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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 4-5

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    第四章 山の冒険 5

    「希望……」

     エドさんは自分が積み上げてきたものが、一気に崩れ去るような気分でした。ミスター・エレクトリコは続けます。

    「きみがひとりでこの山を登るのは困難だったはずだ。不安と恐れでできているのだから、登っているときに悲しみや虚しさを抱いたところで不思議はない。その感情に負けることもあるだろう。だから、わしが伴に登ることで、きみをここまで引っ張り上げてきた。だが、だから、わしはここできみと別れなければならん」

    「なぜですか」

     エドさんはそれだけをいうのが精一杯でした。

    「わしが、きみの精神世界の一部とはいえ、その外にいるわしの本体とつながった、外部の者だからだとわしは考えている」

     ミスター・エレクトリコは悲しげにほほ笑みました。

    「エドくん、どこをどうひっくり返してみても、これは徹頭徹尾、きみ自身の問題なのだよ。最後のところでは、わしがどうこうできるものでもないし、どうこうできる資格もないのだ。きみはひとりで、不安と恐れを克服し、そして山頂で、きみが恐れているなにかと向き合わなければならんのだ」

    「クロエと……ですか」

     老奇術師は首を振りました。

    「それはわしにはなんともいえん。何度もいうようだが、それはきみの問題だ。きみが自分の胸に手を当てて考えるべきことなのだ。この旅に目的があるとしたら、それはきみのための冒険なのだよ」

    「わたしのための冒険……」

     ミスター・エレクトリコは、エドさんの肩をぽんと叩きました。

    「だからきみは、ここから先、ひとりで旅を続けるのだ。きみが無事降りてくることができるか、それとも行方知れずになってしまうかは、わしにはわからん。だが、きみが頂上にたどり着いたとき、この世界はまったく別の姿を示すのではないかと、わしは思っている。単なる予感だがな」

     エドさんは山頂を見上げました。

    「さて、エドくん、きみは、わしにここで待っていてほしいかね? それとも、山を下りていってほしいかね? どちらでも、きみの好きなようにするが」

     エドさんは、胸の奥底に眠っていた、わずかばかりの勇気を奮い起こして、老奇術師の問いに答えました。

    「山を下りてください」

     そういってから、無理やりに笑顔を作り、続けました。

    「山を下りて、あの『虹ノ都』に帰ってください。そして、あのテリー青年や、もしいるとしたらデイヴ氏、そして、来年帰ってくるだろう熊ひげ船長たちに、わたしが、少しは自分と戦う勇気があった人間だと伝えてください」

     エドさんは、老奇術師をまっすぐ見据えました。

    「まだ、不安はあります。山頂でクロエに会ったとき、まともに話ができるのかもわかりません。クロエがなんと答えるのかもわかりません。しかし、だからといって、わたしはクロエに許しを求めることができるし、クロエもわたしを許してくれるかもしれません。クロエとの間が、前のようなものではなくなったとしても、それよりもっとよい関係を作ればいいだけの話です」

     ミスター・エレクトリコは、安堵の表情を浮かべて、エドさんの語る言葉を聞いていました。

    「ミスター・エレクトリコ。あなたが『虹ノ都』に帰り着くまでに、いや、この山を下りて『混迷ノ森』にたどり着くよりも早く、わたしはこの世界を違ったものにしてみせます。『混迷ノ森』も、いくらか楽に通り抜けられるようになっていると思いますよ」

     ミスター・エレクトリコは深くうなずきました。

    「そうであることを願うよ。わしの役目は終わったようだが、きみの道はこれからだ。わしという重荷がいなくなったことで、山頂への道は短いものとなるだろう。だが、わしの想像が当たっていれば、危険と困難が終わったわけでもない。それを忘れないでくれ」

     そういった老奇術師は、片目をつぶってみせました。

    「だが、それも杞憂だろうな」

    「なぜです?」

     ミスター・エレクトリコは、なにを当たり前のことを、とでもいうように答えました。

    「何度も繰り返させないでくれ。きみは、わしを『魔術師の目』の誘惑から救ってくれた探偵ではないか。ほかに理由が必要かね?」


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