「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    エドさんと君のための冒険(児童文学・特別長編・完結)

    エドさんと君のための冒険 4-10

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    第四章 山の冒険 10

     普通であれば、それは恐れを抱いてしかるべき光景かもしれませんでした。しかし、エドさんには、救いの手であることがわかっていました。

     先頭を切って飛ぶ鳥が、エドさんに向かい叫んだからです。

    「エドさん! エドさん! 大丈夫ですか? 助けに来ました!」

     それは真っ白な鳩でした。かつて、探偵事務所に飛び込んできて、エドさんに助けてもらった、伝書鳩です。それが、仲間の鳩たちを連れてやってきたのです。

     エドさんは、赤ちゃんになってしまった息子を抱き上げるといいました。

    「お願いだ、わたしはいいから、この子をいるべき、しかるべき場所に運んでやってくれ。わたしにはどうすることもできないが、きみたちならできるんじゃないかと思う」

     鳩たちは赤ちゃんに群がり、おくるみをつかむと、羽根を羽ばたかせて飛び立ちました。エドさんがほっとして身体から力を抜くと、エドさんにはなしかけたあの鳩が、エドさんの着ている服の襟元をその脚でつかみました。

    「エドさん、あなたも、こんなところにいてはいけません。わかっているとは思いますが、ここは悲しみの山です。長くいたら、どんな強い精神の人も、嘆きと悲しみのとりこになって、だめになってしまいます」

     そういわれている間にも、無数の鳩がエドさんの服をつかみました。

    「でも……きみたち、ぼくは重いよ?」

     エドさんが不安げにいうと、鳩は答えました。

    「ほら、もう、この山の力にやられ始めてる。安心してください、ぼくたちは、これが仕事なんです。あなたをつかんで飛ぶくらいのこと、お茶の子さいさいです」

     鳩の言葉に嘘はありませんでした。鳩たちが羽根を羽ばたかせると、エドさんの身体もふわりと舞い上がりました。

    「いったい、どこへ行くんだい」

     エドさんは襟元の鳩に尋ねました。

    「決まっているじゃないですか」

     鳩は、なにを当たり前のことを、とでもいうかのように答えました。

    「さっき、あなたもいったでしょう。あなたがいるべき場所ですよ」

     エドさんはびっくりしました。

    「わたしがいるべき場所……?」

    「この空の天蓋の向こう、遠く離れているようで、しっかりとこことつながっている場所です」

    「それって!」

     さっきまでいた、「嘆キノ峰」は、もうずいぶんと小さくなっていました。そうとう高いところを飛んでいるに違いありません。空に覆いがあるとしたら、ほんとうに手で触れそうです。

     と、思ったとき、エドさんは空の外に出ていることに気がつきました。それをどう呼んだらいいでしょうか。しっかりと感じられるのは、背中で羽ばたいている鳩の群れの存在だけ。空でも、地上でも、ましてや宇宙でもない、奇妙な世界に、エドさんは目を見張る思いでした。

     息子も、このような世界を経て、いるべき場所へと帰っているのでしょうか。エドさんは想像しようとして、首を振ってやめました。考えてもしかたのないことだと思ったからです。

     やがて、上のほうに……上とか下とかに、意味があったらの話ですが……なにかが見えてきました。

    『なんだ? あれは……薄い灰色をしているが……なんだろう?』

     首をひねったエドさんは、それがなんであるか思い当たりました。

    「あれは、病院の壁じゃないのか? わたしのいた病院の!」

     エドさんはどんどん大きくなっていくその広がりを見ようとしました。

    「中で動いている影はなんだ……人のようだが……あれは、わたしだ! あそこにあるのは、コーヒーの自動販売機! あれは、わたしのいた病院の待合室だ! 間違いない!」

     エドさんを運んでいる鳩の群れは、まっすぐにそこへとエドさんを運んで行きます。そこだけ切り取られたかのような待合室の光景が、目の前に広がったとき……。

     いつもの便利屋としての服を着たエドさんは、自動販売機から買った、何杯目になるかわからないブラックコーヒーに口をつけていました。

    「あちっ!」

     口を紙コップから離したとき、産室の扉が開いて、看護婦さんが顔を覗かせました。

    「マクファースンさん! 生まれましたよ! 元気な双子の赤ちゃんです!」


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