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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 4-8

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    第四章 山の冒険 8

    「……クロエは、双子を産もうとしているのか!」

     エドさんは、妻が難産であることを思い出し、腑に落ちるのを感じました。青年は続けます。

    「お母さんの身体にとっては、ぼくと妹のふたりを産むことは、難しいを通り越して、無理なんです。お母さんを守るためには、ぼくか妹のどちらかが、犠牲にならなくてはいけないんです。妹を犠牲にするわけにはいきません」

    「それだから、わたしに会ってさよならをいうために、ここで?」

    「……はい」

     青年はうなだれました。エドさんは柔らかい声のままいいました。

    「きみに、わたしが思っていることを話してあげよう」

     ひと呼吸おいて、エドさんは、青年の目をまっすぐに見つめていいました。

    「馬鹿なことを考えるもんじゃない」

    「え?」

    「馬鹿なことを考えるもんじゃない、といったんだ。わたしにはわかる。きみのお母さんは強い女性だ。緑の森の村の病院の医者は、頭は固くて融通はきかないかもしれないが、腕はしっかりとした名医だ。強い母親と、名医がついているんだ。どうしてわたしの子を死なせるもんか」

     エドさんは息子の隣に座りました。

    「きみは、怖がっているだけだ。この不安と恐れの山は、わたしのそれだけでなく、きみのぶんもいくらか含まれているようだね」

     エドさんは空を見上げました。そうすることで、クロエさんとのつながりが、より強くはっきりとするようにエドさんには思えるのでした。

    「怖がっている……?」

     エドさんはほほ笑み、答えました。

    「そうだとも。きみは怖がっている。当たり前の話だし、きみだけに限ったことじゃない。誰だって、自分が生まれ、広い世界に出て行くときには、怖くてたまらない気分になるものさ」

     エドさんは目を閉じました。

    「現に、わたしがそうだった。お母さんのお腹が大きくなってからというもの、わたしは不安で不安でたまらなかった。お母さんの身に危険が及ぶことを心配したんじゃない。わたしは、自分が父親という、いまだかつて経験したことのない、人生の重大事に直面しているということが怖かったんだ」

    「お父さんも、怖かったの?」

     エドさんはほんの少し、笑い声を上げました。

    「きみには悪いがね、怖くてたまらなかった。わたしがいい父親になれるのか、いい父親は無理でも、人並みの父親になれるのか、そんなことを考えては、寝床の中で枕を抱えたものさ。わたしでこうだから、お母さんはもっと深く悩んでいたのかもしれない」

     エドさんは、自分の考えを整理しているかのように続けました。

    「わたしは、この世界に、記憶を失ってやってきた。生まれてくる子供のことを考えると怖いので、できるだけ考えないようにしていたんだな。島にひとりきりでいて、そのままでいればいいというわけだ。しかし、そんなことが長く続くはずもないこともわかっていた。わたしは、かかわりのあった船の船長に拾われ、生まれ落ちるような感じで、世界へと引きずり出された」

     青年は無言で聞き入っていました。

    「けれども、わたしはなおもきみと対面することが怖かったようだ。わたしの心は、わたしを邪魔する悪魔を作り出し、まず、海賊船という形で、道をさえぎった」

     エドさんはそのときのことを思い出していました。

    「わたしは、自分でも気がつかない心の奥底で、きみに会いたいという思いと、きみに会いたくないという思いとの間で揺れていたんだろう。きみに会いたいという思いのほうは、ひとりではこの悪魔に勝てないと悟り、記憶の中から助けを呼んだ。いろいろな人が助けてくれた。人じゃないものもいたけど、人と呼んでいいだろう。特に感謝しなくてはいけないのは、デイヴさんかな。わたしの危機を救うために、自分の弟を救うという重要な仕事を託してくれたんだから。その仕事に失敗してしまったのは、わたしの力不足のせいだけどね。その点では、サム教授にも感謝しなくてはいけないな。彼は反面教師として、人間には得るものを得る権利と機会があることと、それに対して裏をかこうとしてはいけないということを教えてくれたんだから。わたしにとって、ふたりの子供とお母さんの健康は、当然得てしかるべきものだ」


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    ~ Comment ~

    Re: カテンベさん

    「男の子が生まれたら、自分はいい父親になれるだろうか。自信がない……」

    「女の子が生まれたら、自分はいい父親になれるだろうか。やっぱり自信がない……」

    「妻は大丈夫だろうか。心配だ……」

    「誰か相談できる相手はいないか?」

    という結果だ、とわたしは考えていますが(^^)

    リアリティないかな?(^^;)

    エドさんの精神世界でのことだから、他の人ともつながっているとはいえ、エドさんがこれはありえる、と想像できる範囲内でのことしか起きないんでしょうし、エドさんがどない思てるかによって、より立派になったり、より卑劣になったりと登場人物も影響を受けてるんだと思てたんですが。
    まだ生まれてきていない息子がそういう考えを持って登場するのはエドさん的にはどうせなら娘がいいなぁ、と無意識下で思っていたということなのかなぁ?と思てしまいました。
    親子揃っての大団円になるといいなぁと期待してます(^^)

    Re: limeさん

    前にも書いたとおり、この作品は「どうしてエドさんがこんなことになったのか」をエドさん自身が探る旅の物語です。この話を書くためには、こうして長編の形にするしかなかったのです。

    あと3回です。どうかおつきあいお願いします。<(_ _)>

    ああ、ここでやっと合点がいきました。
    エドさんは、クロエさんに対して、なにをそんなに負い目を感じてるんだろうと、ずっと不思議だったんです。
    そういうことでしたか。
    このエドさんの旅の不安は、この息子の不安に似ているのですね。
    父親の感覚って、母親とはまた、全く別のものでしょうからね。
    エドさんの誠実さが伝わります。
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