「ショートショート」
    ミステリ

    暗号文

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    「たぬきのたからばこ!」

    「わかったから帰りなさい」

     国防大臣は苦虫を噛み潰したような顔で五歳になる息子を追いやった。

    「お父さん、暗号が専門なんでしょ? じゃ、解いてみてよ! たぬきのたからばこ!」

    「いいか、お父さんは仕事をしているんだ。国を守ることついての、大事な仕事だ。たぬきのたからばこになんか、関わっているヒマはないんだ! きみ!」

    「はっ」

     一番近くで控えていた書記官が、直立不動になった。

    「どこから入ってきたのかわからんが、仕事の邪魔だ。早いところ妻に連絡して、家へ連れ帰ってくれ。今ごろ血相を変えて探し回っているだろう。息子が元気なのはいいが、まったくもう……」

    「たぬきのたからばこ!」

     書記官はその手をつかみ、引っ張った。

    「お父さんのお仕事の邪魔をしてはいけないよ。さあ、おじさんといっしょにお家に帰ろうね」

    「たぬきのたからばこだよ!」

     国防大臣は顔をしかめた。

    「適当にこの建物でも見物させろ! これ以上ここにいさせるな!」

    「はっ! じゃあきみ、いい子にしていれば、おじさんが、この国防省の建物のすごいところを、案内してあげよう」

    「すごいところ? わーい!」

     書記官と自分の息子が外へ出て行ってから、国防大臣はため息をついた。

    「まったくもう……どうしてあんな子になったのか。きみ?」

     その場にいた秘書官が、笑いをこらえた顔で国防大臣を見た。

    「はい?」

    「この部屋にまた息子が入ってきたら困る。きみ、この部屋の外で、見張っていてくれないか」

    「かまいませんよ」

     秘書官は扉を後ろ手に締めて、部屋を出て行った。扉越しに、笑う声が聞こえた。

     国防大臣は急に顔を引き締めた。遠隔操作で扉に鍵をかけるボタンを押し、執務室の端末に、「TANUKINOTAKARABAKO」と打ちこんだ。

     画面が変わった。

     今ごろは国防省の同志たちの間に決行を示す暗号が行きわたっているだろう。暗号文は、いちばん単純なシステムが、いちばん解読しにくいのだ。あの書記官はこの建物内を歩き回るに違いない。そのそばには、無心に、合言葉である「たぬきのたからばこ」を大声で叫びまわる息子がいるというわけだ。

     国防大臣を副大統領に、副大統領を大統領に担ぎ上げ、戒厳令を施行するクーデター作戦は、順調な滑り出しを見せていた。

     国防大臣はつぶやいた。

    「たぬきのたからばこ……日本語で、答えは『からばこ』だ。このクーデターがもたらす世界に、せめてもの中身があればいいのだが」

     第二次世界大戦以降、もっとも長い一日が始まろうとしていた……。
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    ~ Comment ~

    Re: 尾道貴志さん

    こんにちは。

    ショートショート大好きです。

    「かばのうどんこ」面白いですね。(^_^)

    わたしが知っているものでは、「おれはすぐなくおとこじゃない」と壁に落書きした男の子が、句点をふたつ付け加えられて、

    「おれはすぐなく。おとこじゃない。」とやられて泣いて帰る、という話が記憶に鮮明に残っています。(^_^)

    なんでだろう(^_^;)

    こんにちは

    ショートショート好きです。

    小学校の頃に読んでもらったお話を思い出しました。

    近藤くんとケンカした小学生がコンクリート塀にこう書きます。

    「こんどうのばか」

    反対側から通りかかったお蕎麦屋さんの出前持ちがそれを読みます。

    「かばのうどんこ?」

    それだけのお話なんですが、今だに覚えているんですね。

    お話の題名は「カバのうどん粉」でした。

    Re: ダメ子さん

    勝つためなら使えるものはなんでもかんでも使うのが政治家と軍人ですからねえ。

    そういう人達からとばっちりが来ないことを願います。くわばらくわばら。

    NoTitle

    私も小さい頃タヌキの宝箱やったなあ
    そんな無心な子供のままでいたいけど…
    やっぱり利用されてしまうのか><

    Re: ゆういちさん

    荀イクはわたしも大好きなキャラクターです。この人にはベッドの上で死んでほしかったのですが、自刃だもんなあ。歴史とはいえ、つらいなあ。

    三国志ゲームでは、引くと嬉しいキャラクターですね(^_^)


    希望も絶望もなく、決定された未来を生きやすくなるものにするためがんばる、というのがいい人間だと思います(^_^)

    Re: あかねさん

    この小説のアイデアを思いついたのは、2013年9月28日22時40分ころです(笑) 脂汗を流しながら時計をにらみつつキーボードを叩きました(^_^;)

    追いつめられると人間、なにかを思いつくものです。このショートショートは最初は、子供が国防省の端末にいたずらで「たぬきのたからばこ」と打ち込み、それがパスワードになって世界大戦が勃発する、というものでしたが、ありきたりに思えて書きながら「野性のカン」にしたがって修正しました。

    自転車操業なんですこのブログ(^_^;)

    こんばんはー

     空箱と言うと魏の曹操の部下筍イクを思い出します。彼の場合、曹操からその箱が送られ中身を見た時、自分を見切られたと判断し結果ショック死してしまったらしいですが、曹操の方にそう言う意味があったかどうかはわかりませんが残酷な暗号になってしまいましたね。(もっとも、三国志の話がどこまで実はなのかは定かじゃないですが)

     このからばこも、もたらす物は破滅なのかそれともパンドラの箱のように密かに希望が残留しているのか……何にせよ悲しい戦争が起こらない事を願うばかりv-388

    Re: カテンベさん

    懐かしいですねザンボット3。怖かったなあ人間爆弾。

    この小説の陰謀団はもっと直接的な手段を取ると思います。

    しかし聞いて耳を疑ったのは、中東の反政府勢力が、自爆テロで爆弾を背負って突っ込む役に、精神障害者や知的障害者を優先して、いや強制して選んでいるということです。ブラックジョークとしか思えませんでした。どうやら事実らしいです。

    Re: miss.keyさん

    個人的に、ボキャ天は「空耳アワー」の劣化コピーみたいな感じがしてちょっと好みじゃありません(^_^;)

    添付された小説を読んで、フレドリック・ブラウンの「おそるべき坊や」を思い出しました。悪魔との対決を書いたショートショートとしてはベストの作品でしょう。お読みでなければ、図書館へ……。

    Re: ゲンタくんのパパさん

    ようこそ(^_^)

    わたしは諦めは悪いですよ。

    最初に新人賞の公募に応募してから二十年近く……人間にはいろいろと歴史というものが(^_^;)

    Re: らすさん

    残念ながら続編はないんです。

    無理やり書いたら大長編謀略小説になってしまう(^_^;)

    お兄様にはどうかよろしくお伝えください。ところで番付は?(^_^)

    Re: 山西 サキさん

    たぬきのたからばこ、とか、たぬきのたからくじ、というのは、わたしが小学生のころはとんちなぞなぞの定番ネタだったんですけどねえ。

    ラストのオチは、成り行きでああなりました。ほんとなんです……(^_^;)

    文字通りってやつですね

    タヌキノタカラバコ

    カラバコだわね、とは思っていたのですが、
    皮肉の効いたオチでしたね。

    ポール・ブリッツさんは本当に多作でいらして、うらやましいです。
    ネタはどんなときに降りて(降って? 湧いて? 浮かんで?)くるのでしょうか。

    私もショートストーリィをもっと書きたいです。
    長いのはなかなか読んでもらえないですし。

    こんにちは

    クーデターですか
    大統領を排除する計画に子供を使うとは((((;゚Д゚)))))))
    まさかまさかの人間爆弾として大統領のもとへ行かせるのかなぁ?

    はーるばる北へ函館~♪


    「ばーるばる来たぜ箱だけ~♪」
    は、昔ボキャ天で使われたネタ。本当に箱だけ贈ってきた投稿者のセンスには脱帽です(笑い

    閑話休題

     宝箱を空けた瞬間、何か黒い影の様なものが通り過ぎた気がした。男は一瞬目を閉じるが、しかし再び目を開けてみると中は空っぽだった。
    「なんだ、あれほど苦労して探し出したと言うのに、とんだ無駄骨だったな。」
     男は自嘲を浮かべ、蓋を閉めた。
     男は気がつかなかった。その時解き放たれた悪魔が世界を破滅に導こうとしている事を。

    つづく・・・

    NoTitle

    創作、とてもおもしろいです!

    文学賞は僅差で勝負が決まります

    絶対にあきらめずに

    チャレンジしていって下さい!

    守るべきは

    「しつこくあきらめない」

    これだけです!
    • #11427 ゲンタくんのパパ 
    • URL 
    • 2013.09/29 11:36 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    おはようございます(*^。^*)

    (ノ゚ο゚)ノ オオォォォ-
    自分が予想したオチとは全く違っていました。
    このお話は続きはあるのでしょうか?

    自分の兄も昔趣味で小説を書いていたのですが、
    ポールさんのブログに興味津々なご様子です(*^^)v
    その兄も小説家→格闘家を経て、
    現在は相撲取りになっています(^_^;)

    NoTitle

    あ!なるほど!
    こう持って行きますかぁ!
    さすがはポールさん、意外性たっぷりで面白かったです。
    たぬきで、だから、からばこ、なるほど。
    皮肉たっぷりの暗号でした。
    最後までサキは気がつきませんでしたが、恐い落ちでした。
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