんだい」

     あたしは、祖父を止めるのは無理だと悟った。



     翌日、カメラマンやスタッフを従えてやってきた男は、祖父にいった。

    「固くならないで、若いやつに意見するようにいってくれ。アクション!」

     祖父は渋茶を煮しめたような顔でいった。

    「ものを切るのは……道具じゃねえ! 腕と気合いよ!」

     祖父はノリノリだった。そのせいか、収録は一発で終わり、祖父には少なからぬ謝礼が払われた。

     あたしの勘はよく当たるのだが……今回ははずれだろうか。



     数日後。テレビのスイッチをひねったら、祖父の顔が大写しになっていた。

    「おじいちゃん! テレビに出てるよ!」

     祖父はいそいそとやってきた。やっぱり軽い。

     画面では祖父が例のセリフをいった。

    『ものを切るのは……道具じゃねえ!』

     映像が変わり、明るい音楽が流れた。

    『そうです! ものを切るなら、ブリッツ社の型抜き包丁! 一本たったの105円!』

     唖然とするあたしたちの前で、コマーシャルは終わった。

     祖父は無言で立ち上がった。



     さらに数日後、コマーシャル話を持ちかけてきた広告代理店の男が刺殺死体で発見された。

     このことと関係あるかはわからないが、若い時分に祖父がみっちり修行したのは寿司だけではなかった。

     組み打ち術、鎧通し術の免許皆伝。

     あたしはよく思うのである。やっぱり、ものを切るのは、道具などではないのだと……。
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    ~ Comment ~

    Re: 大海彩洋さん

    このセリフは、あろひろし先生の快作ギャグ漫画「優&美衣」で大工の名人の老人が吐く台詞から取りました。

    その老人は普通の木を切るノコギリで、鉄骨をミクロン単位の正確さで切ってしまうのです(笑) そのバカバカしさに、わたしは腹を抱えて笑いました。いいマンガだったなあ。

    もちろんこの小説の場合、素手で刺殺死体を作るわけにはいきませんから、道具が必要ではあるのですが……本質は腕ですね(^^;)

    あれ

    包丁は道具の一種? とか思っていると、突然刺殺死体。
    本当だ、道具じゃない!と納得。
    何で刺殺されたんだろう、それともやっぱり腕と気合?
    気になるラストを1日考えてしまいそうです。
    夏にブラック、楽しませていただきました(^^)

    Re: LandMさん

    そういえば、昔、「料理の鉄人」で、よく手入れされた文化包丁で道場六三郎を破った料理研究家の偉い女性がいたなあ……。

    文化包丁便利だよなあ。

    まあ、なんにしてもどんな道具でも人は殺せますからね。
    ・・・ちょっと最近は道具の工夫をすることを忘れていることに危惧しますけどね。切る包丁の用途も専門化しすぎている嫌いがあるのが個人的には・・・ですけど。包丁は確かに万能です。

    Re: いもかるびさん

    中島らも先生の著作で読みましたが、関西のほうのローカルCMの製作事情というものはすごいものがあるんだそうですな。過酷なまでに値切られて作らなければならないとか……そういう状況下ではチェック機能などといってられないのです(笑)

    誰が広告代理店の男を殺したのかについては、永遠の謎ということで……きっとマーダーライセンス牙かブラックエンジェルズの仕事だと思います(笑)

    おとこはくびをはねられた

    これは全面的に広告代理店の男が悪いというか
    撮影班誰ひとり映像確認もつっこみもしなかったのかよというか。
    まぁ面白いからいっかーなんでしょうか

    物を切るのは道具ではない・・・・じつはすで?

    広告代理店マンは越中ふんどし一丁の爺さまにクリティカルヒットされたのか
    あるいはブリッツ社側のヒットマンに暗殺されたのか気になるところではあります。
    別に首はとばされてませんが。

    Re: レルバルさん

    同志発見(笑)。

    でも105円で小学生でも立派な包丁が買える時代ってほんとうにいいのかな、とも思ってしまいます。

    昔のバタフライナイフが野放しにされていた時代よりもおっかない事態だと思うのですが……。

    安いですね。
    105円だと買っちゃいます。
    最近百均の包丁が案外切れることを見出しまして。

    ちょーど自分の中でポピュラーな内容でしたw

    Re: カテンベさん

    コメントをお読みして、ようやく、どうしてみんなこの小説に「怖さ」「恐ろしさ」を感じるのかわかった気がしました。

    書いているわたしの頭の中では、いしかわじゅん先生のような、「デフォルメされたギャグキャラクターのマンガ」の画が浮かんでいたのですが、読んでくれたほとんどの人は「火曜サスペンス劇場」のような画を脳裏に浮かべていたのではないか、と……。

    わたしほんとうに浮世離れしていたみたいです(^^;)

    こんにちは

    孫娘の心の声と思われるナレーションに怖さを感じさせられました。
    何かやらかしてもおかしくない過去を知っていて、実際やらかしてもうたんだろうとわかっていながら平然と日常を過ごしているんですもん

    Re: 火消茶腕さん

    最初は、「ブリッツ社の包丁」と書いてましたが、推敲で改めました。

    読んでいて暗示にとどめたほうがいいかなあ、と思って。

    それに現場に物証残したら危険ですしね(^_^)

    やっぱりわたしの小説はブラックなもののほうが面白いのかなあ。悩める男であった(^_^;)

    Re: ダメ子さん

    すまんわたしは百均包丁でこの一年半家事をしている(笑)

    たしかに切れないけど(^_^;)

    Re: ROUGEさん

    お読みいただいてありがとうございます(^_^)/

    軽くて笑えるギャグ小説を書こうと思ったらブラックになってしまいました。(^_^;)

    包丁を武器に戦うヒーローでは、大阪商工会議所秘密会所の殺人丁稚、「定吉七番」が有名ですね。面白い小説でしたが、五巻で終わってしまったのが残念です。

    ユーモアショートショートとブラックユーモアショートショートとをカテゴリわけしたほうがいいかなあ。

    読ませていただきました。

    広告代理店の男が何で刺されたか気になります。

    ブリッツ社の包丁ですか?

    それなら、宣伝通りだし(笑)。

    面白かったです。

    同じ刃物で魚をさばいてないか心配
    あと百均の包丁は切れないです

    もしやブリッツ社の社長の命も危ないんじゃ?

    そういう結末でしたか(^^;
    刃物は怖いです。

    包丁は手軽に何処でもある調理器具だけれど
    使い方で武器にもなるんですものね。

    その包丁の達人を侮ってはいけませんね(^^;
    夏に相応しいブラックなお話ですね(笑)
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