「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 3-7

     ←真実を映す鏡 →エドさんと君のための冒険 3-8
    第三章 森の冒険 7

    「わしにはこうもりのような奇妙な翼を生やした小さな醜い怪物が見えた。きみがわしと同じものを見たのかはわからん。しかし、わしはそんなものを欲しいと思ったことはない。そうすると、それは実際にそういうものが飛んでいたか、それとも悪魔めの作り出した幻覚か、だ。エドくん、きみの表情から察するに、きみの人生でとても大事ななにかだったのだろうが、わしは百万対一で、幻覚のほうに賭ける」

     エドさんは、ぽつりぽつりとしゃべりました。

    「グレンは……あのグレムリンは、醜いけれども、わたしとクロエにとって、子供のようなものだったんです。わたしは、わたしは……自分が抑えられなかった」

    「きみはいったな。悪魔は、わしらを疑心暗鬼に陥らせるか、ここぞというところで勝負手を打ってくると。わしには……いや、ここではいわないでおこう。わしには、奇術師としての経験から、この森を抜けるうえで考えていることがあるのだ。それを覚えておいてくれ」

    「……ええ」

     エドさんはしばらく黙っていましたが、やがていいました。

    「ミスター・エレクトリコ」

    「なんだね?」

    「ありがとうございます。あなたを同行者に選ぶことができて、ほんとうによかった」

    「そういうせりふは、ここを無事抜け出した後に取っておいてくれ。わしの賭けがはずれている可能性もあるのだからな」

     老奇術師は、叱るようにそういった後、声の調子をがらりと変えて歌いました。

    「道はでこぼこ、身体はくたくた、されどわれらが心は進む。前進!」

     エドさんの顔に、ようやく笑顔が戻りました。

    「行きましょう。前進!」

     ふたりは、先ほど声が聞こえた方向に向かって歩き始めました。

     声は、だんだんとはっきりしてきました。女性の声です。

     エドさんは、その声が誰のものか、すぐにはっきりとわかりました。

    「クロエ!」

     エドさんは両手で耳をふさぎました。それでも、心を溶かすような妻の声は、手のひらを通して伝わってきます。

    「……あなた! 会いたかった! あなたを探してここまで来たの! あなた! 声を聞かせて!」

     エドさんは自分にいい聞かせました。

    『……辞書がいっていた。わたしの精神世界と、クロエの精神世界がつながっているところは、「嘆キノ峰」の頂上だと。だから、あれは、この森が作り出した幻覚だ。偽のクロエだ。しかし、どうしてここまで本物にそっくりなんだろう。クロエ、クロエ、わたしはきみに会うためにこの旅を続けているんだ。それなのに、クロエ、クロエ!』

     エドさんは自分の心に打ち勝とうと、老奇術師に問いかけました。

    「ミスター・エレクトリコ!」

    「なんだね!」

    「わたしには妻の姿が見えます。妻の声が聞こえます。あれは幻覚なんですか?」

     ミスター・エレクトリコは答えました。

    「わしには、遠い昔に、幼くして亡くした娘の姿が見える。あのころとまったく変わらない姿で、『お父さん、お父さん』と繰り返している。間違いない、あれは幻覚だ。まぼろしだ」

     その間も、幻覚のクロエさんは、懐かしい声で誘惑を続けてきます。

    「……あなた、あなた、どうしたの? 早くこっちへ来て。あなたに、どうしても話さなくちゃいけないことがあるの。時間がないわ。とても大切なことなのよ」

     エドさんは、頭を振って、幻覚を追い払おうとしました。声の誘惑はさらに続きます。声どころか、顔も身体も、その細かなしぐさも、本物のクロエさんにそっくりです。このままでは、頭がどうにかなってしまいそうです。早くここを抜け出さないと、最後には誘惑に負けてしまうかもしれません。

     心の中で戦いを続けていたエドさんが、ふと目を上げると、森の木々の隙間を抜けて、青空と山の影が見えました。

     出口です!

     エドさんはがむしゃらに足を速め、そちらの方向へ向かおうとしました。

     その瞬間です。

     先ほどと同じように、いや、先ほどよりも強い力を込めて、ミスター・エレクトリコはエドさんの腕をつかみました。

    「行くな!」

    関連記事
    スポンサーサイト



     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【真実を映す鏡】へ  【エドさんと君のための冒険 3-8】へ

    ~ Comment ~

    Re: ツバサさん

    よくいらしてくださいました! 歓迎いたします(^_^)

    この危険をくぐり抜けた後も、エドさんの前にはさらなる危険が待ち受けています。そしてそれは、思わぬところから来るのです。

    エドさんの運命やいかに!

    先日はコメント頂きありがとうございました!
    遊びに来させていただきました(´∀`)

    今回のお話は幻覚の誘惑に負けずに森を抜けようという話なんですね~。
    この後、どうなるのか気になります!
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【真実を映す鏡】へ
    • 【エドさんと君のための冒険 3-8】へ