「ショートショート」
    ホラー

    血のしたたるような

     ←わたし破壊光線 →皆様へお聞きしたいのですが
    「さて、血のしたたるようなステーキを作って食べるぞ」

     鰓井恵来博士は厨房に立って、誇らしげにそう宣言した。当然、ぼくはいった。

    「やめたほうがいいんじゃないですか」

     博士は顔をしかめた。

    「どうしてだ。うまいぞ」

    「だっ、だって……このカテゴリ、『ホラー』ですよ!」

     博士は肩をすくめた。

    「作者が間違えたんじゃろ。なんか、最近、疲れた、とかいってたしな」

    「でも、『ホラー』だなんて、意図的なものを感じますよ! きっと、ほかの諸作みたいに、ぼくたちはろくでもないものを……」

    「考えすぎじゃよ」

     博士は冷蔵庫を開けた。

    「肉じゃ。どうじゃ、きちんと二人前ある。まあ予算の関係上、ひとり頭にして二百グラムじゃが」

    「博士、ほんとうに、その肉、普通の牛肉ですか?」

     博士は気分を害したようだった。

    「普通の牛肉のわけがないじゃろう」

     ぼくは心臓が跳ね上がるかと思った。博士は続ける。

    「皇室御用達の肉屋で、熟成したのを買ってきた、超一流の牛フィレ肉じゃ」

     ぼくはその『超一流の牛フィレ肉』とやらを、うさん臭そうに眺めた。残念ながら、ぼくには、牛肉とその他の肉をひと目で見分けることができるほど、肉に関する知識がない。

    「まずは、この肉を、常温にする。ほっといてお茶でも飲んでいるのがいちばんなのじゃが、それではちと不衛生なので、これを使う」

     博士はなにやら得体のしれない機械を取り出した。

    「博士、なんですかこれは?」

     ぼくは、これで拷問されたときのことを考え、背筋に粟がたつのを覚えながら、おそるおそる博士に問いかけた。

    「これは、わしの大発明、『食品常温機』じゃ。これを使うと、電子レンジよりもすばやく正確に、食品を常温に戻せる。時間理論を研究中にできた副産物でな」

    「博士、時間理論なんてどうでもいいですから、そんな機械を使うのはやめて、室温にするにしても、ふつうに室温にしましょうよ」

     タイムパラドックスなどに巻き込まれたら、たまったもんじゃない。

    「いいや、きみ、今日これを使うのは、メーカーにこの機械を売り込むため、というのも一因なのじゃ。まあ見ておれ、わしに任せておけば心配ない。そもそも、どうしてきみがそんなに心配しているのか、わしにはさっぱりわけがわからん」

     博士はその肉……牛肉だそうだが……をトングでつまみ、機械の口に入れた。機械は、下腹に響くイヤな音を出して動き、もう一方の口から肉を吐き出した。

     博士は肉をトングで持ち上げ、うむ、といった。

    「よし、いい具合になっているな。それじゃ、フライパンを用意しよう」

     博士は、棚から、不気味にぎらぎら光るフライパンを取り出した。かなり厚く、しっかりしたつくりだ。

    「博士、そのフライパンは……?」

    「わしが学生のころから使っているフライパンじゃ。表面の塗料を落としているから、肉も野菜もよく焼ける」

     ぼくは、『人もよく焼けるんじゃないですか』といいたくなるのをこらえた。怒った博士に、あのフライパンでガンとばかりに殴られたら、ぼくの頭蓋骨は簡単に粉砕されてしまうだろう。

    「ここからは火を使うから、きみは見ていてくれたまえ。いや、きみを信頼していないわけではないのだが、ステーキを焼くには火加減が大事なのだ」

    「見なくちゃ……いけませんか?」

     ぼくは及び腰になった。『ホラー』カテゴリで、火のそばになんか近寄りたくない。

     博士は首をひねった。

    「勉強になるのにな。きみもそのうちステーキくらい焼くかもしれんではないか。スーパーの特売のオージービーフかもしれんが、知識を得ておくことは大事じゃ。火加減は難しいが、一度覚えてしまったら後は簡単じゃよ」

    「はあ」

     ぼくはおっかなびっくり博士の背後に立った。

    「おっとその前に」

     ぼくは反射的に硬直した。なにをする気なんだ、博士……?

    「肉に塩をしておかねばならん。岩塩を使おう。これをこうやって、肉にぱらぱらと。うん? どうした?」

    「が……岩塩。そうですよね、そうですよね、はは」

     博士はコンロに火をつけ、フライパンを温めた。いや、温めるどころではない、煙が出るまで熱している!

    「博士?」

     ぼくは泣きそうな声になった。

    「うむ。ここに、油を投入する。今日はオリーブ油にしよう。バターが少々痛んでいたのだ」

     オリーブ油でもバターでもどうでもいいよ! 博士は油を思ったより多めに入れて熱し、多く入れすぎたのか少々捨てた。

    「さて、肉を投入だ。ちょっとこのコンロでは火力が弱いので、蓋をこう閉める」

     博士は肉をフライパンに入れ、蓋をした。鼻歌を歌いながら、フライパンを揺らす。

    「強火で三十秒、まあカンだ、そうしたら火を弱火にする」

     博士はまた三十秒ほど鼻歌を歌っていたが、再びふたを開けると、中の肉を素早くひっくり返し、蓋を閉め、火を強火にした。

    「またも強火で三十秒、弱火で三十秒。肉はあまりひっくり返したりしないほうがいい。肉汁が逃げるからな」

     いきなり博士は振り向いた。

    「きみ」

    「は、はい!」

    「残念かもしれんが、ワインやブランデーは入れないぞ」

    「はい、はいい、かまいません!」

     もう時間が早く過ぎてくれ、という気分だった。

     博士は塩と胡椒でなにかをした後、皿にステーキを盛った。

    「あ、きみ、そこの棚からパンを取ってくれたまえ」

    「パン……?」

     まさかそこに? ぼくは手を震わせながらパンを探した。普通のフランスパンの薄切りが載った籠があった。

    「これですか?」

    「そう、それそれ。持ってきてくれ。肉だけじゃ淋しいだろう」

    「そ、そうですよね。あのう……ぼく、食べるんですか? この肉」

    「せっかく作った以上、食べないと損じゃろう。さ、早く、ナイフとフォークを」

     ぼくはなるようになれ、とテーブルに着き、ナイフで肉を切った。

     肉から、血がしみだしてきた。

    「うわあっ!」

     ぼくは意識が薄くなっていった。

     博士の声が遠くで聞こえた。

    「……なんじゃ、レア・ステーキは嫌いじゃったのか。それならそうといってくれれば、ミディアムにもウェルダンにもしてやったのに……これはわしが食うとするか」



    参考:http://www.nikuzuki.com/htm/katei.htm
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    Re: 矢端想さん

    わたしは豚肉ですねえ。味付けは中華で……(^^)

    「自炊日記」は、なんか最近、「自炊」や「ダイエット」ではなく、「今日もわたしの調子が悪い」日記になっている気がしてつらいであります(^^;)

    Re: オリバーさん

    わたしも食べたい。味つけは塩コショウだけにしてみるかな、ステーキガストかどこか安いステーキ屋にいったとき……(^^;)

    Re: カテンベさん

    今回は「カテゴリ」自体をギャグに使ってみました。

    ギャグとホラーとは紙一重なのであるなあ、と書き終えてしみじみ。

    NoTitle

    「ホラー」って言われただけで何もかもホラーに見えてしまう「ぼく」は前記事からの流れですね。
    肉汁したたるミディアムレアのビフテキはたまりませんな!
    たまりませんけど・・・やっぱり鶏肉が一番好きです。脂のしたたるやつ。

    今月の「自炊日記」も楽しみ。

    NoTitle

    おなかが空いてきたぞー

    食べたいな、ステーキ。じゅる。

    ホラーやなくて、ほら〜、なの?

    ビクビクしながら、ほらほらほら〜、やっぱりそうやんかー、て言うタイミング待ちでいると、神経擦り切れてまうんかなぁ

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