「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 4-3

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    第四章 山の冒険 3

     老奇術師は首をかしげました。

    「それは違うのではないかな」

     ミスター・エレクトリコは、エドさんを見ず、前を向いたままいいました。

    「そうだとしたら、どうしてわしがここできみといっしょに山を登っているのかの理由がわからん。きみに絶望をさせるだけなら、あのときわしの目だけは見えなくさせたまま、きみひとりで山を登らせてもよかったはずだ。むしろ、そちらのほうが悪魔めの目的には合っていたことだろう」

    「『地獄の国税局』がなにを考えているか、わたしたち人間が考えてわかるはずがないでしょう」

     ミスター・エレクトリコは、いきなり立ち止まると振り返りました。

    「そうだ! わからんのだ! わしにあの『魔術師の目』を売りつけたときには、悪魔めには、わしを陥れるという明確な目標があった。しかし、今は違う。悪魔めは、わしらに手出しもせずにこの山を黙って登らせている。わしらは……なにか、とても大きな勘違いをしているのではないか?」

    「勘違いだろうとなかろうと、この山を登ることがわたしにとって面白い体験ではないというのは疑いようもない事実ですよ、ミスター・エレクトリコ」

     エドさんは彼方に見える山頂を指差しました。

    「小休止はさっきしたはずです。進んでください」

     ミスター・エレクトリコは一瞬押し黙りましたが、かぶりをひとつ振ると、道を歩き始めました。

     エドさんは口に出さずに思いました。

    『そうだ。あの悪魔、「地獄の国税局」は、わたしを失意のどん底に沈めるため、この山へ、いつもの通りの回りくどい手段を使って追い込んだんだ。一歩、一歩、足を踏み出すごとに、それがわかる。一歩、一歩、足を踏み出すごとに、心が虚ろに、身体が軽く、乾いてくるのがわかる……まるで日干しだ。あの島で気がついたときも、そんなことを考えたっけ……』

     先を行くミスター・エレクトリコは、歩きながらもなにかを考えているようでした。歌を歌うのをやめ、なにごとかをぶつぶつつぶやいては、首を振ったりしています。

     エドさんは思いました。

    『考えてみれば、この世界でわたしが出会ったすべての人間が、「地獄の国税局」の化けたものだったのかもしれない。わたしを島から救い出してくれた熊ひげ船長も、あれだけ都合よく現れてくれたことから、疑ってしかるべきだったんだ。島でわたしに忠告した、あの予言者のお婆さんも同様。「虹ノ都」で出会った人間たちに至ってはいわずもがな。すべてが、ただ、わたしをこの山に向かわせるために存在したんだ……』

     エドさんは、抱いていた疑問点が、すべて収まるところに収まっていくのを感じていました。

    『手で触れるものは、本物に間違いないだなんて、誰がいったんだ? わたしが勝手に思っていた、いや、思わされていただけじゃないか。わたしの前で、都合のいいところだけ幻影を使い、そして考えを誘導したんだろう。ほかにどう考えろというんだ』

     エドさんは推理を積み重ねていきました。どんどんと、推理によって作られる建物は、強く堅いものになっていきます。

    『ミスター・エレクトリコ、あなたも「地獄の国税局」が化けたものだったんですね? わたしにくっついて、わたしに幻影を見せ、わたしをここまで誘導してきたんですね? そうなんでしょう?』

     エドさんは前を行く背中をにらみつけました。

    『いいでしょう。あなたの罠に乗りましょう。どうせ、わたしには、ほかに向かうべきところもないんだ。そこで、わたしは、悪魔が姿を変えたクロエを見ることになるんだろうな。わたしはクロエを裏切った。そんなことで悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。どうせ、クロエもわたしを裏切っているに違いないのだから……』

     そのときです。

     ミスター・エレクトリコは立ち止まり、両手を上げ、叫びました。

    「わしは馬鹿だ!」

     エドさんも立ち止まり、せせら笑うように老奇術師の振る舞いを見ました。ミスター・エレクトリコはエドさんに向き直ると、がっと肩に手をかけました。

    「エドくん……すまん」

     老奇術師は、目に涙を浮かべていました。

    「わしはもうこれ以上、きみと旅をすることはできん。してはいかんのだ」


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    ~ Comment ~

    Re: 鍵コメさん

    まあ、人間、健康が第一です。

    大事がなくてよかったですほんと。

    Re: 綾乃さん

    直木賞はわたしも目指していますよ。

    田舎にできた新設の高校に形だけ設けられた、まだ部員がひとりもいない野球部の監督が、部室の壁に「目標 甲子園優勝」と書くくらいの熱意で目指しています。

    その高校が、二十年後にどうなっているか、それは監督と学校と選手たちの頑張り次第でありますが、可能性はゼロではないのであります。

    望みは大きく。失うものはなにもない。

    Re: LandMさん

    人間には自分に可能なこと以外はできないのです。

    そこにすべての人生のドラマのもとがあるのです。

    と考えたがる決定論者(^^;)

    Re: 山西 左紀さん

    この小説はすでにエンディングまで書いてあります。

    プロの小説家・批評家である友人にプリントアウトを渡したら、「読んだけど、感想、ハードとソフト、どっちがいい?」とメールが来ました。

    今はどっちを読んでも精神衛生に悪いので、まだ返事を書いていません(^^;)

    でも、わたしとしては猛烈に面白い話を書いたつもりです! 必ずやみなさんを納得させてみせます!

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    大変面白く読ませていただきました!

    直木賞目指してがんばってくださいね。

    大丈夫です。馬鹿と分かっているうちは馬鹿ではありませんので。・・・というツッコミはなしか。シャーロックも罠とわかっていても突っ込むときありますからね。勇気と蛮勇は紙一重ですからね。しかし、蛮勇がないと勝てない人生もある。。。というのが人生が妙ですけどね。

    ポールさん、やっぱりとても面白いです。
    何だか読者の方も増えているみたいですし、羨ましいです。
    これを読む児童は、少し立ち止まって考えながら読んでいく必要があるかもしれませんが、それも良いことかもしれませんね。
    ミスター・エレクトリコは何を考えているのでしょうか?
    山西も少し立ち止まって考えてみます。
    エンディングまであと少し、とても楽しみにしています。

    Re: limeさん

    大丈夫です。この小説もまだひとひねりふたひねりありますが、limeさんの危惧しているようなことは起こりません。だって危惧されるような展開が続く児童文学って、子供のころ読んでつまらなかったもんな(^_^;)

    この小説は、善人が力を合わせて旅をやりとげる小説であります。それだけは断言!(ネタバレともいうが……(^_^;))

    う~ん、どんどん辛い旅になっていきますね。
    精神的に、参ってしまうというか。
    エドさんが、壊れていくような・・・。

    そういえば(ちょっと脱線しますが)、最近見た(超有名な)サスペンス系の洋画の続編。
    いい人かと思えば悪い人で、悪い人だという印象を与えておいて、実はいい人。小さなどんでん返しの繰り返しで、ちょっと人間不信^^;
    悪い人が、実はいい人だったっていうのは好きだけど、すごく信頼して、惚れ込んでた人物が、最後、一番の悪党だった・・・という終わり方だったのが、すごくショックで。
    あれさえなかったら、好きな映画になっていたのに・・・。
    どんでん返しも、使い方次第だなあって、思ってしまいました。
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