「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 3-1

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    第三章 森の冒険 1

     「混迷ノ森」というのは大嘘だな、とエドさんは思いました。混迷というのは合っているけれど、これは森じゃなくてジャングルだ。昼なお暗い密林だ。

     ほとんど申し訳のような小道を横切るつたや木の枝を、山刀を振るって切り開きながら進んで行くのは、エドさんにも酷でしたが、老奇術師にとってはさらに過酷なもののようでした。

     無理もありません。この密林を越えて行くのは、身体頑健な森の男でも、よほどの難行苦行でしょう。それを、原野よりは街で生きるほうが似合いの人間ふたりで踏破しようというのです。このあたりの人が駄獣と呼ぶ、らくだに似た家畜二頭に旅の荷物を載せて引いてこそいるものの、その歩みは遅々としたものにならざるを得ませんでした。唯一の救いは、この二頭の家畜は、一度たっぷりえさを食べたら、最低でも二ヶ月はなにも食べなくても平気で動けるという事実でした。旅にはうってつけの相棒です。

    「わしらの足では、山にたどり着く前に遭難してしまうな、エドさん」

     幾度目になるかわからぬ小休止のとき、老奇術師はいいました。道に迷わないように、太い木の幹にナイフで印を刻みつけていたエドさんは、責任を感じてうつむきましたが、奇術師は顔に笑みを浮かべて続けました。

    「いや、間違えないでほしいのだが、わしは、きみを責めているのではないぞ。むしろ、きみには感謝しているのだ、探偵さん」

    「感謝……ですか?」

    「そうとも。きみとのこの旅は、わしが『ミスター・エレクトリコ』だった昔を思い出させてくれるのだ。森の中を一歩踏み出すごとに、わしは自分が若返っていくように思えてしかたがないのだ」

    「エレク……なんですって?」

    「エレクトリコ。イタリア語で『電気』の意味だ。駆け出しだったあのころは、今のような熟練した技こそないものの、電光のような素早さでカードを操り、観客の前で消してみせたものだ。街から街、村から村をさすらう旅路には、今のこのように道なき道を進むことも何度となくあったものだよ」

    「イタリア生まれだったんですか?」

     老奇術師は首を振りました。

    「いや、生まれはよくわからない。たぶん、きみと同じ国の生まれだろうな、エドさん。気がついたときには、サーカスのトラックに揺られていたよ。道が険しくなると、わしをかわいがってくれた、同じようにどこの生まれとも知れぬ歌手兼占い師のおばさんが歌ってくれたっけ。『道はでこぼこ、身体はくたくた、されどわれらが心は進む。前進!』ってな。あれから何十年も経った今でも覚えているよ」

     老奇術師が節をつけて歌うのを真似して、エドさんも歌ってみました。

    「道はでこぼこ……」

     奇術師も合わせました。

    「身体はくたくた……」

     ふたりは大きな声で歌いました。

    「されどわれらが心は進む。前進!」

     なんとなく、ひどくおかしくなってきて、エドさんは笑いました。つられたのか、奇術師も笑い始めました。

    「はははは!」

    「あははは!」

     ひとしきり笑ってから、奇術師はいいました。

    「やれやれ、笑いすぎてすっかり、小休止どころではなくなってしまったな」

     エドさんは首を横に振りました。

    「いいえ、今のお話で、身体の疲れがいっぺんに取れたような気がしましたよ」

     エドさんは伸びをしました。

    「さて、それじゃ、行きましょうか、奇術師さん」

     今度首を横に振るのは、老奇術師の番でした。

    「いいや、わしにはきちんと名前がある。その名前で呼んでほしい」

     エドさんは頭をかきました。

    「失礼しました。それでは……」

    「エレクトリコ」

    「え?」

    「ミスター・エレクトリコ。わしの初めての芸名だよ。これからは、どうかその名で呼んでくれ」

     エドさんはうなずきました。

    「それでは行きましょう、ミスター・エレクトリコ!」

    「もちろんだとも、エドくん!」

     ふたりと二頭は再び、道を覆う藪とつたと枝、それにくわえてぬかるむ足元の地面に立ち向かっていきました。この道の果てに、求める人がいるのです。前進あるのみです!

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