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    「ショートショート」
    SF

    期待外れの接触

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    「すごい群がりかたですね」

     ぼくは、衛星軌道上にある母艦から、惑星上に下ろした無人装甲偵察車両のカメラごしに、この星の原住民たちを見た。

    「ぼくたちとのファースト・コンタクトは、成功みたいですね。この偵察車両の中のなにかを探しているようですが、そんなに科学技術が珍しいのかな」

     接触担当官のロセッティ博士は首を振った。

    「まあ……中くらいの成功だな。彼らが、原始的な生活を送っていることだけはわかったわけだから」

    「それでも、重力を振り切って外宇宙にメッセージを刻んだ鉱石を飛ばせるような文明ですよ。きっと、ぼくたちの知らない文化が……」

     ぼくは反論した。

     博士は首を振り、モニターから顔を上げて、伸びをした。

    「重力を振り切ってメッセージを刻み込んだ鉱石を飛ばすのは、周期的に噴火する火山の爆発力を利用したものだ。重力がかなり弱いから、火山程度の爆発でも脱出速度を超えることができる。彼らの言語もたいていはわかる。基礎的な文法は、鉱石に書かれたわずかなデータからでも、シンボル翻訳機でおおざっぱな構造はわかるからな。語彙については、ついさっきまでの原住民との対話で莫大なものを得た。もう八十パーセントは理解可能だ」

    「それじゃぼくたちも降りて行って」

     博士はさっきより強く首を振った。

    「それはだめだ。危険すぎる。一度降りたら、二度と上がってはこられまい」

    「敵対的な種族なんですか?」

    「敵対的というか……きみ、カーゴ・カルトというのは聞いたことがあるかね」

    「カーゴ・カルト? 文化人類学の授業でやったような……たしか、古代地球のメラネシアで発生した、一種の信仰ですよね。なんの戦争だか忘れましたが、大国により飛行機によって投下された、科学技術による食料や機械などの戦略物資に触れた現地人が、戦争が終わった後でもまたそうした物資を聖なる飛行機が投下してくれると信じ、まがいものの飛行場やまがいものの軍隊を作って、来るわけもないカーゴ……積み荷を待つ、というものだったはずですが」

     ぼくははっと気づいた。

    「ということは、ぼくたちは、その、カーゴ・カルト信仰の、カーゴを運ぶ飛行機になってしまった、ということですか? ぼくたちは聖なる存在だというわけですか? だから捕まると帰れないわけですか?」

    「聖なるなにかというわけではない。きみは地球では、どんな洗剤を使っていた?」

     ぼくは目をぱちくりした。

    「どんな洗剤って……いちばんありふれた、いちばん安いやつですよ」

    「なにか広告キャンペーンはなかったかね」

    「ありました。箱に貼られた情報を会社に送ると……一等から五等まで……え? えええ?」

    「そういうことだ。彼らが惑星外に送り出しているあのメッセージが刻まれた鉱石は、一種の『応募券』なのだ。彼らは、彼らを偉大にしてくれる貴重な物資をあてに、長い年月をかけて、『応募券』を送り続けているのだ」

    「じゃ、じゃあ、そんな幻想は捨てろ、と、降りて行って教えるべきじゃないんですか?」

     博士は目を閉じた。

    「降りて行ったら二度と戻れない。彼らが、あの装甲車両からなにを見つけようとしているか、わからないのかね? 『ダブルチャンス賞応募券』だよ! くじに外れても、また応募するための! われわれが降りて行ったら、彼らは、また外れくじか、とかぼやきながら、われわれをばらばらにするだろう、ダブルチャンス券を求めて! あの星は、ああやって放っておくほうがいいんだ。なにしろ、応募先からなにかの賞が来ることを、装甲偵察車両を降ろすことで証明してしまったわけだからな。これ以上あの星に関わると、誰も得るものがなにもない不毛な虐殺行為になるのがオチだ」

     あぜんとしてぼくはモニターを眺めた。

    「なんて虚しい生きかただろう」

     博士は苦笑した。

    「……虚しい、なんて思うのかね? 神は善なるものを天国へ召し、不善なるものを地獄へ落とす、というのも、『善』という価値の評価基準がいまだ人間同士でも決まっていない以上、一種の『抽選』ではないのかね? そもそも、きみも人間なら、われわれがこの世に生まれたこと自体が、『抽選』によるものだったことを理解できるのではないのかね? 十億分の一の」

     ぼくは何と答えたらいいのかわからなかった。
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    ~ Comment ~

    Re: オリバーさん

    愛蔵版だったかな。今その同人誌がどこにあるかわからなくなってしまったので参照できませんが(汗)

    「こじき」を「物もらい」と無理矢理いいかえたり、編集部の苦労がしのばれる改稿が行われていました。なにしろその同人誌を買ったのは今から二十年近く前ですし(^_^;)

    NoTitle

    え!?そうなんですか?知りませんでした…無知って罪。

    うーん、でも、失礼ですが文庫版にばっちり乞食って出てましたよ。

    僕の持ってる平成10年の第24刷では…。

    まあ15年も前に刷られた本ですし、最近ではまた違うかも

    知れませんね。今度見てみようっと。

    Re: オリバーさん

    ありましたねえ、ルンペン星。

    後に、そこで出てきた「こじき」という言葉が、文庫版ではすべて差し替えられていることを指摘した同人誌を読んで、出版社側の苦労を思って爆笑したことがあります(^^;)

    NoTitle

    俺もなんて答えればいいのか解らなかった…

    999のルンペン星の話を思い出した。

    うぅむ、哲学的な事はむつかしいぜ。

    Re: かえるママ21さん

    時おり、自分は抽選で当たったとしたら何等の賞品だったんだろう、と考えてブルーになるときがあります(^_^;)

    人の価値なんて、墓に入って初めて決まることはわかっているのですが……(^_^;)

    Re: えぐさん

    自由意志というものが存在するのかどうかは、哲学の永遠のテーマのひとつです。

    わたしたちの生には「意志」できるところがあるのか、すべては必然的な流れで、「自由意志」は幻なのか、世界は必然的なものではないが、「意志」と思えるものは、神が振った量子のさいころの出目にすぎないのか、いまだに甲論乙駁が続いている状態です。

    この異星人は、最終的には自分たちは救われる、と信じて疑わない時点で、すでに救われているのかもしれません。

    NoTitle

    面白い視点ですね。
    確かにこの世に生まれたことが抽選で当たった様なものですね。そういう視点から、人生を考えてみたら、少し楽観的に、生きられるかも。

    Re: ダメ子さん

    わたしにとって、善悪の木の実は駄菓子屋で売っていた30円の当たりつきイチゴアイス、「ビバオール」だったな。

    今でもときどき無性に食べたくなります。(^_^;)

    NoTitle

    人生にダブルチャンスがあったら…って思う時
    一度きりの人生だからこそ
    思いっきり、一生懸命、頑張って生きようと思えるのかなと思います。

    自分が今いる両親を親として生まれたこと
    考えてみれば本当に「抽選」と言えるかもしれない。
    私が息子を生んだのも元旦那以外の相手を選んでいたら
    生まれていなかったのですから
    元旦那を選んだのもある意味
    数ある男性の中の一人で「抽選」的なものなのかも(~_~;)
    でも結婚は一度限りじゃないからなぁ~。

    NoTitle

    思えば10円ガムのあたりで喜んでいたあの頃の方が
    善だったかもしれないです><
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