「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)
エドさんと君のための冒険 3-10
第三章 森の冒険 10
突然の大きな音に、エドさんは、あっと叫んで耳をふさぎました。音に驚いたのは人間だけではありませんでした。駄獣もまた、人間と同じように……いや、人間以上に驚いたのです。
一瞬、力のゆるんだエドさんの手から、手綱がするりと抜けました。それはある意味幸運だったかもしれません。エドさんがひいていたアリントンは、恐慌にかられたのか、足音も激しく、どこかへ走って逃げ出してしまったのです。もし、手に手綱がからみついていたら、エドさんは地面を引きずられて、重症を負っていたことでしょう。
しかしエドさんもまた、恐慌に陥りかけていました。駄獣には、旅の道具や、水や食料が積んであります。当座をしのぐ必要最低限のものはナップザックにしまって自分で背負っているとはいえ、駄獣に積んである荷物がなければ、この先旅を続けることができるかどうかもわかりません。
「ミスター・エレクトリコ! あなたは大丈夫ですか?」
エドさんが叫ぶと、ミスター・エレクトリコも弱々しい声で答えました。
「わしは大丈夫だ。だが、モルデカイに逃げられてしまった」
両方ともにか。エドさんは、絶望的な気分になっていくのを感じていました。
「あなたがしっかりしていなかったからですよ!」
エドさんの耳に、そう叫ぶ、エドさんそっくりの声が聞こえてきました。
「ミスター・エレクトリコ、だまされないでください! あれはわたしの声じゃありません!」
「わかっとるよ。きみがそんなことをいうはずがない」
ミスター・エレクトリコがそう答える声にほっとしたエドさんは、声のしたほうに手を伸ばしました。
すると、そちらとは別なほうから、ミスター・エレクトリコの声が聞こえてきました。
「エドくん! 間違えるな、わしはこっちだ!」
エドさんは、手を引っ込めそうになりましたが、意を決して、そのまま手を振り回しました。
手が、布地に触れました。ナップザックの感触です。エドさんは、そこからさらに手を伸ばし、老奇術師の腕をしっかりとつかまえました。
「本物ですね?」
「そうだ。エドくんの手がわかるぞ」
エドさんとミスター・エレクトリコは、何も見えない中、しっかりと手を握り合わせました。
エドさんは、安堵からふーっと長い吐息をつきましたが、それでこの危機がどうにかなったわけでもありません。
「お怪我はありませんか」
「転んで泥だらけになったが、そのほかは大丈夫だ。……さて、これからどうしたものか、エドくん」
「行けるところまで行くしかないでしょう」
エドさんは答えました。しかし、ミスター・エレクトリコは、さらに弱々しい声で続けるのです。
「思うのだが……エドくん。きみの旅は、わしらには荷が重すぎたのかもしれん。わしは、いささか後悔しているのだ」
「なにをおっしゃっているのですか!」
エドさんは老奇術師の手を強く握り締めました。ミスター・エレクトリコも、エドさんの手を強く握ってきています。
「ここまで来たうえでなんだが、わしも老人だ。あの宿屋で、奇術を披露していたころが懐かしくてたまらん。こんな旅などに出ないで、あそこでずっと暮らしていたほうが、わしは幸せだったのだ」
ミスター・エレクトリコはエドさんの手をぐっぐっと握り締めてきます。エドさんは泣きたくなってきました。
「モルデカイとアリントン、二匹の駄獣がいなくなったことで気落ちするのもわかります。しかし、わたしは、わたしは、なんとしてでも妻に……」
胸をかきむしられるような思いに、エドさんは絶句しました。
「きみの気持ちはわかる。しかし、人間には、できることとできないことがあるものなのだよ」
老奇術師は、エドさんの手をぐっぐっと握ってきます。手を振りほどこうか、と一瞬考えたエドさんでしたが、はっとしました。なにか、老奇術師の手の握り方に、規則性のようなものがあることに気がついたのです。
エドさんは、頭の中の記憶をたぐりはじめました。
突然の大きな音に、エドさんは、あっと叫んで耳をふさぎました。音に驚いたのは人間だけではありませんでした。駄獣もまた、人間と同じように……いや、人間以上に驚いたのです。
一瞬、力のゆるんだエドさんの手から、手綱がするりと抜けました。それはある意味幸運だったかもしれません。エドさんがひいていたアリントンは、恐慌にかられたのか、足音も激しく、どこかへ走って逃げ出してしまったのです。もし、手に手綱がからみついていたら、エドさんは地面を引きずられて、重症を負っていたことでしょう。
しかしエドさんもまた、恐慌に陥りかけていました。駄獣には、旅の道具や、水や食料が積んであります。当座をしのぐ必要最低限のものはナップザックにしまって自分で背負っているとはいえ、駄獣に積んである荷物がなければ、この先旅を続けることができるかどうかもわかりません。
「ミスター・エレクトリコ! あなたは大丈夫ですか?」
エドさんが叫ぶと、ミスター・エレクトリコも弱々しい声で答えました。
「わしは大丈夫だ。だが、モルデカイに逃げられてしまった」
両方ともにか。エドさんは、絶望的な気分になっていくのを感じていました。
「あなたがしっかりしていなかったからですよ!」
エドさんの耳に、そう叫ぶ、エドさんそっくりの声が聞こえてきました。
「ミスター・エレクトリコ、だまされないでください! あれはわたしの声じゃありません!」
「わかっとるよ。きみがそんなことをいうはずがない」
ミスター・エレクトリコがそう答える声にほっとしたエドさんは、声のしたほうに手を伸ばしました。
すると、そちらとは別なほうから、ミスター・エレクトリコの声が聞こえてきました。
「エドくん! 間違えるな、わしはこっちだ!」
エドさんは、手を引っ込めそうになりましたが、意を決して、そのまま手を振り回しました。
手が、布地に触れました。ナップザックの感触です。エドさんは、そこからさらに手を伸ばし、老奇術師の腕をしっかりとつかまえました。
「本物ですね?」
「そうだ。エドくんの手がわかるぞ」
エドさんとミスター・エレクトリコは、何も見えない中、しっかりと手を握り合わせました。
エドさんは、安堵からふーっと長い吐息をつきましたが、それでこの危機がどうにかなったわけでもありません。
「お怪我はありませんか」
「転んで泥だらけになったが、そのほかは大丈夫だ。……さて、これからどうしたものか、エドくん」
「行けるところまで行くしかないでしょう」
エドさんは答えました。しかし、ミスター・エレクトリコは、さらに弱々しい声で続けるのです。
「思うのだが……エドくん。きみの旅は、わしらには荷が重すぎたのかもしれん。わしは、いささか後悔しているのだ」
「なにをおっしゃっているのですか!」
エドさんは老奇術師の手を強く握り締めました。ミスター・エレクトリコも、エドさんの手を強く握ってきています。
「ここまで来たうえでなんだが、わしも老人だ。あの宿屋で、奇術を披露していたころが懐かしくてたまらん。こんな旅などに出ないで、あそこでずっと暮らしていたほうが、わしは幸せだったのだ」
ミスター・エレクトリコはエドさんの手をぐっぐっと握り締めてきます。エドさんは泣きたくなってきました。
「モルデカイとアリントン、二匹の駄獣がいなくなったことで気落ちするのもわかります。しかし、わたしは、わたしは、なんとしてでも妻に……」
胸をかきむしられるような思いに、エドさんは絶句しました。
「きみの気持ちはわかる。しかし、人間には、できることとできないことがあるものなのだよ」
老奇術師は、エドさんの手をぐっぐっと握ってきます。手を振りほどこうか、と一瞬考えたエドさんでしたが、はっとしました。なにか、老奇術師の手の握り方に、規則性のようなものがあることに気がついたのです。
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Re: ゆーきさん
読んでくださってほんとにありがとうございます!
旅行ですか。お仕事かプライベートかは存じませんが、暑いので、お身体にはお気をつけくださいね!
この小説は、だいたい再来週に結末を迎えます。わたしが大規模な書き直しを始めたりしないならばですが……(^_^;)
ゆーきさんも執筆がんばってくださいね!
旅行ですか。お仕事かプライベートかは存じませんが、暑いので、お身体にはお気をつけくださいね!
この小説は、だいたい再来週に結末を迎えます。わたしが大規模な書き直しを始めたりしないならばですが……(^_^;)
ゆーきさんも執筆がんばってくださいね!
Re: ミズマ。さん
よく来てくれました!(^_^)/
はい。ひさびさのエドさんです。それも長編です。(^_^)
渾身の力で書きました。
ミズマ。さんにもぜひ楽しんでいってもらいたいです!
はい。ひさびさのエドさんです。それも長編です。(^_^)
渾身の力で書きました。
ミズマ。さんにもぜひ楽しんでいってもらいたいです!
偽者の声に惑わされずに、
ついに互いの手を握りましたね!
これで一安心かと思いきや、
ミスター・エレクトリコ殿が弱気になってきましたね・・・。
二人がどうなるのか期待です(`・ω・´)
ついに互いの手を握りましたね!
これで一安心かと思いきや、
ミスター・エレクトリコ殿が弱気になってきましたね・・・。
二人がどうなるのか期待です(`・ω・´)
こんばんは。
こっそり現れては少しずつ読ませていただいているのですが、連載ペースが速くてついていけず、すっかり置いてきぼりになりつつあります><
でも明日から小旅行に出かけますので、移動中の時間を使って、たっぷり読んで追いつきたいと思いますw
こっそり現れては少しずつ読ませていただいているのですが、連載ペースが速くてついていけず、すっかり置いてきぼりになりつつあります><
でも明日から小旅行に出かけますので、移動中の時間を使って、たっぷり読んで追いつきたいと思いますw
随分ご無沙汰しておりました。
久し振りにきてみれば……
「あれッ? エドさん復活?」
「え、あの村にいるんじゃないの?」
「ってか、奥様はッ!?」
驚きでいっぱいです。
なにやらやっぱり地獄の国税局が絡んでいるようですし……わくわくします。
さぁて、最初っから読まないと!
まだ読んだことのない大好きな話があるというのは、人生の幸せの最上の部類に挙げてもいいって、私は思うのです♪ヽ( ´ ∇ ` )ノ
久し振りにきてみれば……
「あれッ? エドさん復活?」
「え、あの村にいるんじゃないの?」
「ってか、奥様はッ!?」
驚きでいっぱいです。
なにやらやっぱり地獄の国税局が絡んでいるようですし……わくわくします。
さぁて、最初っから読まないと!
まだ読んだことのない大好きな話があるというのは、人生の幸せの最上の部類に挙げてもいいって、私は思うのです♪ヽ( ´ ∇ ` )ノ
- #11003 ミズマ。
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- 2013.08/08 22:08
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Re: ツバサさん
じゃあなんであんな弱音を?
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