「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 3-5

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    第三章 森の冒険 5

    「これはすごいですね……」

     エドさんはつぶやきました。

    「まったくだ」

     ミスター・エレクトリコもつぶやくように答えました。それほどまでに、ふたりの前に広がる森は、異様なものでした。

     足元には、金貨や銀貨、白金貨といった貨幣、宝石などがいたるところに転がっています。木々にたわわにぶら下がっているのは、いかにも食べられそうな、おいしそうな果実たち。美術品や工芸品が、それこそがらくたのようにあちらこちらに置かれていました。

    「幻覚でしょうか?」

     エドさんは奇術師に尋ねました。

    「試してみるかね?」

     奇術師はたしなめるようにいいました。エドさんは、首をぶるっと振りました。

    「やめておきます。うっかり手を伸ばして、手を毒蛇なんかに噛まれたらどうしようもない」

     ミスター・エレクトリコは、その答えを聞いてうなずきました。

    「そういうことだ。怪しげなものには触れないほうが賢明だ。あの悪魔めの陰謀がなくても、この森はじゅうぶんに危険だ。それだけはよくわかる」

     ふたりは、薄気味悪そうに、周りを見回しました。

     それにしても、と、エドさんは思いました。たとえ幻覚にしても、これだけわたしがほしいものを集められると、ついふらふらと行きそうになってしまうな。あの壺なんか、わたしが前からひとつくらいはほしいと思っていた白磁の名品じゃないか。そのそばにあるのは、東洋の刀剣だ。見るかぎり、なかなかの品物だ。

    「ええい!」

     エドさんは、自分を正気づかせようと、両の頬を、手でばしっと叩きました。幻覚は消えなかったものの、その痛みによって、いくらか気がまぎれました。

    「ミスター・エレクトリコ、あなたにはなにが見えていますか? わたしには、わたしが大好きな骨董品の数々が並んでいるのが見えますが」

     ミスター・エレクトリコは答えました。

    「わしには、わしがいまだ見たことがない、どうやって使うのかわからない道具が転がっているのが見える。妙なところに穴が開いたコップだとか、変な形に捻じ曲がったコインとかだ。それがなにに使うのだけはわかる。……みんな奇術の道具だ。もし、手にとってじっくり調べることができたら、使いかたの一端だけでもわかったら、わしはどれだけの不思議で面白い光景を観客に見せることができるものか、そう考えただけでも誘惑に駆られそうだ」

     ミスター・エレクトリコは自分の目を押さえました。

    「こんなところに長居したら、それこそ精神がやられてしまうぞ」

    「どうしてこんなことが起きているのでしょうか? 狙ったようにわたしたちの欲しいものだけを出現させるなんて」

     エドさんがそう漏らすと、ミスター・エレクトリコは目を押さえたままいいました。

    「それについては、きみがついこの間、話してくれたじゃないか。ここは、きみの精神世界なんだろう?」

     エドさんは、そういわれて思い当たりました。

    「そうでした。だとしたら、納得できます。わたしの目に欲しいものを映しているのは、わたし自身の無意識なんだ。わたしが持っている欲望が、ここに形として現れて来ているんだ。『旅程表』にあったとおり、『心ガ生ミ出シタモノナリ』でしたね」

    「そういうことだろう。同様に、わしの心も、その欲望のおもむくままに、わしに幻影を見せている。正直、わしは怖いよ。わしは自分が怖い」

     エドさんも、老奇術師のいうことがよくわかりました。

    「ここはまだ、『惑ワシノ園』の入り口付近にすぎませんからね」

    「うむ……。入り口付近でこれだったら、真ん中や出口では、いったいどんな誘惑が、わしらを待ち構えているのだ? 『旅程表』には、どんな助言が書いてある?」

     エドさんは「旅程表」を取り出し、読みました。すでに半分は暗記していましたが、それでも、読み直すことでなにか新しい発見があるのではないかと思ったのです。

    「求メルモノハ罠ナリ。求メザルモノモ罠ナリ。心ヲ無ニシテ正シキ道ヲ探ルベシ。……まるで哲学問答みたいです。どういうことなのか、体験しないとわからないらしい」

     エドさんは「旅程表」をしまいました。


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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    マップ上に見えるものがすべて手に触れるものとは違うRPGがあったら、ギブアップだよなあ、と思って、幻覚を中心にした話を作りましたが……。

    敵を強くしすぎた(^^;)

    なんとかしますが、うーん(^^;)

    幻覚の類はやはり不可思議なところへ行くとどうしてもありますからね。極度の緊張と警戒心が心を支配して、見えないものまで見えてくる・・・というのは必須ですね。逆にそれがないと、危険が沢山あって死んでしまう。冒険家は因果なものですね。

    Re: 矢端想さん

    わたしが中学生のときレムの「ソラリスの陽のもとに」の難しさに辟易して投げ出してしまったことはともかくとして。

    コメントの表示、非表示は、パスワードを知っている投稿者本人でないとムリみたいです。

    ではなぜコメントが表示されているかというと……。

    わたしが一字一字打ち直したからじゃあ!(笑)

    それはそうと、レムだったら「宇宙創世記ロボットの旅」「ロボット物語」「泰平ヨン・シリーズ」のほうが好きですハイ。

    ソ、ソラリス・・・。

    Re: limeさん

    そんなあなたに、「光源氏」を副産物に作り出す「源氏力発電機」をどうぞ!

    ……っていつのネタだ(笑)

    自分の欲しいものが、目の前に並ぶのですね。
    その誘惑は、耐え難いです。

    私なら、なんでしょう。
    アイデア・・・。そりゃあ、目に見えないか。

    じゃあ、綺麗な若いツバme・・・いや、なんでもありません。
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