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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:ボーナストラック

     ←趣味が悪いですね →役立たずの発明品
    その人の名は?



     ある夜のことです。

     エドさんの流行らない探偵事務所の扉に、せきたてるようなノックの音がしました。

    「入ってもいいかね?」

    「どうぞ」

     エドさんは、読んでいた新聞を畳みながら答えました。声の感じからすれば、まだ若い、神経質な男性のようです。

     扉を開けて入ってきたのは、エドさんの想像通り、神経質そうな表情をした、鋭い目つきの若い男でした。手には松葉杖を握っていましたが、別に足が悪くはなさそうです。

    「ええと、ご用件は……」

    「犯人はどこだね?」

    「犯人を捜しておられ……えっ、は、犯人? なんの事件の犯人ですか?」

    「ぼくの追っている事件に決まっているじゃないか」

     その若者は、銀色に輝く松葉杖を振り上げて叫びました。

    「あのですね、どんな事件なのかがわからないと、犯人の捜しようもないんですけれど」

    「事件はわかりきっている」

     若者はいらいらとしているようでした。煙草かなにか、好きなものでも切らしているのかな、とエドさんは思いました。

    「じゃあ、どうかお話しになってください」

    「それが駄目なのだ」

    「え?」

     エドさんは、耳を疑いました。

    「事件のすべては、このぼくの頭の中にある。だが、どうしてもそれを語ることができないのだ。語ることを許されていないのだよ」

    「あのですね」

     エドさんは頭が痛くなってきました。

    「それじゃ、わたしには……」

    「だが」

     若者は、エドさんの言葉などまったく聞いていないようでした。

    「犯人はいる。いる以上は捕まえなくてはならない。それが探偵の仕事というものだろう? 特に諮問探偵の」

    「え……難しい言葉を使われますねえ。それは確かにわたしは私立探偵ですが」

     若者はエドさんを制しました。

    「待ちたまえ。そうか、きみも探偵なのか。ならばわかるはずだ、このアルミニウムの松葉杖に、事件のすべての手がかりがあることが。なに、理性をほんのわずか使えば、誰にでもわかることだよ」

     エドさんはその手の松葉杖をしげしげと見ました。しかし、なにもわかりません。

    「あの、わたしには、さっぱり……」

    「ふん! 初歩的なことにもほどがあるというのに、こんなこともわからないとはね。詳しく説明することができないのが残念だ」

    「なぜですか?」

     エドさんは、自分の忍耐力がほんの少しずつ擦り切れていくのを感じていました。

    「なぜかって……禁じられているからだよ。この事件に関することを語るのは、ごく一部のことを除いて、禁じられているんだ。語っていいのは、このアルミニウムの松葉杖の存在くらいのものだ。だから、きみにはぼくと同じ推理をして、真相と犯人に気づいてほしかったんだが……どうやら、最後までぼくひとりでやるしかないようだ」

    「じゃ、そうしてください」

     エドさんはこの若者に腹立たしさを覚えてきました。何様のつもりなのでしょう。

    「ここは、まじめな依頼人がやってくるまじめな探偵事務所で……」

    「しっ!」

     若者は、あたりを見回しました。

    「そこだっ!」

     若者が松葉杖を投げると、がしゃんという音とともに……エドさんの事務所の蛍光灯が壊れ、あたりは真っ暗になりました。

    「な、なにをするんです?」

     狼狽するエドさんを置いてきぼりにして、どすっという重い音と、ぎゃっという、男だか女だかわからない悲鳴が聞こえました。

    「協力を感謝するよ。きみがいなければ、さすがのぼくのバリツをもってしても、こいつを捕まえることはできなかっただろう」

    「こいつって……誰なんですか?」

    「この犯人が誰なのかも、残念ながら語るわけにはいかないのだ。次に会うときまでに、理性をじゅうぶんに働かせる術を学んでおいてくれたまえ。それでは、さらば!」

    「あの、ちょっと、ちょっと、蛍光灯を!」

     エドさんの叫びもむなしく、扉が開く音とともに、人の気配は消えてしまいました。

    「いったい誰だったんだ、あいつ」

     エドさんはぶつぶついいながら、蛍光灯を交換していましたが、部屋が明るくなると同時に、あっ、と声を上げました。

    「あの人は……間違いない、あの人は!」



    ※ ※ ※ ※ ※



     前に矢端想さんと組んで「探偵エドさん」の同人誌を作ったとき、ページ数調整用に書いたものです。

     書いてから読み直したところ、ミステリに興味がない人にとっては意味不明の話になってしまうことに気づいてお蔵入りしてました。

     こういう時以外に発表するチャンスがなさそうなので、恥ずかしながら公表いたします。

     その人の名は……わかりますよね?
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    Re: 山西 サキさん

    泣かないでください。明日はきっと日本晴れです。(´・ω・`)/(ノД`)

    あなたの前にはホームズ譚の素晴らしい世界が広がっているのです。(^_^)

    サキは「アルミニウムの松葉杖」を入力してネット検索。
    次に「バリツ」を入力してネット検索。
    そして、ああ!なるほどぉ。
    そして先に自慢げに説明して「あほか!常識や」
    と言われてしまいました。
    シュン……。

    Re: カテンベさん

    ワトスン博士と出会う前、名声もなく情緒不安定で、コカインが切れかけてイライラしている若きホームズです。

    アルミニウムの松葉杖が絡んでくる話は、ワトスン博士が発表していない「語られざる事件」のひとつです。

    ここは先人に敬意を払おう、と書いたのですが、ちょっとうまく行かなかったかな(^_^;)

    エドさんが、声を聞いてまだ若い男と感じたということは、BBCのSHERLOCKのホームズをイメージしたらいいのでしょうか?
    原作のホームズってそんなに若いイメージはないのですが。
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