「残念な男(二次創作シリーズ)」
    虐待(二次創作中編・完結)

    虐待 8-4

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     都谷炎華はごくりとつばを飲み、いった。

    「ほんとうに全てご存知なのですね」

     わたしはかぶりを振った。

    「知らなくていいことまで知っています。あなたにはつらいことでしょうが」

     そこでひとこと切った。

    「警察に、自分が知っていることを話す気はありません」

     女たちの身体がこわばるのが見えた。

    「……単に、警察には自分からお話しになったほうがいいのではないかと考えるからです。わたしが話さなくても、警察は自力で調べ上げることでしょう。無能だのなんだのいわれていますが、門外漢のわたしに調べられたことくらい、捜査のプロである警察が調べられないわけがない。おそらくは、遅くともあさってまでには、母親のもとへ逮捕状を持った刑事がやってくることでしょう。殺人の罪は、それほどに重い」

     わたしはこういう星の下にしか生まれていないのか。いや、チャンスはある。今度こそ、最悪の結末になる前に、生命を救うのだ。

    「母親は、考えられるかぎりにおいて最悪の判断を下しました。恐喝者を殺して書類を奪い、自分と死体を結びつける糸を断ち切るのです。そんなことをしても、警察の捜査をいくらか遅らせるだけの効果しかなかったでしょうが、のど元に匕首を突きつけられたような思いの母親には、歪んだ理性を働かせるだけの余地しかなかった」

     わたしは全国に支店をもつ銀行の名を挙げた。

    「母親は、わたしと都谷さんが、ふたりそろって恐喝者のビルを訪れる前に、銀行で五万円ばかりを五百円玉に両替えしました」

     仏頂面のロビンを説き伏せて、息のかかった銀行の取引記録を当たってもらうのはたいへんだった。

    「五百円玉百枚、ビニールのケースに包まれたそれは〇・七キロの重さがあった。ビニール袋か何かに詰めて殴れば、人を一瞬ふらつかせるにはじゅうぶんです。もしかしたら、それだけで気絶してしまったかもしれない。倒れたところに、包丁で首をぐさぐさとやったら、全盛期のジャイアント馬場でも死んでしまうでしょう。戸川耕大は不意を突かれたのか、母親というものをよくわかっていなかったのか、定かではありませんが、死んでしまった。母親は、歯形の書類らしきものをつかんで逃げることはできた。しかし、理性的な思考もそこまでだった。封筒にまで考えが及ばなかったんです。母親は逃げ出した。手袋をはめることは忘れていなかったために、指紋は残さなかったが、警察が重視する証拠は、指紋だけじゃない。血痕、糸くず、その他……。そして、最近のニュースでおわかりのごとく、警察はなりふりかまわず自供を取りに来る。自供すると、あとは裁判所でオートマティックに有罪だ。そういうものなんです、竹田、旧姓結城明子マネージャー」
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    Re: 矢端想さん

    水曜日からの最終章で、事態はさらに悲惨なことになって行きます。

    どうか最後まで読んでくださればありがたいです。

    「母親」が誰かということは、8章頭でバレバレだと思っていたので、しまった、300枚にして手がかりをフェアに出せばよかった、と後悔しています(^_^;)

    NoTitle

    「母親は、わたしと都谷さんが、ふたりそろって」(レトリックによる作者の事実上の犯人明かし?)を読むまで母親=竹田と気付きませんでした。なんとミステリを読み慣れていないことよ…。
    ミステリの定石をよく知ってる人なら、わざわざいつもいるマネージャーの必然性にピンときていたのでしょうね。
    でもまだ真相の核心は謎のままです。

    Re: LandMさん

    うーん書きかたが悪かったか。

    ここで「わたし」が最悪の判断といったのは、竹田明子が自分が児童虐待をしていた過去を隠すために、「殺人」という手段に訴えたことです。

    わかりにくかったらごめんなさい……(汗)

    NoTitle

    ・・・・・・・・。
    虐待ほど最悪の判断はない。
    なるほど確かにそうですね。
    そういう見方はできますね。
    交通事故もそうですけど、
    誰にもメリットがないですからね。
    虐待して、「はあ、幸せ」って言える人はいないですからね。
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