「ショートショート」
ミステリ
最低裁判所
つきあっていた女を殺しちまった。つきあっていたというのは違うな。おれにつきまとってきたので、二、三発やってやったが、反応が鈍かったので、景気づけにシャブを射ってやったら死にやがった。しかたがないので山まで埋めに行ったが、手間賃がわりにカードからカネを引き出そうとしたらお巡りに逮捕された。ついてねえ。
まあ、ひとりしか殺しちゃいないから死刑にはならないだろ。取調室じゃ正直にしゃべったし、十五年の刑が十二年、いやもうちょっと短いかな。殺人じゃなくて傷害致死だからな。
おれの調書に署名させた刑事はいった。
「よし、それじゃ、さっそく起訴の手続きに入るから、支度しろ」
「え?」
「裁判の迅速化のために、新たな制度ができたんだ。ほら、こっちへ来い」
おれは腰紐を引っ張られた。
「旦那、もう夜ですし、地裁は開いちゃいませんぜ」
「誰が地裁に行くといった。これから行くのは、『最低裁判所』だ」
「最低裁判所?」
「最高裁判所があるんだから、最低裁判所があったっていいだろう。法改正で、お前みたいな最低なやつは、一律そこに送られることになったんだ」
おれは混乱した。
「じゃ、じゃあ、弁護士を」
「心配しなくても、国薦弁護人がつく。国の推薦する、国の思うとおりの弁護をする弁護人だ」
「それって弁護士じゃないじゃないか! 控訴は、まともな弁護士のつく裁判所で」
「くどくどいうな。裁判の迅速化のため、最低裁判所からの控訴はない。ほら、きりきり歩け!」
それが、娑婆でおれがきいた最後の言葉だった……。
「……という都市伝説を広めてくれ。これ以上、最低な事件なんか見たくないからな」
県警本部長の言葉に、広報のぼくは首をひねった。
「そんな見え見えの怪談話を流行らせて、本当に悪質な事件が減るんですかねえ」
「しかたないだろう。警察庁のほうから通達が出てるんだ。将来的には、この都市伝説で、国事犯や思想犯も抑えようという考えらしい。やつらは公安の縄張りだから、民間への被害を減らすには、こういった搦め手からの対応がいるんだ」
「効果はもっと薄い気がしますがねえ」
ぼくは、ブラインドの降りた窓を見た。
「うるさいですね。ビル工事ですか。こんな不景気な時代になにを」
本部長は首を振った。
「裁判所の移設、とかいってたな。より高機能な裁判所にするそうだ。そんなカネがあったら、うちみたいな貧乏県警にもまわしてほしいよ。じゃ、きみ、頼んだぞ」
気が進まないが、ぼくはプランを考え始めた。公務員なのだからやるときはやらなければ。さっきの話に出てきた、新しい裁判所ビルの話、盛り込んだら信憑性が出てくるんじゃないか。
ぼくは工事の音に耳をすました。
まさか……ね。
まあ、ひとりしか殺しちゃいないから死刑にはならないだろ。取調室じゃ正直にしゃべったし、十五年の刑が十二年、いやもうちょっと短いかな。殺人じゃなくて傷害致死だからな。
おれの調書に署名させた刑事はいった。
「よし、それじゃ、さっそく起訴の手続きに入るから、支度しろ」
「え?」
「裁判の迅速化のために、新たな制度ができたんだ。ほら、こっちへ来い」
おれは腰紐を引っ張られた。
「旦那、もう夜ですし、地裁は開いちゃいませんぜ」
「誰が地裁に行くといった。これから行くのは、『最低裁判所』だ」
「最低裁判所?」
「最高裁判所があるんだから、最低裁判所があったっていいだろう。法改正で、お前みたいな最低なやつは、一律そこに送られることになったんだ」
おれは混乱した。
「じゃ、じゃあ、弁護士を」
「心配しなくても、国薦弁護人がつく。国の推薦する、国の思うとおりの弁護をする弁護人だ」
「それって弁護士じゃないじゃないか! 控訴は、まともな弁護士のつく裁判所で」
「くどくどいうな。裁判の迅速化のため、最低裁判所からの控訴はない。ほら、きりきり歩け!」
それが、娑婆でおれがきいた最後の言葉だった……。
「……という都市伝説を広めてくれ。これ以上、最低な事件なんか見たくないからな」
県警本部長の言葉に、広報のぼくは首をひねった。
「そんな見え見えの怪談話を流行らせて、本当に悪質な事件が減るんですかねえ」
「しかたないだろう。警察庁のほうから通達が出てるんだ。将来的には、この都市伝説で、国事犯や思想犯も抑えようという考えらしい。やつらは公安の縄張りだから、民間への被害を減らすには、こういった搦め手からの対応がいるんだ」
「効果はもっと薄い気がしますがねえ」
ぼくは、ブラインドの降りた窓を見た。
「うるさいですね。ビル工事ですか。こんな不景気な時代になにを」
本部長は首を振った。
「裁判所の移設、とかいってたな。より高機能な裁判所にするそうだ。そんなカネがあったら、うちみたいな貧乏県警にもまわしてほしいよ。じゃ、きみ、頼んだぞ」
気が進まないが、ぼくはプランを考え始めた。公務員なのだからやるときはやらなければ。さっきの話に出てきた、新しい裁判所ビルの話、盛り込んだら信憑性が出てくるんじゃないか。
ぼくは工事の音に耳をすました。
まさか……ね。
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~ Comment ~
NoTitle
都市伝説かあ・・・。
そういえばそういうネタはあまり作ったことがないですね。
色々な都市伝説はありますが。。。
最低裁判所か・・・罪と罰の論理が日本は希薄ですからね。
そういえばそういうネタはあまり作ったことがないですね。
色々な都市伝説はありますが。。。
最低裁判所か・・・罪と罰の論理が日本は希薄ですからね。
- #11999 LandM
- URL
- 2013.11/17 22:20
- ▲EntryTop
Re: limeさん
一時期、ドラえもんのひみつ道具の「よい子バンド」という、「つけた者はよいことしかできなくなる」効果をもつものが本気でほしくなったことがあります。
今にして思うと、「ファシズム待望論」以外の何物でもありませんでした。「考えたくない」と思うところに全体主義の恐怖は口を開けているのです。
今にして思うと、「ファシズム待望論」以外の何物でもありませんでした。「考えたくない」と思うところに全体主義の恐怖は口を開けているのです。
NoTitle
こんな最低な人間には、お似合いの裁判所のような気もしますが。
それに携わる人間が、地に落ちてしまいそうで悲しいですね。
その罪に、本当に見合った罰を・・・。
そんな道具、ドラえもんが出してくれないかなあ。
(じゃあ、犯罪を起こさせないようにする道具の方がいいか)
それに携わる人間が、地に落ちてしまいそうで悲しいですね。
その罪に、本当に見合った罰を・・・。
そんな道具、ドラえもんが出してくれないかなあ。
(じゃあ、犯罪を起こさせないようにする道具の方がいいか)
Re: かえるママ21さん
わたしにはどこかホラーなんですが(^_^;)
こういう裁判所作って悪人を片っ端から成敗するよりも、万人が相応の扱いを受ける裁判制度があったほうが、世の中としてはいいと思います(^_^;)
こういう裁判所作って悪人を片っ端から成敗するよりも、万人が相応の扱いを受ける裁判制度があったほうが、世の中としてはいいと思います(^_^;)
Re: ダメ子さん
まあこんな裁判制度にならないために、三審制とか傍聴権とか控訴権とかがあるわけですが、最近の風潮を思うとガクブルものであります。とほほ。
Re: レルバルさん
一時期大流行した、人面犬とか口裂け女とかの時代は……きみ生まれてないな(^_^;)
Re: カテンベさん
まあ独裁体制にしてどんな微罪でも一律死刑ということにすれば表面上は犯罪がなくなるかもしれませんが、個人的にはそんな国には住みたくありません(^_^;)
娑婆できいた最後の言葉、なんてことは、死刑か無期懲役てことなんでしょね
再犯のおそれあり。てなのも刑期を終えたら出てくる、なんてのよりはええんかな?
独裁的な国なんかやと、そんなんありそなもんですね
再犯のおそれあり。てなのも刑期を終えたら出てくる、なんてのよりはええんかな?
独裁的な国なんかやと、そんなんありそなもんですね
- #11970 カテンベ
- URL
- 2013.11/15 11:37
- ▲EntryTop
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Re: LandMさん
わたしのこれも伝説としては弱いよなあ(^_^;)