「残念な男(二次創作シリーズ)」
    虐待(二次創作中編・完結)

    虐待 2-2

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     映画は、すばらしいとか面白いとかを通り越して、ただ、すごかった。

     偉大なる芸術作品は、ジャンルを問わずどれをとってもその基本的構造はシンプル極まるものだ、と喝破したのはチェスタトンだっか。この映画は、それを地で行っていた。

     一時間三十八分の間、わたしの視線はスクリーンにくぎ付けだった。首の痛いのなんか、開始五分で忘れてしまった。なにしろ、主要登場人物が事実上ふたりしかいない映画なのだ。母親と娘。一時間三十八分の間、母親がひたすら十歳の娘を虐待し、そして死に至らしめるという、ただそれだけの話である。シンプルとしかいいようがない。

     監督は、その様子をセミドキュメンタリータッチで撮っていた。一見、なんの工夫もない画面構成だが、それが入念に計算されつくしたものなのはすぐわかった。なにせ、活動写真は大正の昔から見ているのだ。だめなカットといいカットの違いくらいわかる。

     演出がこうだということは、脚本も練りに練られたものだということだろう。見ている人間の肺腑をえぐるような言葉が、慎重に選ばれているのだ。そうわかっていても、リアリティあふれるセリフまわしだった。

     とはいえ、監督と脚本がいかに優秀であろうと、役者がダメであれば映画はダメになる。この映画の主演女優ふたりは……これまで見た映画の中でも最優秀レベルだった。

     映画で、娘を虐待する母親像といえば、すぐに思いつくのが平山秀幸監督の「愛を乞うひと」だろう。あの映画の原田美枝子もすごかったが、こちらの映画の女優……あの女だ……は、ある意味原田美枝子を超えていた。リアリティと迫力という点である。鬼気迫る、という言葉がぴったりくる演技だった。自分だけではなく、子役の魅力までたっぷりと引き出している。設定通りだとしたら子役は十歳。ふたりによって演じられる、暴力と罵倒でしかコミュニケーションをとれない悲惨な母娘の姿は、残虐や恐怖を通り越して、ひとつの悲劇的な神話にまで高められていた。

     娘が死に、虚脱した母親の顔がアップになって、エンドロールが始まったとき、わたしはほとんど放心状態になっていた。ほかの観客もそうだったらしい。

     エンドロールが終わったとき、やっとわたしはやらねばならぬことに気づいた。

     立ち上がって手を叩いたのだ。

     わたしの拍手につられたかのように、ぱらぱらと拍手が起こった。三秒後、割れんばかりの拍手が劇場を包んでいた。観客は総立ちだった。拍手は鳴りやむということがないのではないかと思われた。

     だが、そんな拍手も終わる時が来た。

     舞台のそでから、監督たちが現われたのだ。わたしの目が主演女優と合った。彼女は驚きの表情をちらりと見せると、わからないようにわたしにウインクをしてきた。

     生きててよかったと心底思った。
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    ~ Comment ~

    Re: ミズマ。さん

    直接的に肉体的苦痛の描写をする気はありません。ハードボイルド探偵小説の伝統に従い、虐待がもたらした家族の悲劇を静かに描くつもりです。

    百枚で収まるかちょっと不安です。

    ここでまだ18%で、この映画がストーリーの鍵ですか……

    あんまり虐待虐待しいお話にならないといいなぁ、タイトルからして虐待ですけど。

    Re: LandMさん

    映画としてはこれがいちばんのエンディングだろう、と思って書きました。

    話はまだ導入部であります。

    だいたい18パーセントというところでしょうか……(^^)

    母親で母親で放心状態になるんですよね。
    確かにその通りであって。
    静と動があるので、静と同時に虚脱感が出てきます。
    そのときに何を思うか。
    どういう絶望を覚えるか。
    それはその人しか分からないですからね。

    Re: limeさん

    わたしは「火垂るの墓」でさえもまともに見ていられません。

    この映画がかかったら……逃げますね(^^;)

    しかしそれでも見る者の心をつかむ映画である、ということをここでは強調したかったのです。ゴヤの「黒の絵」みたいな映画というべきか。

    この話の根幹にかかわってくる映画ですので、いましばらくおつきあいを。

    展開と描写が鮮やかで、メリハリがあっていいですねえ。
    楽しいです。
    しかし、この映画は凄そう。
    けっこう、精神的に胸ぐらを掴まれそうですね。
    世の子供を普通に愛せる人には、辛そう。
    いや、愛せない人にとっては、もっと目を背けたくなる映画かな?
    私は絶対、辛くてみれないなあ。
    いい作品であっても、見れないって不幸なことでしょうか。

    それはおいといて、さあ、残念さん。(ここまでは以外にかっこよかった)
    この出会いが、どう展開するんでしょうね。

    Re: 弘と書いてひろむと読みますさん

    まあ、わたしはヒマが服を着て歩いているような人間ですから(^^;)

    弘さんのほうが、お仕事を含めるとがんばっておられると思います。

    明日の更新、どうしよう……(^^;)

    ポール・ブリッツさん 、頑張ってるなぁ・・・

    頑張ってますね、私とは大違いです。

    何とか気合を入れなければ…
    • #11283 弘と書いてひろむと読みます 
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    • 2013.09/07 07:14 
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