「残念な男(二次創作シリーズ)」
虐待(二次創作中編・完結)
虐待 1-4
また訪れた、どこかぎこちない沈黙の後で、女は口を開いた。
「さっきの立ち回りですが、わざと目立つようにふるまわれたんですね」
「わかりますか」
「ええ。あそこまでご自分を強く印象付けておくと、あの嫌な人たちも、あなたのほうに目を向けて、わたしのことなど忘れてしまうのではないか、そうお考えになってのことでしょう?」
頭も悪くないらしい。ますます好みだ。
「単に、ああいう社会のゴミが嫌いなだけですよ。もっとも、こんなことをいったらゴミに失礼ですけどね」
女は笑顔を浮かべた。まださっきの恐怖が残っているのか、こわばった笑顔だった。
「わたしは次で降りますが、あなたは?」
「わたしも次なんですよ」
女の答えに、わたしは胸がはずんでくるのを感じた。もしかすると。これはひょっとしてひょっとすると。
「どうでしょう、お茶でもごいっしょしませんか?」
順当に電車が進めば、映画まではまだいくらか時間がある。三十分、いや十五分でいいからもっと話がしたかった。
女はわたしの顔を黙ってしばらく眺めていたが、にこりとすると、いった。
「かまいませんよ」
わたしは心の奥底でガッツポーズをした。もう、映画なんてどうでもいい。見なくったってどうでもいい。
女は時計を見た。
「でも、用がありますので、そんなに長くはいられませんけど」
時計を見るしぐさひとつまでが、わたしの好みだ。ここは押しだ。押して押して押しまくるのだ。
「それじゃ、マクドナルドなんてどうです? 安くて、早くて、今のわたしたちにはちょうどいい」
女は、また笑った。
「わたしも、のどがからから。喜んでご一緒させていただきますね」
心はさらに舞い上がった。
「ご用があるそうですが、お仕事はなにをなされているのですか?」
「なにに見えます?」
質問で返された。知的な職業だろう、わたしはそう確信していたが、いったいなんなのかは、どうもつかめなかった。
そのとき、列車が駅について扉が開いた。わたしの降りようとする判断は一瞬遅れた。具合が悪いことに、ホームには、帰宅途中の弓道部員と思われる高校生の一団が、道具を背に待っていたのだった。どっと乗ってきた高校生たちは、わたしを洪水のように車両の隅へと押し流した。出ようともがくわたしの前で、無情にもドアが閉まった。当然、女の姿はもうどこにもなかった。くそっ!
「さっきの立ち回りですが、わざと目立つようにふるまわれたんですね」
「わかりますか」
「ええ。あそこまでご自分を強く印象付けておくと、あの嫌な人たちも、あなたのほうに目を向けて、わたしのことなど忘れてしまうのではないか、そうお考えになってのことでしょう?」
頭も悪くないらしい。ますます好みだ。
「単に、ああいう社会のゴミが嫌いなだけですよ。もっとも、こんなことをいったらゴミに失礼ですけどね」
女は笑顔を浮かべた。まださっきの恐怖が残っているのか、こわばった笑顔だった。
「わたしは次で降りますが、あなたは?」
「わたしも次なんですよ」
女の答えに、わたしは胸がはずんでくるのを感じた。もしかすると。これはひょっとしてひょっとすると。
「どうでしょう、お茶でもごいっしょしませんか?」
順当に電車が進めば、映画まではまだいくらか時間がある。三十分、いや十五分でいいからもっと話がしたかった。
女はわたしの顔を黙ってしばらく眺めていたが、にこりとすると、いった。
「かまいませんよ」
わたしは心の奥底でガッツポーズをした。もう、映画なんてどうでもいい。見なくったってどうでもいい。
女は時計を見た。
「でも、用がありますので、そんなに長くはいられませんけど」
時計を見るしぐさひとつまでが、わたしの好みだ。ここは押しだ。押して押して押しまくるのだ。
「それじゃ、マクドナルドなんてどうです? 安くて、早くて、今のわたしたちにはちょうどいい」
女は、また笑った。
「わたしも、のどがからから。喜んでご一緒させていただきますね」
心はさらに舞い上がった。
「ご用があるそうですが、お仕事はなにをなされているのですか?」
「なにに見えます?」
質問で返された。知的な職業だろう、わたしはそう確信していたが、いったいなんなのかは、どうもつかめなかった。
そのとき、列車が駅について扉が開いた。わたしの降りようとする判断は一瞬遅れた。具合が悪いことに、ホームには、帰宅途中の弓道部員と思われる高校生の一団が、道具を背に待っていたのだった。どっと乗ってきた高校生たちは、わたしを洪水のように車両の隅へと押し流した。出ようともがくわたしの前で、無情にもドアが閉まった。当然、女の姿はもうどこにもなかった。くそっ!
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~ Comment ~
残念さ――――――んっ! 残念で安心しました―――――っ!(酷い)
女性を誘う態度はカッコイイのに内心ガッツポーズとか、学生の波にのまれちゃうとかw でもなあ残念なひとが「お茶」とか飲み物系のキーワード出してくると「ああ……ああ……」って気持ちになって、とにかくすごく「ああ……」なのですw
女性とは、試写会で再会するのかなあ? つづき読んできます!
女性を誘う態度はカッコイイのに内心ガッツポーズとか、学生の波にのまれちゃうとかw でもなあ残念なひとが「お茶」とか飲み物系のキーワード出してくると「ああ……ああ……」って気持ちになって、とにかくすごく「ああ……」なのですw
女性とは、試写会で再会するのかなあ? つづき読んできます!
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Re: 卯月 朔さん
しかし事件が起こるのはこれからなのであります。
ふっふっふっ(^^)