FC2ブログ

    「ショートショート」
    SF

    クリスマスを祝う男

     ←洋画裏ベスト10「センチネル」 →剣と魔法の国の伝説 プロローグ・その1
     正直な話、ぼくはバーにいた、サンタクロースの扮装をしたその老人を、うさんくさいとしか思えなかったのだ。

     唯一空いていた隣の席に座り、ぼくはバーテンダーにいおうとした。

    「ドライ・マ……」

     いきなり肩がばんばんとはたかれて、『マティニ』という声はのどの奥に引っ込んでしまった。

    「若いの! ワインはどうだ、ワインは!」

     ばかでかいグラスに、なみなみと赤ワインが注がれていた。反射的に、ぼくは受け取った。

    「……ありがとうございます。しかし、ごきげんですね」

    「きげんが悪くなるわけがあるか。明日は、偉大なる預言者の誕生の日だぞ」

     老人はワインをぐいっと飲むと、バーテンダーに差し出した。

    「きみ! おかわり!」

     クリスマスイブということで、そうとう気分がいいらしい。ぼくは、生来の天の邪鬼な性分が働いたせいか、老人をからかってやりたくなった。

    「クリスマスというのは、もともとはミトラ教の冬至の祭りだったそうですね」

     老人は鼻を鳴らした。

    「ふん! 単なる偶然にすぎん。それをいうなら、日本の今のエンペラーは、十二月二十三日生まれだが、なにもミトラ教とやらの冬至の祭りに遠慮して生まれてきたわけではあるまい」

     老人はグラスを受け取り、ぼくに突きつけた。

    「いいか、わしはこの世に存在してからずっと、一年も欠かさず、偉大なかたが誕生する日をお祝いしてきたのだ。偉大なかたの誕生日に、全世界の人々を笑顔にする、そのためだけにわしは存在しておるのだ」

    「でもですね」

     ぼくは指を立てていった。

    「ベツレヘムの星の記録や、聖書に書かれた記述から判断すると、イエスが生まれたのは、『真夏』のことですよ」

     老人は変なものを見る目でぼくを見た。

    「誰がナザレのイエスの話をしておるんじゃ」

    「えっ……」

     ぼくは言葉につまった。

    「イエスも愛に満ちたすばらしい男だったが、残念ながら力が足りなかった。それに対して、明日生まれるのは、これまでの預言者たちがやろうとしてもできなかったこと、使命の成就をなしとげるほんとうの救い主だ」

     なんと返していいかわからないぼくの目の前で、老人はバーテンダーに細長い箱を手渡した。

    「勘定のかわりに、このプレゼントを受け取ってくれ。それだけの価値はある」

     バーテンダーは不審な顔で包みを開けたが、やがて顔がぱっと輝いた。

    「これはヴィンテージのアイスヴァインじゃないですか!」

    「ここの人たちで、欲しがる者みんなに注いでやってくれ。たぶん足りるはずだ。それじゃ、メリー・クリスマス。わしはこれから、全世界の人たちを笑顔にしなくてはならん」

     老人はそれだけいうと、重そうな白い袋を背負って店を出て行った。

     呆然としていたぼくは、はっと気を取り戻すとワインをあおり、すぐにその後を追ったが、老人の姿はどこにもなく、ただ遠い空に、なにかの光の点がきらっと輝くのが見えただけだった。

     殻のグラスを手に店内に戻ったぼくは、プレゼントとして配られた、金色の液体の入ったグラスを取り、みんなと乾杯した。わずか一本の瓶から、店じゅうの客のグラスに過不足なく注がれていたことに、誰も気がつかないのが、なぜかすとんと腑に落ちた。

     黄金が溶けたような極上の味の液体を舌で転がしながら、ぼくはあの老人がほんとうのサンタクロース、今に至るまでずっと十二月二十五日という日を祝い、祝福してきた存在だということを確信していた。

     ついに明日生まれるのだ。この破滅に瀕した人間社会を、救ってくれる偉大な……。

     ぼくは叫び声を上げた。

     生まれるって、何時に? どこで? そもそも……男なのか女なのか?

     ぼくはそのときになってようやく、聖書に書かれた「偽予言者に警戒せよ」という言葉のなんたるかを理解したのだった。明日生まれる子供っていったって、全世界で四十万人近くいるんだぞ……。
    関連記事
    スポンサーサイト






     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    【洋画裏ベスト10「センチネル」】へ  【剣と魔法の国の伝説 プロローグ・その1】へ

    ~ Comment ~

    Re: 青井るいさん

    いや、どんな世の中でも、世界を変える方法を最初に見つけ出した人間は、たいてい悲惨な死にかたをするものなんです。

    そういうもんなんです(^_^;)

    Re: 矢端想さん

    この救世主は、そういった「天国」とはまた違った価値を持ち出して衆生を救うのではと思います(^_^)

    それがなんなのかはわかりませんが、ニーチェなど足下にも及ばぬよほど革新的ななにかかと。

    到来してもおかしくないと思うんですが……。

    NoTitle

    救世主になれそうな器は誕生するけど、本人になる気があるのかどうか……。
    そういう人たちって今の社会では大富豪になっていそうです。

    遅ればせながらメリークリスマス。

    NoTitle

    なあに、救ってくれるのは別にこの世の話じゃあないです。
    この世の一時的な苦しみがささいなものに思えるような、もっと限りなく大きな本当の世界(=あの世)でちゃんと幸福になれることを説いてくれるのが救世主。人類の堕落をわかってて放っといたのも、人類が真に救われるべき祝福された存在であることに気付かせるための神様の確信犯・・・などとミルトンが「失楽園」で言わんとしたようなことはめんどくさいので書きませんが。
    要はあの世での結果オーライ。少なくとも「南無阿弥陀仏」を唱えていれば極楽に行けますから、大丈夫ですよ。

    Re: limeさん

    サンタクロースは超自然的な善意のかたまりだから、いつまでたっても争いをやめないような世界を見ると歯がゆく思うんじゃないかなあ。

    善意のかたまりには歯がゆいという感情はない、といわれたらそれまでですが(^^;)

    NoTitle

    あのサンタが本物かどうかは疑わしいですが、あまり、良い子の夢を叶えてくれそうな感じはしませんよね^^

    夢を与えるサンタが、救世主を待ち望むという図が、なんだか悲しげでもあり。
    待ち望む・・・といのが信仰なら、やっぱりそれも悲しいものですよね。

    Re: ダメ子さん

    「人間は滅びると神様がお決めになったのなら、トータルで見ればそれがいちばん正しいことなんだよ」

    メリークリスマス(クリスマスだというのにわたしはなんてことを(笑))

    Re: miss.keyさん

    ライプニッツ先生だったら、神は最初から世界が最良最善の道をたどるように世界を作ったので、世界に邪悪があるのも、救われないような目に遭う人がいるのも、ポストが赤いのもカラスがカーと鳴くのも、すべて神の計画の一部であり、世界は最善の道を最短距離で進んでいるのだ、と答えるでしょうね。だから救世主が現れるのが遅いように見えても、これが「最善の世界」なのだからしかたないのであります。

    スピノザ先生だったら、「救世主が現れるというのは救世主が現れるということである」で終わらせていたと思います。神には意志も知性もないので目的がない。つくづくミもフタもない人だなあスピノザ先生(笑)。

    デカルト先生はよくわからん。

    Re: 火消茶腕さん

    そういう人はたぶん偽予言者。

    「わたしが預言者である」といって人を集めて金を集めて政治に食い込んで世界に覇権をとなえるやつは偽物だから注意しろ、と聖書もいってます。細かいいいまわしは違うけど大意はたぶんそうです。

    そう考えるとアイソン彗星がぶっ壊れてベツレヘムの星みたいに明るく輝かなかったのは神の配慮だったのかもしれん(笑)

    Re: かえるママ21さん

    わたしも信じたいです。(^_^)

    まあ、実際は、これまでの歴史の中に、救世主は百人単位でいたのではと思っています。

    そうでもなければ文明なんて分不相応なものを持たされた愚かな哺乳類が、五千年もそれを維持し伝えてきているわけがない。(笑)

    救世主なんてそんなもんじゃないかなあ。

    Re: ヒロハルさん

    本物であってほしいですね(^_^)

    でもあの言葉が真実でも、新生児が四十万人もいたら、その中から偽予言者と救世主とを見分けるのがもうたいへんでたいへんで(笑)

    Re: ROUGEさん

    実はわたしも(笑)

    というか文明が五千年も続いているのだから、二千年くらい前には救っておいてほしかったですな。(^_^;)

    NoTitle

    40万の子供達をそれぞれ救世主に担ぎ上げる団体同士の争いで大変な惨事に…?
    今度こそすばらしい救いが訪れるのですね
    メリークリスマス!

    救世主は何を以って救世とするのか

     こんにちは。
     救世主なるものはあらゆる宗教の必須アイテムの様ですが、はたして、彼らは誰をどの様にどうする事で救うのでしょうか。それが謎。弥勒菩薩の様に56億7千万年後の未来に現れて救ってやると言われてもねぇ、ぜんぜん嬉しくない。
     更に言うなら、神様は全知全能なのに、何故に人を『救う』必要が有るのでしょうか。つまり救わねばならない程に『苦しみを与える』のでしょうか。そもそも全知全能なら苦しみを与えずにおけば救う必要すらない。試練を与えられるのは人間がダメダメだから?だったらダメダメな人間創らなきゃ良いじゃん。
     更に更に、神様がその様に欠陥品として創った人間を救うのが救世主であると言うなら、救世主とは神様に逆らっとるとしか思えない。神様に逆らう存在・・・悪魔かい(汗。
     更に更に更に言うなら、聖書読むと、人間を虐殺している数は神様のが悪魔より数十倍も多いらしいぞ。おいおい、人間にとってどっちが害なんだよ。

     神の恩恵から見放された季節、草木は枯れ、作物は実らない季節。しかし、毎年此の時期になると赤い服を来た悪魔が人間の子供達に夢と希望を配って歩くのを神様は歯軋りして見ている。

       ・・・なんて考えるひねくれ者の私。

    NoTitle

    読ませていただきました。

    先例に従うなら母親は身に覚えのない妊娠をしている人で、生まれたら立派な星が輝き、三人の博士がわらわらと寄っていくでしょうから間違えようがないと思います。

    面白かったです。

    NoTitle

    ポールさん、素敵なお話ですよ。
    奇跡は存在するって、大人でも信じたいです。
    例え嘘でもなんでも信じたいものを信じる、でいいのだと思います。
    (さっきコメント消えてしまって(^_^;届くかな?)

    NoTitle

    バッドやダークとまでは行きませんが、
    「偽」って言葉がクリスマスに相応しくなかったような。笑。
    でも、じいさんはどこに消えたのでしょう。
    やっぱり本物?

    NoTitle

    救世主がこれから生まれるって
    何となく愉しみなような
    ちょっと遅いような(^^;
    だってその子が世界を救えるようになる頃には
    私はお婆ちゃんだもの。
    いますぐ救ってほしいわ~

    Re: カテンベさん

    クリスマスだから、全人類を平和に導く存在を書きたかったのです。

    そういう存在ならば水木しげる先生の「悪魔くん」でもよかったのですが。

    というよりわたしのアイデアの枯渇ですね。あちゃ(^_^;)

    Re: LandMさん

    メリークリスマス!

    外国の飲み屋でのどんちゃん騒ぎをイメージして書きましたが、たしかに静かなバーでひとり飲むには邪魔っけですなサンタ(^_^;)

    人情噺を書きたかったのですがどれもこれも前例があるような気がして、こんなムチャなSFになってしまいました。

    来年はハートウォーミングを書きたいであります。

    偽預言者とホンマもんの区別がつかないならホンマもんかて役立たずなもんちゃうのん?
    預言者いうても、モーゼとかノアみたいに、ついてくる一部のもんしか救えないというか、他は知らん、てなもんになるやろし、増えすぎた人を減らしたろー、てなのが神の計画なのかもしれへんなー、なんて思えてまうわ〜
    天国ええとこ、てことになってんねやろからそれでもええやん、てなもんかもしれへんなぁ

    NoTitle

    いくら私が酒好きでバーの常連と言っても、
    クリスマスにサンタの服装でやってきたら追い出しますよ。。。
    いや、私にそんな権限はないですけど。
    ストイックな私はメリークリスマスは多くの人が過ごせるようにと祈りながら一人で飲みます。…相手がいないときは。


    メリークリスマス!!
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【洋画裏ベスト10「センチネル」】へ
    • 【剣と魔法の国の伝説 プロローグ・その1】へ