「残念な男(二次創作シリーズ)」
虐待(二次創作中編・完結)
虐待 5-2
わたしは都谷炎華といっしょに、パトカーで警察署に連れられた。事情聴取ならその場で行なえばよさそうなものだが、わたしの服とサングラスが警察の注意を引いたのだろう。それにしても、最近ではパトカーも乗りやすくなったものだ。最初に乗ったのは戦前のことだったか。通算すると何度目になるかわからない。
同じく最近では取調室も居心地がよくなったもので、戦前のことを思い返すとうそみたいだった。あのころは入っただけで拷問のようなものだったが。
わたしの聴取に当たった刑事は、市役所の職員にトリカブトとニガヨモギの煎じ薬を注いだような、なにを考えているのだかわからないが、こちらに対する悪意を持っていることは疑う余地のない顔をした男だった。
型どおりの質問がされた。わたしは現在名乗っている名前と住所、現在勤めていることになっている勤務先の貿易商社の名前などを答えた。
「それで、どうしてあの場所に?」
都谷炎華には、下手な隠し事などするなといっておいた。隠したところで警察はどうせ見つけ出してしまうと。だからわたしはありのままを答えた。
「身に覚えのない恐喝を受けていた友人から、会いに行くのにひとりでは怖いから助けてくれと頼まれたんだ」
「そのかっこうは?」
「相手を脅すために、衣装棚から引っ張り出してきたんだ。若い頃はやんちゃしてたもんでね」
嘘ではない。戦後まもなくの焼け跡では、日常生活のひとつひとつが生死をかけたサバイバルだった。今の世の中で話したら、逮捕されないまでも絶対、場を青ざめさせることをわたしはやってきている。
「ふうん?」
刑事は横で別の刑事が書いている調書をちらりと眺め、いった。
「とった行動と、そこで見たものを話してもらえますか?」
「かすかながら血のにおいがしたので、指紋を消さないようにハンカチでくるんでドアノブを開けた。中には、思ったとおり、誰かの死体が転がっていた。あわててその場に踏み込むと現場の保全がおろそかになることは、この間読んだクリスティに書いてあったので部屋には入らなかった。かわりに見る時間はたっぷりあった。死体のほかに目にとまったものは、たぶん凶器の包丁、それからノイズ発生器と思われる機械、籠谷とかいう歯医者の封筒、なにかものが置いてあったらしい、テーブルの地肌が四角く残った跡……」
「ちょっと尋問を代わってくれんかな」
わたしと刑事はそちらのほうを見た。よれよれの背広を着た、定年に近そうなハゲ頭の男が、わたしを見てにやにや笑っていた。
どこかで記憶がある顔だった。
同じく最近では取調室も居心地がよくなったもので、戦前のことを思い返すとうそみたいだった。あのころは入っただけで拷問のようなものだったが。
わたしの聴取に当たった刑事は、市役所の職員にトリカブトとニガヨモギの煎じ薬を注いだような、なにを考えているのだかわからないが、こちらに対する悪意を持っていることは疑う余地のない顔をした男だった。
型どおりの質問がされた。わたしは現在名乗っている名前と住所、現在勤めていることになっている勤務先の貿易商社の名前などを答えた。
「それで、どうしてあの場所に?」
都谷炎華には、下手な隠し事などするなといっておいた。隠したところで警察はどうせ見つけ出してしまうと。だからわたしはありのままを答えた。
「身に覚えのない恐喝を受けていた友人から、会いに行くのにひとりでは怖いから助けてくれと頼まれたんだ」
「そのかっこうは?」
「相手を脅すために、衣装棚から引っ張り出してきたんだ。若い頃はやんちゃしてたもんでね」
嘘ではない。戦後まもなくの焼け跡では、日常生活のひとつひとつが生死をかけたサバイバルだった。今の世の中で話したら、逮捕されないまでも絶対、場を青ざめさせることをわたしはやってきている。
「ふうん?」
刑事は横で別の刑事が書いている調書をちらりと眺め、いった。
「とった行動と、そこで見たものを話してもらえますか?」
「かすかながら血のにおいがしたので、指紋を消さないようにハンカチでくるんでドアノブを開けた。中には、思ったとおり、誰かの死体が転がっていた。あわててその場に踏み込むと現場の保全がおろそかになることは、この間読んだクリスティに書いてあったので部屋には入らなかった。かわりに見る時間はたっぷりあった。死体のほかに目にとまったものは、たぶん凶器の包丁、それからノイズ発生器と思われる機械、籠谷とかいう歯医者の封筒、なにかものが置いてあったらしい、テーブルの地肌が四角く残った跡……」
「ちょっと尋問を代わってくれんかな」
わたしと刑事はそちらのほうを見た。よれよれの背広を着た、定年に近そうなハゲ頭の男が、わたしを見てにやにや笑っていた。
どこかで記憶がある顔だった。
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~ Comment ~
NoTitle
なかなか血なまぐさい展開になってきましたね。
でも、じわじわと、この残念な男の身の上など、分かりかけてきました。
続きを楽しみにしています。
テンプレ、新しくなりましたね。
今回のはするっと入れます。
前のデザイン、好きだったんですけど(おい!)
なにげに、ポールさん、魚好き?
でも、じわじわと、この残念な男の身の上など、分かりかけてきました。
続きを楽しみにしています。
テンプレ、新しくなりましたね。
今回のはするっと入れます。
前のデザイン、好きだったんですけど(おい!)
なにげに、ポールさん、魚好き?
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Re: limeさん
魚は食べるのが好きです(^^) こういうテンプレが多いのは、魚よりも「南の島のリゾートでごろごろ」というのに憧れているからです(^^)
現在原稿用紙真っ白状態。うがああああ。ショートショート以外のミステリは書けないんじゃないのかわたし(^^;)