「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)
エドさんと君のための冒険 3-9
第三章 森の冒険 9
「エドくん!」
「なんてことだ! 何も見えない!」
エドさんは手を振り回し、当たったものをつかみました。革の感触がします。どうやらアリントンかモルデカイの手綱のようですが、真っ暗なのでよくわかりません。少なくとも、触れてかぶれるようなつたや枝ではなかったことには感謝するべきでしょう。
「ミスター・エレクトリコ!」
「わしはここだ!」
「わしはここだ!」
かぶさってふたつの声がしました。エドさんは驚き……あの悪魔、「地獄の国税局」のたくらみを悟りました。
「この暗闇は、単にわたしたちを道に迷わせるために視界をふさいだだけではないようですね」
エドさんはいやな汗の粒が額に浮かんでくるのを感じながら、つぶやきました。それにかぶせるように、声がしてきます。
「ミスター・エレクトリコ、それはわたしの声じゃありません。やつです。だまされないでください!」
その声の質、細かないいまわし、エドさんのそれにそっくりです。
エドさんは歯噛みしました。
「悪魔め、わしらをどうするつもりなんだ」
エドさんが答える前に、エドさんに化けた悪魔の声がしました。
「おそらく、やつはここにわたしたちを足止めして、釘づけにしておくつもりでしょう」
「それでやつにどんな得があるんだ?」
ミスター・エレクトリコの声がしたので、エドさんは叫びました。
「悪魔の話に乗らないでください! それはわたしに化けたやつの声です」
「エドくん、それはわしの声ではない」
エドさんの頭は混乱してきました。事態はややこしいことになってきています。
「『地獄の国税局』は、わたしたちを永遠に道に迷わせることが目的でしょう。しばらくここにとどまり、打開策を考えるべきです」
暗闇の中、エドさんはいいました。そのそばから、エドさんに化けた悪魔は、エドさんそっくりの声を出してきます。
「ミスター・エレクトリコ。悪魔のささやきに耳を貸してはいけません。悪魔は、わたしたちをここから永遠に動けないようにして、食料や水が尽きるのを待つつもりなんです。この暗闇の中では、水や食料がどこにあるのかさえ、よくわからなくなっているではありませんか」
どこまでも悪知恵の働く悪魔です。もっともらしいことを並べたてて、暗闇に対する恐れからエドさんたちがとんでもない方向へ逃げ出そうとするのを、てぐすね引いて待っているのでしょう。
エドさんは考えました。
「とりあえずこうするのはどうですか。ここに立ったまま、腕を伸ばして周りを探り、わたしたちか、駄獣が手に触れるまで動かないでいるんです」
「しかし、毒草やつる草に腕を取られてしまうかもしれん。危険ではないか」
ミスター・エレクトリコの心配そうな声がしました。エドさんが何か答えようとしたとき、同じミスター・エレクトリコの声がしました。
「悪魔にだまされては駄目だ。わしは、きみの提案に乗ろう。手を伸ばしてくれ。わしはここにいる」
伸ばしかけていたエドさんの手が、止まりました。こっちの声のほうが偽物のミスター・エレクトリコだとしたら、どうなるか? 悪魔が考え出した何か恐ろしい罠に手を突っ込んでしまうのではないか?
「どうした、エドくん。手を伸ばしてくれ」
「やめるんだ、エドくん。手を伸ばしたらやつの思う壺だぞ」
ふたりのミスター・エレクトリコの声がしました。声は同じですが、いっていることはまったく違います。
ええい。
エドさんは、悪魔の罠にはまるならはまっただ、と、手を伸ばして辺りを探りました。
「ミスター・エレクトリコ、どこにおられるんですか?」
エドさんのいる場所から離れたところで声がしました。
「それは悪魔の声です、ミスター・エレクトリコ!」
エドさんは大声で叫びました。そのとき、手が何かに触れました。動物の皮、温かい血が通った動物の皮の感触です。
「ミスター・エレクトリコ! 手綱を放さないでいてください!」
エドさんが叫んだとき、辺りは耳をつんざくような大きな音に包まれました。
「エドくん!」
「なんてことだ! 何も見えない!」
エドさんは手を振り回し、当たったものをつかみました。革の感触がします。どうやらアリントンかモルデカイの手綱のようですが、真っ暗なのでよくわかりません。少なくとも、触れてかぶれるようなつたや枝ではなかったことには感謝するべきでしょう。
「ミスター・エレクトリコ!」
「わしはここだ!」
「わしはここだ!」
かぶさってふたつの声がしました。エドさんは驚き……あの悪魔、「地獄の国税局」のたくらみを悟りました。
「この暗闇は、単にわたしたちを道に迷わせるために視界をふさいだだけではないようですね」
エドさんはいやな汗の粒が額に浮かんでくるのを感じながら、つぶやきました。それにかぶせるように、声がしてきます。
「ミスター・エレクトリコ、それはわたしの声じゃありません。やつです。だまされないでください!」
その声の質、細かないいまわし、エドさんのそれにそっくりです。
エドさんは歯噛みしました。
「悪魔め、わしらをどうするつもりなんだ」
エドさんが答える前に、エドさんに化けた悪魔の声がしました。
「おそらく、やつはここにわたしたちを足止めして、釘づけにしておくつもりでしょう」
「それでやつにどんな得があるんだ?」
ミスター・エレクトリコの声がしたので、エドさんは叫びました。
「悪魔の話に乗らないでください! それはわたしに化けたやつの声です」
「エドくん、それはわしの声ではない」
エドさんの頭は混乱してきました。事態はややこしいことになってきています。
「『地獄の国税局』は、わたしたちを永遠に道に迷わせることが目的でしょう。しばらくここにとどまり、打開策を考えるべきです」
暗闇の中、エドさんはいいました。そのそばから、エドさんに化けた悪魔は、エドさんそっくりの声を出してきます。
「ミスター・エレクトリコ。悪魔のささやきに耳を貸してはいけません。悪魔は、わたしたちをここから永遠に動けないようにして、食料や水が尽きるのを待つつもりなんです。この暗闇の中では、水や食料がどこにあるのかさえ、よくわからなくなっているではありませんか」
どこまでも悪知恵の働く悪魔です。もっともらしいことを並べたてて、暗闇に対する恐れからエドさんたちがとんでもない方向へ逃げ出そうとするのを、てぐすね引いて待っているのでしょう。
エドさんは考えました。
「とりあえずこうするのはどうですか。ここに立ったまま、腕を伸ばして周りを探り、わたしたちか、駄獣が手に触れるまで動かないでいるんです」
「しかし、毒草やつる草に腕を取られてしまうかもしれん。危険ではないか」
ミスター・エレクトリコの心配そうな声がしました。エドさんが何か答えようとしたとき、同じミスター・エレクトリコの声がしました。
「悪魔にだまされては駄目だ。わしは、きみの提案に乗ろう。手を伸ばしてくれ。わしはここにいる」
伸ばしかけていたエドさんの手が、止まりました。こっちの声のほうが偽物のミスター・エレクトリコだとしたら、どうなるか? 悪魔が考え出した何か恐ろしい罠に手を突っ込んでしまうのではないか?
「どうした、エドくん。手を伸ばしてくれ」
「やめるんだ、エドくん。手を伸ばしたらやつの思う壺だぞ」
ふたりのミスター・エレクトリコの声がしました。声は同じですが、いっていることはまったく違います。
ええい。
エドさんは、悪魔の罠にはまるならはまっただ、と、手を伸ばして辺りを探りました。
「ミスター・エレクトリコ、どこにおられるんですか?」
エドさんのいる場所から離れたところで声がしました。
「それは悪魔の声です、ミスター・エレクトリコ!」
エドさんは大声で叫びました。そのとき、手が何かに触れました。動物の皮、温かい血が通った動物の皮の感触です。
「ミスター・エレクトリコ! 手綱を放さないでいてください!」
エドさんが叫んだとき、辺りは耳をつんざくような大きな音に包まれました。
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~ Comment ~
Re: カテンベさん
そこを詳しく書くとほんとにネタバレになるのでやめますが、エドさんは一種の「二重写し」みたいな状態になっているのです。この世界そのものであるエドさんと、そこに降りてきた、エドさんの人格を持つエドさん。それに加えて、病院でコーヒーを飲みつつクロエさんの出産を待つエドさん。その三者がそれぞれに一種の「独立性」を持ちながらも一体である、そんなイメージで書いています。小説としての表現上、視点が「降りてきたエドさん」に固定されているから見えにくくなっていますが。
では、なぜ降りてこなければならなかったかですが、それを書くとほんとにネタバレしてしまう(^_^;)
すみませんあと二週間待ってください(^_^;)
では、なぜ降りてこなければならなかったかですが、それを書くとほんとにネタバレしてしまう(^_^;)
すみませんあと二週間待ってください(^_^;)
ポール・ブリッツ さんへ!!
コメントありがとうございます。!
大阪にいた時尼崎の競艇を見た事があります。笑)
競馬・競輪も好きでした。
昼食は将棋で負けたものが支払う事も多かったです。汗)
勝負事が好きで今まで野球を見ていましたが今日は阪神も、巨人も長い試合で遅くなりました。
ポール・ブリッツ さんは
何処のフアンでしょうか!?
随分高度な小説なようで私にはちょっと難しいようですね^^汗)では又。!
大阪にいた時尼崎の競艇を見た事があります。笑)
競馬・競輪も好きでした。
昼食は将棋で負けたものが支払う事も多かったです。汗)
勝負事が好きで今まで野球を見ていましたが今日は阪神も、巨人も長い試合で遅くなりました。
ポール・ブリッツ さんは
何処のフアンでしょうか!?
随分高度な小説なようで私にはちょっと難しいようですね^^汗)では又。!
こんにちは
ネタバレ気味にしてもうてすんませんm(_ _)m
サイコダイブ状態というと、現実世界のエドさんが精神世界にやってきたイメージなんですね。
病院にいるエドさんとは別に、元から精神世界に同時存在しているエドさんのお話と思てました;^_^A
サイコダイブ状態というと、現実世界のエドさんが精神世界にやってきたイメージなんですね。
病院にいるエドさんとは別に、元から精神世界に同時存在しているエドさんのお話と思てました;^_^A
Re: ツバサさん
ほんとはこんな敵側圧倒的有利な戦いを入れる気はなかったんですが、思いついた以上、入れなければウソではないですか。
収拾をつけるのにそうとう苦労しました。
次回以降の更新をお楽しみに!
収拾をつけるのにそうとう苦労しました。
次回以降の更新をお楽しみに!
Re: limeさん
敵の武器を幻覚にしてからよく考えてみると、「敵の武器はバーチャルリアリティである」ということに気づいて真っ青に(^_^;)
視覚と聴覚を奪われたら完全アウトじゃないか! と。
敵も味方もそれぞれの立場で最善手を打つだろうことを考えると、この戦いは入れるしかなかったのであります。収拾の難しさに、一時は敗北宣言も考えましたが、そこはなんとか乗り切ったつもりです。
明日からの更新を待て(^_^)
視覚と聴覚を奪われたら完全アウトじゃないか! と。
敵も味方もそれぞれの立場で最善手を打つだろうことを考えると、この戦いは入れるしかなかったのであります。収拾の難しさに、一時は敗北宣言も考えましたが、そこはなんとか乗り切ったつもりです。
明日からの更新を待て(^_^)
Re: カテンベさん
その点ですが、エドさんの、顕在化した意識とは別の、様々な意識や感情は、「それに適した人間や知的存在」の精神世界とつながることによって、「その人物」としてエドさんの前に現れます。だからこの世界を構成しているすべては、エドさんの無意識と他者の精神世界の混合物なのです。ここに顕在化しているエドさんの意識は、夢枕獏先生の作品用語を使えば、「自分の無意識にサイコダイブしている」ようなものです。
それにより、エドさんの顕在化した意識が影響を受けて変質し、またそれが無意識であるエドさんの精神世界に対して影響を与える、という一種のフィードバックみたいなことも起こり得ます……というか、ネタバレですが第三章結末と、来週からの第四章ではまさにそこがクローズアップされることになります。
さらに、外部から影響を与える他者の精神世界が、エドさんの精神世界から影響を受けて変質する、という形のフィードバックもあります。サム教授とデイヴ氏の挿話はこれを意味しています。この辺は今にして思えば、もっと説明を入れたり整理するべきだったかもしれませんが、あまり理屈を入れたり、作品を書くことによって生ずる作品自体の持つ生のエネルギーとを考えると、発表後の修正はしたくなかったのであります。
だいたいそんなことを考えながら書いてました。これで疑問に答えられたと思うのですが、「納得いかないぞコノヤロ」と思われたら、ごめんなさいわたしが悪いんです(汗)
それにより、エドさんの顕在化した意識が影響を受けて変質し、またそれが無意識であるエドさんの精神世界に対して影響を与える、という一種のフィードバックみたいなことも起こり得ます……というか、ネタバレですが第三章結末と、来週からの第四章ではまさにそこがクローズアップされることになります。
さらに、外部から影響を与える他者の精神世界が、エドさんの精神世界から影響を受けて変質する、という形のフィードバックもあります。サム教授とデイヴ氏の挿話はこれを意味しています。この辺は今にして思えば、もっと説明を入れたり整理するべきだったかもしれませんが、あまり理屈を入れたり、作品を書くことによって生ずる作品自体の持つ生のエネルギーとを考えると、発表後の修正はしたくなかったのであります。
だいたいそんなことを考えながら書いてました。これで疑問に答えられたと思うのですが、「納得いかないぞコノヤロ」と思われたら、ごめんなさいわたしが悪いんです(汗)
おお(゜Д゜;)同じ声で全く違う事を言われたら、
混乱して凄くイライラしそうですね。
相手の姿が見えないと本人なのか確かめようがないですから、
これは苦戦しそうですね(`・ω・´)
混乱して凄くイライラしそうですね。
相手の姿が見えないと本人なのか確かめようがないですから、
これは苦戦しそうですね(`・ω・´)
この手の妨害は、姑息でイライラしますね。
エドさんがイラチだったら、すぐ爆発してしまいそう^^;
オウム返しで喋られた時の腹立たしさに、似てるかな?
忍耐力の勝負ですね。
敵も結構、忍耐強い?
エドさんがイラチだったら、すぐ爆発してしまいそう^^;
オウム返しで喋られた時の腹立たしさに、似てるかな?
忍耐力の勝負ですね。
敵も結構、忍耐強い?
こんにちは
ちょっと今さらな疑問なんですけど、エドさんと精神世界のエドさんは同じだけど深層意識とか無意識と言われるようなもの、てなことを辞書に言われたから別とも言えそうなのに性格や思考はエドさんそのままっぽいですね。
わがままだったり短気だったり理性で制御されてないような人でもおかしくなさそうなのに違わないっぽいのは素でいい人なの。てことですか?
わがままだったり短気だったり理性で制御されてないような人でもおかしくなさそうなのに違わないっぽいのは素でいい人なの。てことですか?
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Re: 荒野鷹虎さん
子供のころ、読書感想文の課題図書で読んだ、「投げろ魔球 カッパ怪投手」という児童文学に影響されまして。
ちなみに、内容は、ピッチャーとしてドラゴンズにスカウトされたカッパが、魔球を投げて大活躍する、というものです(ウソではない)
もの悲しさを感じるラストシーンとともにお気に入りの作品だったのですが、どこかに処分してしまい、今は持っていません……アマゾンで買い直そうかなあ。
そういう人間なので、落合監督は神です。信仰しています。(^_^)
このブログでも、野球小説が一本ありますよ。「防御率0.00の男」というタイトルです。「その他」カテゴリに入っています。ぜひお読みください!