「ショートショート」
その他
日陰者生き残りエレジー
盛りを過ぎて仕事が来なくなったタレントというものはみじめなものだ。夜の八時、ふつうのタレントなら大忙しの時間だろう。おれはマネージャーと、暗く笑いながら茶を飲むしかなかった。
とりあえずおれはテレビをつけた。ほかにやることはない。
『かまして……ガッデム! 今日は特別生放送でお届けします。今週のテーマは……わっ! びっくり! こんな隠れた病気が! 特集です!』
おれは、おっ、と思った。ゲストの中に、おれとほぼ同時期に人気があった、今は泣かず飛ばずのタレント、深崎の姿があったからだ。
今週の「かましてガッデム!」は、ホールを舞台に、集まったギャラリーたちに簡単な健康診断を行い、難病を発見する、という企画らしかった。
『注意しなくてはいけませんね、このホロホレヴィチ・ズワイ病は、最悪の場合死の危険性も……』
司会の落語家がそういったとき、深崎がぎゃっと声を上げた。
『ぼ、ぼく、えらい数字が出ちゃったんですが』
ギャラリーも司会も笑った。
『それじゃ、ひと足早く、専門の先生に診てもらいましょう。先生、お願いします!』
白衣を着た中年の男がやってきて、深崎のそばに寄り、脈をとって……顔色を変えた。
『あの……先生?』
『ホロホレヴィチ・ズワイ病に間違いありません。すぐに入院してください。今なら、最新の薬を使えば、九十パーセントの確率で完治します』
おれは笑った。どこまでもついてない男だ。
「引っ張りだこですよ、あの先生」
マネージャーが仏頂面でいった。おれも仏頂面で答えた。
「深崎のやつか」
おれは週刊誌を放り出した。
『難病! ホロホレヴィチ・ズワイ病から奇跡の生還! 患者会代表・深崎氏は語る』
「患者会の代表になって、啓蒙活動だとかいって年中講演のしどおしだ。啓蒙活動というより、仕事だな」
「患者がいるかぎり、仕事がとぎれることはありませんね。あの……これ小耳に挟んだんですが」
「なんだよ」
「あの人のマネージャー、ホロホレヴィチ・ズワイ病の本を読んで、深崎さんがそのおそれがあることを知り、持てるコネと影響力のすべてを使って、深崎さんを『かましてガッデム!』に送り込んだとか。ほんとだとしたらすごい大バクチです」
「それが当たったわけか。ついてるやつはついてるな」
「で、それなんですけどね」
マネージャーは声を潜めた。
「実は、先生にも、日本ではよく知られていない病気の前兆じみたものが」
「おれに?」
おれは背筋が寒くなった。そういえば最近、妙に疲れやすくなった。齢のせいかと思っていたが……。
「『かましてガッデム!』で特集組むそうです」
「早く営業に行くんだ!」
おれは叫んだ。
「かまして……ガッデム! のお時間がやってまいりました。また、こわ~い病気が日本上陸してきたようです」
おれはスタジオのゲスト回答者席で診断テストと医者の解説を待った。この番組が放映されれば、おれの生活はほぼ保証されるのだ。
診断テストでは、予想通りとんでもない数値が出てきた。マネージャーの見立ては正確だったようだ。
「先生をお呼びしましょう! 先生どうぞ!」
白衣を着た若い医者が現れ、俺の舌の色を見た。
「間違いありません。イダシス・コタール病です」
よしっ、とおれは内心ガッツポーズをした。医者は続ける。
「末期ですね。手遅れです。おいしいものでも食べて、残された三ヶ月の時間を楽しんでください」
えっ……。
真っ白になった頭で、おれは練習してきた言葉を、ボイスレコーダーのようにしゃべっていた。
「……これからの人生は、この病気に対する啓蒙活動にささげたいと……思って……そんな……うわあああああん!」
三ヶ月後、このときの「かましてガッデム!」の視聴率は番組最高記録だった、とおれは入院先のベッドで聞いた。深崎、おれの記録は、どれだけ生き残ると思う?
とりあえずおれはテレビをつけた。ほかにやることはない。
『かまして……ガッデム! 今日は特別生放送でお届けします。今週のテーマは……わっ! びっくり! こんな隠れた病気が! 特集です!』
おれは、おっ、と思った。ゲストの中に、おれとほぼ同時期に人気があった、今は泣かず飛ばずのタレント、深崎の姿があったからだ。
今週の「かましてガッデム!」は、ホールを舞台に、集まったギャラリーたちに簡単な健康診断を行い、難病を発見する、という企画らしかった。
『注意しなくてはいけませんね、このホロホレヴィチ・ズワイ病は、最悪の場合死の危険性も……』
司会の落語家がそういったとき、深崎がぎゃっと声を上げた。
『ぼ、ぼく、えらい数字が出ちゃったんですが』
ギャラリーも司会も笑った。
『それじゃ、ひと足早く、専門の先生に診てもらいましょう。先生、お願いします!』
白衣を着た中年の男がやってきて、深崎のそばに寄り、脈をとって……顔色を変えた。
『あの……先生?』
『ホロホレヴィチ・ズワイ病に間違いありません。すぐに入院してください。今なら、最新の薬を使えば、九十パーセントの確率で完治します』
おれは笑った。どこまでもついてない男だ。
「引っ張りだこですよ、あの先生」
マネージャーが仏頂面でいった。おれも仏頂面で答えた。
「深崎のやつか」
おれは週刊誌を放り出した。
『難病! ホロホレヴィチ・ズワイ病から奇跡の生還! 患者会代表・深崎氏は語る』
「患者会の代表になって、啓蒙活動だとかいって年中講演のしどおしだ。啓蒙活動というより、仕事だな」
「患者がいるかぎり、仕事がとぎれることはありませんね。あの……これ小耳に挟んだんですが」
「なんだよ」
「あの人のマネージャー、ホロホレヴィチ・ズワイ病の本を読んで、深崎さんがそのおそれがあることを知り、持てるコネと影響力のすべてを使って、深崎さんを『かましてガッデム!』に送り込んだとか。ほんとだとしたらすごい大バクチです」
「それが当たったわけか。ついてるやつはついてるな」
「で、それなんですけどね」
マネージャーは声を潜めた。
「実は、先生にも、日本ではよく知られていない病気の前兆じみたものが」
「おれに?」
おれは背筋が寒くなった。そういえば最近、妙に疲れやすくなった。齢のせいかと思っていたが……。
「『かましてガッデム!』で特集組むそうです」
「早く営業に行くんだ!」
おれは叫んだ。
「かまして……ガッデム! のお時間がやってまいりました。また、こわ~い病気が日本上陸してきたようです」
おれはスタジオのゲスト回答者席で診断テストと医者の解説を待った。この番組が放映されれば、おれの生活はほぼ保証されるのだ。
診断テストでは、予想通りとんでもない数値が出てきた。マネージャーの見立ては正確だったようだ。
「先生をお呼びしましょう! 先生どうぞ!」
白衣を着た若い医者が現れ、俺の舌の色を見た。
「間違いありません。イダシス・コタール病です」
よしっ、とおれは内心ガッツポーズをした。医者は続ける。
「末期ですね。手遅れです。おいしいものでも食べて、残された三ヶ月の時間を楽しんでください」
えっ……。
真っ白になった頭で、おれは練習してきた言葉を、ボイスレコーダーのようにしゃべっていた。
「……これからの人生は、この病気に対する啓蒙活動にささげたいと……思って……そんな……うわあああああん!」
三ヶ月後、このときの「かましてガッデム!」の視聴率は番組最高記録だった、とおれは入院先のベッドで聞いた。深崎、おれの記録は、どれだけ生き残ると思う?
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Re: limeさん
予算がかからなくて視聴率が取れる番組があったら、みんなそっちへ流れるよな……(´・ω・`)
いちばん視聴率を気にしている局がNHKだというのが末期的だよな……(´・ω・`)
いちばん視聴率を気にしている局がNHKだというのが末期的だよな……(´・ω・`)
Re: 矢端想さん
我ながらバカな番組タイトルにしたなと反省しております(^_^;)
「ガッデムしていただけましたか?」(笑)
「ガッデムしていただけましたか?」(笑)
Re: カテンベさん
早期発見が行われたせいで薬がきき、ぎりぎりで治ったからでしょうね(^_^)
前に某番組で見た、「脳梗塞」のエピソードがもとになってます。
さあ両手を前に突き出して、「今日もイーッ天気、ココロも晴ればれ」といってみよう! 手が不自然に下がったり、ろれつがまわらなかったりしたら、危険なのですぐに救急車だ!
前に某番組で見た、「脳梗塞」のエピソードがもとになってます。
さあ両手を前に突き出して、「今日もイーッ天気、ココロも晴ればれ」といってみよう! 手が不自然に下がったり、ろれつがまわらなかったりしたら、危険なのですぐに救急車だ!
NoTitle
あの、病を扱ったバラエティは、どうしても見れませんね。
なんか、元気だったのに、具合が悪くなっちゃって。
・・・いやもう、最近TVすら見ていないなあ^^;
どうして日本のゴールデンタイムは、あんなに面白くないものばかりになっちゃったのでしょう。(今まで、気づかなかっただけなのでしょうか)
なんか、元気だったのに、具合が悪くなっちゃって。
・・・いやもう、最近TVすら見ていないなあ^^;
どうして日本のゴールデンタイムは、あんなに面白くないものばかりになっちゃったのでしょう。(今まで、気づかなかっただけなのでしょうか)
NoTitle
あの、病気を扱ったバラエティは、どうしても見れませんね。
なんか、元気だったのに、病をもらったような気がして。
・・・いやもう、最近TVすら見ていないなあ^^;
どうして日本のゴールデンタイムは、あんなに面白くないものばかりになっちゃったのでしょう。(今まで、気づかなかっただけなのでしょうか)
なんか、元気だったのに、病をもらったような気がして。
・・・いやもう、最近TVすら見ていないなあ^^;
どうして日本のゴールデンタイムは、あんなに面白くないものばかりになっちゃったのでしょう。(今まで、気づかなかっただけなのでしょうか)
難病なのは発見が困難なだけ?
でもマネージャーが気づくくらいやしなぁ
90%治るて言われたのに奇跡の生還やなんて。
奇跡どころか普通のことちゃうのん?
治らん病気が治った、ていう、やらせ、やったんかな?
脈をとっただけでわかるなんて出来すぎやもんなぁ
そんなん鵜呑みにして、真似しようとしても、うまくいくわけないよね〜
でもマネージャーが気づくくらいやしなぁ
90%治るて言われたのに奇跡の生還やなんて。
奇跡どころか普通のことちゃうのん?
治らん病気が治った、ていう、やらせ、やったんかな?
脈をとっただけでわかるなんて出来すぎやもんなぁ
そんなん鵜呑みにして、真似しようとしても、うまくいくわけないよね〜
- #11939 カテンベ
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- 2013.11/12 12:31
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