「ショートショート」
    SF

    第35期棋生戦

     ←期待外れの接触 →なくなっちゃえばいいのに
    「ありません」

     将棋盤を挟んで、名人であるわたしは相手に頭を下げた。周囲で、マスコミがどよめくのがわかった。

    「だから反対だったんだ!」

    「名人だったら恥を知れ!」

    「生物としての屈辱じゃないのか、これは!」

     わたしはテレビカメラに目をやった。屈辱感はそれほど湧いてこなかった。ただ、どうしようもない虚しさが、身体を駆け抜けていくだけだった。

    「ご覧のとおりです、皆さん……わたしは負けました」

     カメラがわたしのほうへ向いた。

    「今回で35期目になるこの実験的な勝負で、将棋というものが、いや、知性というものがなんなのか、それを問い直すべきときがきた、といえるのではないでしょうか。将棋というものは、『考える』こととは無縁だった、いや、人間自身も、実は、真の意味では『考えて』いなかったのではないかとさえ思われるのです」

     カメラが、対戦相手のほうを向くのが見えた。

    「十分な緻密さと、十分な量さえあれば、たとえ『ハシゴ状神経系』でも、人間の高度に進化した大脳と同等以上のことができると、彼は示しました。人間の時代というものも、ひとつのパラダイムにすぎなかったのかもしれません。われわれは拍手を贈るべきなのか。パンドラの箱のふたを開けてしまったのか。ここでわたしが負けたことは、将棋というゲームだけにとどまらず、心理学、哲学、基礎科学の分野にまで問題を突きつけたといえるでしょう。相手となってくれたG-81くんに、感謝の意を伝えます」

     対戦相手、クローン培養とコンピュータによる何億回かわからぬシミュレーションにより強化された、神経系のかたまりを、わたしは複雑な思いで見つめた。

     この驚嘆すべき知性の持ち主は、わずかひとつの個体から培養されたものだった。

     偉大だったはずの人間知性は一匹のゴキブリに敗北したのだ。
    関連記事
    スポンサーサイト



     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【期待外れの接触】へ  【なくなっちゃえばいいのに】へ

    ~ Comment ~

    Re: 矢端想さん

    SF者としては、「思考」は秩序ある文明を作るのに必ずしも必要ではない、いや、思考することは文明とは無関係なものである、と想像するとどきどきします(^_^)

    ヒュームみたいに、人間には「知覚の束」があるだけで、思考はしていない、という結論に達すると、それだけでご飯三杯は……わたしやっぱり変なのかな(^_^;)

    Re: miss.keyさん

    あの異次元将棋、ルールさえわかればすごく面白そうなんですけど。……と答えてしまう病膏肓ボードゲームファン(^_^;)

    カールビンソンには印象的なキャラクターがごろごろいましたね。少年キャプテンがもう少しだけ持ちこたえたらあさりよしとお先生もあの漫画を完結させられたのだろうと思うと残念です。最終巻なんて将棋でいえば「詰めろ」にかかってましたもんねえ。

    NoTitle

    かえるママさんの「北海道にゴキブリがいない」にちょっとびっくり。
    本州の都市部では、閉店後の飲食店とか夜中にパッと電気をつけると「ザザーッ」と無数のゴキが店中走り回って隠れるの知ってます?
    子供のころからおなじみの昆虫でしたが、10年以上住んでる今の奈良の家では未だに「無ゴキ」を保っています。ムカデは出るけど。

    将棋で昆虫に負けようがコンピュータに負けようが「お遊び」の範疇で、それで人間の知性の値打ちがいっこも揺らぐもんではないと僕は思っています。

    おとーさんは町内一強い。宇宙最強の男よりも強い

    >>Re: 山西 サキさん 米に横槍失礼

     こいつ脳みそ無いし・・・という台詞もありましたなぁ。宇宙家族カールビンソン。おとーさんの異次元将棋を是非。
     ところで、最近のゴキブリは甘いものが嫌いなんだそうな。おかげでゴキブリほいほいの掛かりが非常に悪くなったとか。ゴキブリも日々進化しとります。何時か人間に取って代わる日が本当に来るかも。いや、来るんだろうな・・・。

    Re: かえるママ21さん

    ためしに仕掛けてみてもいいんじゃないですかね。

    蚊の話ですが、やつらは寒さに弱くても、暖かい天井裏などに潜んで平気で越冬するらしいですから、ゴキブリも暖かい家の隅にもしかしたら。

    見たことがないというのも、暖かい台所の裏を選んで動いているだけかもしれませんし。

    ゴキブリホイホイなんて、薬屋で買ったとしても、ひと箱千円もしないんですから、シャレで設置してみればいかがでしょうか? 余ったら、誰か本州以南在住の親戚にでもあげれば、喜ぶのではないかな、と。

    NoTitle

    ゴキブリは、北海道では寒くて生息できないらしいです。
    でも、近年の温暖化で、すすきのなど、24時間、夜も暖かいところには、既にいるらしいですね。
    でも、かえるままは一度も見たことないのですよ。
    今後は、温暖化により、きっと上陸するでしょうから、その時までに、心の準備しておきます。
    でも、一度位、実験の為に、ゴキブリホイホイをしかけてみようかな?

    Re: 山西 サキさん

    いえ間違ってはいません。ハシゴ状神経系は、節足動物などにとってはポピュラーな神経システムです。詳しくはここを。 http://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AF%E3%81%97%E3%81%94%E5%BD%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

    ウィキペディアって便利だな。

    あさりよしとお先生の「宇宙家族かーるびんそん」に出てくる昆虫型生物が進化したヒューマノイド型エイリアンを見てかけられた、

    「こいつはなにを考えて生きてるんだ!」

    というツッコミに、そのエイリアンの旧友が、

    「考えてないよ。目の前のものに反応してるだけ」

    と投げやりに答えるシーンが、ギャグとしても、SFの驚きとしても決まっていて、すごく感動したのを覚えています(^_^)

    Re: ダメ子さん

    コンピュータソフト強いそうですからね。

    ゴキブリに敗北するのと、「粘菌」に敗北するのと、どっちがいい? 両方とも、「考え」ちゃいませんが(^_^;)

    Re: かえるママ21さん

    ウェルズの原作ではもっと怖く、「なんだかよくわからないもの」としか形容できないものが生き残っているんですよね。

    リアルゴキブリに遭遇したかったら、家の台所にゴキブリホイホイを仕掛け、三日後あたりに中をのぞいてみることです。一匹ぐらいは、生きたやつがかかっていると思います。やつらはなにも食べなくても、一週間から十日は生きているそうですし………(^_^;)

    Re: 荒野鷹虎さん

    「将棋を指す生物」だから「棋生戦」(^_^) 棋聖戦じゃないです(笑)

    将棋については、コマの動かしかたくらいしか知らないヘボです(^_^;)

    わたしが勝てる将棋は、「じゃんけん将棋」くらいだなあ。ルールは簡単、「じゃんけんで勝ったほうが一手指す(笑)」ヒマなときにプライドの高い友達とやると、短時間だけ熱くなれます。なにせじゃんけんに三連勝すれば、羽生だろうが森下だろうが勝てるんですから(^_^)

    NoTitle

    『ハシゴ状神経系』の部分で「ムカデ」を連想したサキの感性はどうなんでしょう?
    ハシゴ状神経系はゴキブリの神経系の構造を表す言葉なんですか?

    例えゴキブリの神経系でも大量に集積すれば人間を超えるかもしれない……サキはなんとなく納得してしまいます。

    NoTitle

    培養した人工的なものとはいえゴキブリに負けるのはイメージが…
    あえてゴキブリを使うなんて将棋界をつぶそうとする陰謀じゃ?
    ただでさえ危ないらしいのに…

    NoTitle

    映画「タイムマシン」では、最後に生き残って進化するのは、ゴキブリなので、なんとなくありえそうで・・・・怖いです・・・

    SFのテーマでもありますよね。
    問いというか、人間の知性とはなにか?と言う。
    クローンや、人間型ロボットの宿命など。

    というかえるままは、生まれてこのかた、一度もリアルなゴキブリに遭遇したことがないのです・・・・(^_^;)
    今生で遭遇したら・・・将棋を一局お願いしてみようかしら。とりあえず、ポールさんとこに、ご報告に参ります。(o^^o)
    (今同時でしたね!)

    ポール・ブリッツさんへ!!

    コメントありがとうございました。
    将棋の記事もあり驚きました。相当やるようですね^^!
    棋聖戦がごきぶり戦となるとはさすがの作家ですねー。!ではまた!

    Re: LandMさん

    そんなダジャレは考えてなかった(^_^;)

    意外な読み方を発見してくれてありがとうございます。

    タイトルは「その場の思いつき」で決めたので……(^_^;)

    NoTitle

    ・・・ん。
    これは要約すると
    「第35回 期棋生(ごきぶり)戦」となるわけですね。
    ・・・理解するのに2分かかってしまった。。。
    う~む、知っていましたが、ダジャレのセンスも私はないなあ。。。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【期待外れの接触】へ
    • 【なくなっちゃえばいいのに】へ