「ショートショート」
ユーモア
夢占い師
「あの~、夢を占ってほしいんですけど」
裏通りに面したマンションのドアを開けて入ってきた大学生風の若者の声に、夢占い師の助手は顔を上げてほほえんだ。
「いらっしゃいませ。初夢ですし、気になるでしょうね。就職活動を控えてらっしゃるんでしょう?」
「……ええ。まあ、そういうところで。ブラックにはひっかかりたくないんですよ」
「でしょうねえ。ああ、先生はこちらです」
助手はほほえみを浮かべたまま、腹の底ではそろばんをはじいていた。就職活動に悩む若者か。カモだ。口当たりのいいことを並べて、最後に不安になることをちょっぴり。そのさじ加減さえうまくできれば、簡単にリピーターになってくれるだろう。姉はそういうことはうまいのだ。
「先生、こちらの学生のかたが」
「お座りください」
真っ暗な部屋に、ぽつんとろうそくの灯りがあった。その奥には、サリーをまとった夢占い師が座っているという寸法だ。サリーにしているのは、神秘的に見える以前に、いったん着かたさえ覚えてしまえば、体型が変わろうがどうなろうが、いっさいお構いなしに着られるという経済的な理由もあるのであった。
「あの、えーとですね」
「……ガガラに関する夢ですか?」
「えっ」
若者はびくっとしたようだった。それ以上にびくっとしているのは、助手のほうであった。なんなのだガガラって!
「いえ、ぼくが見た夢は、富士山に鷹が舞っている夢なんですが」
吉夢じゃないか。ど真ん中直球の吉夢だ。正月早々ラッキーな……。
「富士山の色は金色をしていたんですね」
「いえ、普通の青と白ですよ。金色だなんてそんな」
「鷹には三つの目と七つの足があり、それが王冠をかぶった男の生首をつかんで」
「いませんっ! 普通の鷹ですっ!」
「小麦五合は一デナリ、大麦一升五合は一デナリなり、油と葡萄酒をそこなうな……」
「なにをいっているんですか!」
「……解けました。ヒアデスが天空に輝くとき、六つの都市と六つの村と六つの家が海より来るものに呑まれ、緑色の火が大陸を包みます。そしてそのときこそ、ゲベラがババグロイとなりヘルブハボレスなのです」
「なにいってるんだか、さっぱりわかりません! 帰ります!」
若者は憤然として帰っていった。助手はしばらく呆然としていたが、やがて姉に食って掛かった。
「姉さん、なにやってるのよ! せっかくのカモを! いったい自分がなにをいったのか、わかってるの?」
夢占い師は首を振った。
「わかるわけないじゃない、あんなこと」
「じゃあなんであんなことをいったのよ! あたしにもわかる理由がなくちゃ、コンビ解消するわよ!」
「理由は簡単よ」
「どんな!」
夢占い師は笑った。
「今日、ああいう客が来てああいうことをいうから、それに対してはこのように答えろと、夢でお告げがあったのよ」
「…………」
姉はおかしくなってしまったのだろうか。それともこれはほんとうの予知夢なのだろうか。もしかしたらこの世界では、水面下でとんでもないことが進行中なのかも……。
助手は少し不安になり、待合室のテレビをつけた。
テレビはいった。
「臨時ニュースを申し上げます」
裏通りに面したマンションのドアを開けて入ってきた大学生風の若者の声に、夢占い師の助手は顔を上げてほほえんだ。
「いらっしゃいませ。初夢ですし、気になるでしょうね。就職活動を控えてらっしゃるんでしょう?」
「……ええ。まあ、そういうところで。ブラックにはひっかかりたくないんですよ」
「でしょうねえ。ああ、先生はこちらです」
助手はほほえみを浮かべたまま、腹の底ではそろばんをはじいていた。就職活動に悩む若者か。カモだ。口当たりのいいことを並べて、最後に不安になることをちょっぴり。そのさじ加減さえうまくできれば、簡単にリピーターになってくれるだろう。姉はそういうことはうまいのだ。
「先生、こちらの学生のかたが」
「お座りください」
真っ暗な部屋に、ぽつんとろうそくの灯りがあった。その奥には、サリーをまとった夢占い師が座っているという寸法だ。サリーにしているのは、神秘的に見える以前に、いったん着かたさえ覚えてしまえば、体型が変わろうがどうなろうが、いっさいお構いなしに着られるという経済的な理由もあるのであった。
「あの、えーとですね」
「……ガガラに関する夢ですか?」
「えっ」
若者はびくっとしたようだった。それ以上にびくっとしているのは、助手のほうであった。なんなのだガガラって!
「いえ、ぼくが見た夢は、富士山に鷹が舞っている夢なんですが」
吉夢じゃないか。ど真ん中直球の吉夢だ。正月早々ラッキーな……。
「富士山の色は金色をしていたんですね」
「いえ、普通の青と白ですよ。金色だなんてそんな」
「鷹には三つの目と七つの足があり、それが王冠をかぶった男の生首をつかんで」
「いませんっ! 普通の鷹ですっ!」
「小麦五合は一デナリ、大麦一升五合は一デナリなり、油と葡萄酒をそこなうな……」
「なにをいっているんですか!」
「……解けました。ヒアデスが天空に輝くとき、六つの都市と六つの村と六つの家が海より来るものに呑まれ、緑色の火が大陸を包みます。そしてそのときこそ、ゲベラがババグロイとなりヘルブハボレスなのです」
「なにいってるんだか、さっぱりわかりません! 帰ります!」
若者は憤然として帰っていった。助手はしばらく呆然としていたが、やがて姉に食って掛かった。
「姉さん、なにやってるのよ! せっかくのカモを! いったい自分がなにをいったのか、わかってるの?」
夢占い師は首を振った。
「わかるわけないじゃない、あんなこと」
「じゃあなんであんなことをいったのよ! あたしにもわかる理由がなくちゃ、コンビ解消するわよ!」
「理由は簡単よ」
「どんな!」
夢占い師は笑った。
「今日、ああいう客が来てああいうことをいうから、それに対してはこのように答えろと、夢でお告げがあったのよ」
「…………」
姉はおかしくなってしまったのだろうか。それともこれはほんとうの予知夢なのだろうか。もしかしたらこの世界では、水面下でとんでもないことが進行中なのかも……。
助手は少し不安になり、待合室のテレビをつけた。
テレビはいった。
「臨時ニュースを申し上げます」
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Re: 西幻響子さん
占星術は本来、「洪水が起きる」予兆として星を見ることから始まった、と、大学の時の科学哲学の講義で教わった覚えがあります。だからたいていは「凶兆」なんですよね(^^;)
「凶兆」を得意とする占い師と、「吉兆」を得意とする占い師の2パターンがあるんじゃないかなあ。不幸な予言ばかりして、当たらないと「ああよかった」と思わせて金を取る宜保愛子的な占い師と、幸運な予言ばかりして、客をいい気持ちにして金を取る某氏みたいな占い師と……。
まあ神社に毎年おみくじの代金を奉納しているわたしがいうのもなんですけども(笑)
「凶兆」を得意とする占い師と、「吉兆」を得意とする占い師の2パターンがあるんじゃないかなあ。不幸な予言ばかりして、当たらないと「ああよかった」と思わせて金を取る宜保愛子的な占い師と、幸運な予言ばかりして、客をいい気持ちにして金を取る某氏みたいな占い師と……。
まあ神社に毎年おみくじの代金を奉納しているわたしがいうのもなんですけども(笑)
わはは、面白かったです。
西幻は今年は初夢は見なかったです。
星占いは大好きなんだけど、夢占いはあんまり信用しません。いい夢を見てせっかくいい気分になっても、『それは悪いことが起こる予兆』とか言われちゃいますからね、夢占いは ^^;
西幻は今年は初夢は見なかったです。
星占いは大好きなんだけど、夢占いはあんまり信用しません。いい夢を見てせっかくいい気分になっても、『それは悪いことが起こる予兆』とか言われちゃいますからね、夢占いは ^^;
Re: マーサさん
ドラクエはよく知りませんが、その二人の出てくるえっちなブログ小説なら(゜゜☆\(^^;)
占い師は、そうとう度胸がないと務まらないですね。少なくともわたしには無理だな。演技派じゃないと。踊り子もそうですが……。
ちなみに占い師ネタで一番笑ったのは、後藤寿庵先生のファンタジーギャグ漫画に出てきた、
「西へ行きなされ」
「よーし行くぞ!」
「くくく……バカめ」
「姉さん、客が帰った後、意味ありげに『バカめ』って笑うクセ、やめたら?」
というやりとりであります(^^)
占い師は、そうとう度胸がないと務まらないですね。少なくともわたしには無理だな。演技派じゃないと。踊り子もそうですが……。
ちなみに占い師ネタで一番笑ったのは、後藤寿庵先生のファンタジーギャグ漫画に出てきた、
「西へ行きなされ」
「よーし行くぞ!」
「くくく……バカめ」
「姉さん、客が帰った後、意味ありげに『バカめ』って笑うクセ、やめたら?」
というやりとりであります(^^)
Re: 山西 サキさん
わけのわからない占いといえば、昔ゲーセンに「ラブ・フォーチュン」という百円の占い機がありまして……占った結果をプリントアウトしてくれるのですが、その中に「幸運を呼ぶニックネーム」というものがありまして、はっきりいって意味不明なカタカナの羅列が並んでいたのであります。「スノオマンガイ」とか(実話)
なんか見てはいけないものを見たような、面白がってはいけないけれど笑ってしまうような、そんな変な感覚にとらわれたものであります……。
なんか見てはいけないものを見たような、面白がってはいけないけれど笑ってしまうような、そんな変な感覚にとらわれたものであります……。
Re: ゆういちさん
あけましておめでとうございます。
わたしは宝船の画像をダウンロードして枕の下に敷いて寝ました。
初夢を見ましたが、どう解釈していいかわからない夢でした。
吉夢なのか凶夢なのか……。
ちなみに神社で引いたおみくじは「小吉」(^^;)
わたしは宝船の画像をダウンロードして枕の下に敷いて寝ました。
初夢を見ましたが、どう解釈していいかわからない夢でした。
吉夢なのか凶夢なのか……。
ちなみに神社で引いたおみくじは「小吉」(^^;)
なんかドラクエ4のミネアとマーニャみたいですね
そういえば、ドラクエ6には夢占い師がいましたね。
なのに、ダーマ神殿の職業にないのはなぜだ。
そんなわけで(どんなわけだ)、今年もよろしくお願いしますです。
なのに、ダーマ神殿の職業にないのはなぜだ。
そんなわけで(どんなわけだ)、今年もよろしくお願いしますです。
NoTitle
あけましておめでとうございます。
新年早々来ますねぇ。
なにが起ころうとしてるんでしょう。
商売を無視した意味の分らない占いって不気味で恐いです。
特に占い師や作者をよく知っている者にとっては。
新年早々来ますねぇ。
なにが起ころうとしてるんでしょう。
商売を無視した意味の分らない占いって不気味で恐いです。
特に占い師や作者をよく知っている者にとっては。
あけおめです~
今年もよろしくお願いいたします!
今年の初夢は……会社で働く夢でした。
現実的すぎてなんだかな~31日に見た夢の方が意味深な内容でよかったです。途中で終わったからそのあとのストーリーが気になるけど
今年の初夢は……会社で働く夢でした。
現実的すぎてなんだかな~31日に見た夢の方が意味深な内容でよかったです。途中で終わったからそのあとのストーリーが気になるけど

- #12456 ゆういち
- URL
- 2014.01/03 22:18
- ▲EntryTop
2014年、とうとう黙示録の予言が現実になるのかっ!?なんということだ、ついにゲベラがババグロイに?…もうおしまいだぁ!
我々にどこに逃げろと言うのか!?
我々にどこに逃げろと言うのか!?
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Re: ヒロハルさん
次に書くのは……やっぱりブラック?(^^;)